災害派遣で被災地入りした自衛隊員の一番の「苦悩」とは?
―[自衛隊ができない100のこと/小笠原理恵]―
その65 災害派遣で自衛隊が困っていること
◆災害派遣時の自衛隊員の「休養状況」は改善されたか?
令和元年も自衛隊は台風や豪雨、山林火災、はては豚コレラの対処にまで東奔西走しています。東日本大震災以降、自衛隊への災害派遣出動要請が一般化している様子は、防衛省の災害派遣ページの実績数でも一目瞭然です。度重なる災害派遣により、自衛隊が国民に信頼される好感度の高い組織になったことは間違いないでしょう。しかし、災害派遣に充てた時間の分だけ、自衛隊の本来やるべき訓練や演習の時間が削られていることは頭の隅に置いておかねばならないと思います。自衛隊はあくまでも国を守るための組織です。災害派遣への対処に感謝しつつ、その能力が損なわれないように予算や人員、法令の問題を監視したいものです。
以前、この連載で災害派遣時の自衛隊員が寝具もないところで雑魚寝をしている状況をリポートしましたが、その後、防衛閣僚や自衛隊TOPが動いて派遣自衛官の休息用に多数のエアマットが調達されました。夏場の災害派遣で熱中症を発症した現場もあったため、冷風機も購入されました。休養が取れる環境はかなり改善されつつあります。
インスタグラムやツイッターで、災害派遣で疲れ果てた自衛隊員が見えないところで休息している画像が話題となっています。「自衛隊さんに感謝です」とか「こんなに疲れ果てさせていいのだろうか」「感謝で涙が止まらない」といったコメントを見かけました。災害派遣時だけでなく、自衛隊員や警察官、消防、公務員などは、休息を取っていると非難され、時には通報されることすらあります。
自衛隊員も人間ですから、肉体作業が続いて疲れ果てると体が重くぐったりして、眠くなることもあるでしょう。冷房のない蒸し暑い自衛隊車両の中で汗だくになりながら眠っても疲れは取れません。疲れ果てた自衛官が人目のつかない日陰で休んでいるときは、どうかそっとしておいてあげてください。「サボってる!」と言わないでほしいです。
◆被災地入りして一番困るのは「トイレ問題」
エアマットが調達され災害派遣時の雑魚寝問題は改善されつつありますが、災害派遣から帰ってきたばかりの自衛官に「今、何が困りますか?」と聞いてみました。
ここでもトイレが問題となるようです。自衛隊は屋外設置型の簡易トイレを持っています。予算があれば簡易トイレをリースすることもできます。でも、移動しながら救助や捜索をする場合にはトイレを持ち歩けません。あの分厚い迷彩服を着たまんまの重労働ですから、水分は大量発汗で消え、「小」はほとんど出ないようです。しかし、「大」のほうは抑えられません。最近では「缶飯」は姿を消し、「パック飯」と呼ばれる「糧食Ⅱ型」のレトルトパウチ包装のご飯やおかずが支給されています。さらに野菜ジュースやカップ麺などの増加食もあります。肉体労働には高カロリーが必要なのでたくさん食べないと力が出ないのです。するとね。自然が呼ぶわけです……。え? 「大」ですよ。「大」。
迷彩服を着ているとそれだけで目立ちますから、被災者がいる避難場所やコンビニなどの商店で簡単にトイレを借りるわけにもいかないようです。
自衛隊や消防、警察、公務員などが災害派遣の現場で店に立ち寄ると、たちまち写真を撮られて「サボっている」と糾弾されます。結果、トイレ問題をどう処理しているのかを書くことは自粛しますが、困っていることは容易に想像できますよね。
「災害派遣で自衛隊は必要なものを自分で運んでくる」という神話がありますが、それは現地で気軽にコンビニに入ったりできないからです。買い物はできないから何もかも持ち歩かないといけないと自衛隊員は考えます。「バンドエイドがほしい」とか「靴下が汚れて替えが一つもない」というようなとき、コンビニで買い物したくても、人の目があるから我慢しているわけです。もちろん、地震や豪雨災害で交通インフラが完全に途絶えて、物資が不足するような被災地での買い物は遠慮すべきです。が、豚コレラや停電、断水の現場ではそういった物資は普通にあったはずです。そういうときは自衛官もコンビニに寄ってもいいのではないでしょうか? 疲れたときは甘いものがほしくなるんですよ。旧日本軍でももっとも喜ばれた補給物資は「ようかん」でした。スイーツを買えたら自衛官だって嬉しいと思いますよ。
その65 災害派遣で自衛隊が困っていること
◆災害派遣時の自衛隊員の「休養状況」は改善されたか?
令和元年も自衛隊は台風や豪雨、山林火災、はては豚コレラの対処にまで東奔西走しています。東日本大震災以降、自衛隊への災害派遣出動要請が一般化している様子は、防衛省の災害派遣ページの実績数でも一目瞭然です。度重なる災害派遣により、自衛隊が国民に信頼される好感度の高い組織になったことは間違いないでしょう。しかし、災害派遣に充てた時間の分だけ、自衛隊の本来やるべき訓練や演習の時間が削られていることは頭の隅に置いておかねばならないと思います。自衛隊はあくまでも国を守るための組織です。災害派遣への対処に感謝しつつ、その能力が損なわれないように予算や人員、法令の問題を監視したいものです。
以前、この連載で災害派遣時の自衛隊員が寝具もないところで雑魚寝をしている状況をリポートしましたが、その後、防衛閣僚や自衛隊TOPが動いて派遣自衛官の休息用に多数のエアマットが調達されました。夏場の災害派遣で熱中症を発症した現場もあったため、冷風機も購入されました。休養が取れる環境はかなり改善されつつあります。
インスタグラムやツイッターで、災害派遣で疲れ果てた自衛隊員が見えないところで休息している画像が話題となっています。「自衛隊さんに感謝です」とか「こんなに疲れ果てさせていいのだろうか」「感謝で涙が止まらない」といったコメントを見かけました。災害派遣時だけでなく、自衛隊員や警察官、消防、公務員などは、休息を取っていると非難され、時には通報されることすらあります。
自衛隊員も人間ですから、肉体作業が続いて疲れ果てると体が重くぐったりして、眠くなることもあるでしょう。冷房のない蒸し暑い自衛隊車両の中で汗だくになりながら眠っても疲れは取れません。疲れ果てた自衛官が人目のつかない日陰で休んでいるときは、どうかそっとしておいてあげてください。「サボってる!」と言わないでほしいです。
◆被災地入りして一番困るのは「トイレ問題」
エアマットが調達され災害派遣時の雑魚寝問題は改善されつつありますが、災害派遣から帰ってきたばかりの自衛官に「今、何が困りますか?」と聞いてみました。
ここでもトイレが問題となるようです。自衛隊は屋外設置型の簡易トイレを持っています。予算があれば簡易トイレをリースすることもできます。でも、移動しながら救助や捜索をする場合にはトイレを持ち歩けません。あの分厚い迷彩服を着たまんまの重労働ですから、水分は大量発汗で消え、「小」はほとんど出ないようです。しかし、「大」のほうは抑えられません。最近では「缶飯」は姿を消し、「パック飯」と呼ばれる「糧食Ⅱ型」のレトルトパウチ包装のご飯やおかずが支給されています。さらに野菜ジュースやカップ麺などの増加食もあります。肉体労働には高カロリーが必要なのでたくさん食べないと力が出ないのです。するとね。自然が呼ぶわけです……。え? 「大」ですよ。「大」。
迷彩服を着ているとそれだけで目立ちますから、被災者がいる避難場所やコンビニなどの商店で簡単にトイレを借りるわけにもいかないようです。
自衛隊や消防、警察、公務員などが災害派遣の現場で店に立ち寄ると、たちまち写真を撮られて「サボっている」と糾弾されます。結果、トイレ問題をどう処理しているのかを書くことは自粛しますが、困っていることは容易に想像できますよね。
「災害派遣で自衛隊は必要なものを自分で運んでくる」という神話がありますが、それは現地で気軽にコンビニに入ったりできないからです。買い物はできないから何もかも持ち歩かないといけないと自衛隊員は考えます。「バンドエイドがほしい」とか「靴下が汚れて替えが一つもない」というようなとき、コンビニで買い物したくても、人の目があるから我慢しているわけです。もちろん、地震や豪雨災害で交通インフラが完全に途絶えて、物資が不足するような被災地での買い物は遠慮すべきです。が、豚コレラや停電、断水の現場ではそういった物資は普通にあったはずです。そういうときは自衛官もコンビニに寄ってもいいのではないでしょうか? 疲れたときは甘いものがほしくなるんですよ。旧日本軍でももっとも喜ばれた補給物資は「ようかん」でした。スイーツを買えたら自衛官だって嬉しいと思いますよ。