パンドラズ・アクターの冒険   作:kirishima13

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第15話 従業員募集(リクルート)

 ルプーはサキュロントに案内されるがままに怪しげな建物に入り、地下への階段を降りるとされるがままにそこにあった牢獄へと投獄された。そして鍵がかけられる。

 一切抵抗らしい抵抗もしないその様にサキュロントも戸惑う。

 

「おい……おまえさぁ……ちょっとは抵抗を……いや、まぁいいか……。ここで待っておけ」

「ここで待ってればモモンガ様の情報を持ってる人に会えるっすか?」

「……」

 

 サキュロントはここまでされてそれを信じているメイドの能天気さに頭がかゆくなる。

 

「ああ、そうそう。待ってればきっと来る来る。じゃあな、俺の役割はここまでだ」

 

 騙されて娼婦にされる女を不憫に思わないでもないが、こんなことは八本指の中では日常茶飯事だ。騙されるのが嫌なら騙す側になったほうがいい。サキュロントは背を向けるとその場所から立ち去った。

 

 

 

 その場に残ったルプーは周りを観察する。

 牢の中は広く、複数のベッドが置かれている。中には大勢の女たち。その誰もが不健康そうな顔色をしており、誰も一言も発しない。牢は頑丈に作られており囚われている女たちでは壊すことは不可能だろう。 

 ルプーなら壊すことなど造作もないが、万が一の可能性を信じて待つことにした。そしてそこにあったベッドに腰を掛けるとズルリと落ちるような音がする。

 

「ううっ……」

 

 倒れたのは青い瞳と金色の髪を持つ女だ。美しい外見をしていたのだろうが、今は人であるかどうかさえ判別の難しい状態だ。体中があざだらけであり顔は殴られたのかボールのように晴れ上がっている。

 ルプーとしては人間の女がどうなろうと知ったことではないが、その顔に既視感を覚える。

 

「ん~……?どっかであったっすか?」

「……すけ……て」

「なんっすか?もうもうちょっと大きな声で言ってほしいっす」

「たす……けて……」

 

 どうやら女は助けを求めているらしい。ルプーは顎に手を当てて考える。この女を助けるのにメリットがあれば助けるのもやぶさかではない。

 

「なんでこんなことになってるっすか?」

「……」

 

 女はもはや弱りはて唇がわずかに動くがそれ以上話せないほど衰弱しているようだった。ふと、他の女に目を向ける。

 

「ひぃ!な、なん……ですか!?」

 

 女たちはひどく怯えきっており部屋の隅で体を震わせる。

 

「ここどこっすか?ここで何をしてるっすか?モモンガ様のこと知ってるっすか?」

「こ、ここは……違法な娼館で……私たちは浚われて……奴隷みたいに……働かされて。……ううっ……」

「モモンガ様のことは?」

「知らない……何も……知らない……」

 

 誰に聞いても帰ってくる返事は同じ。彼女たちに聞いたところによると浚われて奴隷のように扱われているとのこと。皆身寄りもなく、誰の助けも期待できない。しかもそれは本来違法であり、ここはそんな違法娼館であるらしい。

 つまり彼女たちを誰のものでもなく、連れだしたところで誰も困らない人間たちということだ。

 

(うん……店員が欲しいと思っていたところですし……丁度いいですかね)

 

 ここで女たちを助け、感謝と言う鎖で縛ればさぞかしいい働き手になることだろう。ルプーは床で倒れている女を見る。やはりどこかで会ったような気がする。

 

「助けてあげてもいいっすけど、有料っすよ?いいっすか?」

 

 ルプーがじっと見つめていると倒れている女はわずかに頷いたように思えた。

 

「では契約成立っす。馬車馬のように働いて返すっすよ!《大治癒(ヒール)》!」

 

 ルプーの職業(クラス)はクレリック。治癒魔法などお手の物だ。発動した瞬間、床に倒れていた女の傷は一瞬のうちに治り、そして目を覚ます。驚いたように手足を触り痛みがなくなったのを不思議がっている。

 

「さて、私はルプー。貴方の名前は何ていうっすか?」

「……」

 

 動転しているのか、言葉を知らないのか女は何もしゃべらない。ルプーはもう一度大きい声で聞きなおす。

 

「なーまーえー!教えてほしいっす!」

「ツ……ツアレ……です」

「ツアレっすね。ではさらさらっと……」

 

 ルプーはアイテムボックスから紙を取り出すとそれに文字を書いていく。突然現れてそして傷を治してくれた。そしてどこからともなく紙を取り出す目の前のメイドにツアレは驚きを隠せない。

 

「あなた……女神さ……ですか……」

 

 ツアレにはそうとしか思えなかった。突然領主に浚われて慰み者にされ、そして娼館へと売られ散々ひどい目にあってきた。泣いても叫んでも誰も助けてくれない。そしてこのまま苦しみながら死んでいくと思っていた。

 しかし、最後の最後に女神さまが現れてくれたのだ。

 

「違うっすよ。神とは至高の41人の御方々ことっす。私にとってはモモンガ様のことっすよ」

「モモンガ様……です……か」

「知ってるっすか?」

 

 ツアレは首を振る。ツアレにはもはや神も仏も信じられない。しかし、目の前の女神にも等しい人物ならば信じることが出来る。

 

「そっすか、残念っすね。じゃ、ここにサインするっすよ」

「これ……は?」

「借用書っすよ?お値段は傷を治すのに必要なポーション相当っすから適正っすよ?もちろん返済の手段は用意してるっす。うちの商店で働かないっすか?」

「……」

 

 この女神様はきちんと契約をしてくれるらしい。ここでは借金どころか何もかも奪われるのみだった。それに比べて先に怪我を治すという奇跡を与えてくれる神の慈悲深さに感謝するしかない。命の恩人として永遠に恩返ししなければならないほど感謝しているというのにそれを借金という形のあるものにしてくれたのだ。

 何も与えずに搾取だけするこの館の人間たちと比べると涙が出て来る。

 

 

 そこに書かれた労働の条件はツアレが常識を疑うほど良いものだった。休日や福利厚生等、聞いたこともない制度があり、衣食住は保証され、給金も悪くない。

 しかし、そんなことよりも少しでもこの感謝の気持ちを返せればと言う気持ちでツアレそれにサインする。

 それは他の奴隷たちも同じであった。怪我を治され、それに対する正当な報酬を求められる。その当たり前のことが本当にありがたい。

 こうしてここにいる女たちもすべてを治療して借用書と契約書を徴収するとルプーはそれをアイテムボックスへとしまう。

 

「あっはっは、これでお店も賑やかになるっすねー。いっぱい働いてもらうっすよー」

 

 そう言って目の前の可憐なメイドは軍帽へと手のひらを掲げ敬礼をしてくる。そのお茶目な姿に彼女たちは今の状況も忘れてクスリと笑ってしまう。そしてその美しさと凛々しさに彼女たちの口から自然と言葉がこぼれる。

 

「女神様……」

「女神様だ……」

 

 彼女たちの顔に自然に笑顔が浮かぶなどいつぶりだろうか。少なくともこの娼館に来てから笑ったことなど一度もなかった。しかし、目の前の希望はそれを取り払ってくれた。

 彼女たちは本当の女神に出会ったかのようにまぶしそうにルプーを見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 どれくらいの時がたったであろうか。しばらくしてコッコドールが牢屋の前へと現れる。

 

「あ~ら?大人しくしてるのね。それとも観念したのかしら?」

「モモンガ様の情報を知るまでは帰れないっすよ」

「うふふふふっ、まーだそんなこと言ってるのね。そんなの嘘に決まってるじゃない。ここに来るまでに暴れられたら面倒だからそういっただけよ。ほらこっちに来なさいな。気持ちよくなる薬話あげるわよ~」

 

 コッコドールは懐に手を入れると黒い粉の入った袋を取り出す。この粉こそ王国の闇で取引されている違法薬物『黒粉』だ。使用することにより快楽を感じるが非常に中毒性が強く、廃人になるまでやめることが出来ないという悪魔の粉だ。

 

「嘘っすか……まぁそんなことだとは思ってたすっけどね……」

「あら?じゃあなぜ素直についてきたのかしら?」

「そんなことは決まっているじゃないっすか……もしも、万が一でもここにモモンガ様のことが聞けると思ったら……そのご尊顔をほんの一目でも見ることが出来る可能性がわずかでもあるのなら……そのお声がほんの一言でも聞くことが出来る機会があるのであれば……例え嘘だと思っていても来ないわけにはいかなかったっすよ!」

 

 ルプーの放つ雰囲気が変わる。今までの飄々とした様子は失せ、その怒気を含んだその表情にコッコドールは一歩後ずさった。

 

「あら、怖い……。やる気?でもやめておいたほうがいいわよ。ここにはこわーい用心棒がいるんだから。六腕って言ってね八本指最強の部隊なのよ?」

「さっきのサキュロントって男もそうなんすか……?」

「ええ、でもよく分かったわね。でもそれがどうしたの?」

「彼は面白そうなマジックアイテム持ってましたからね……迷惑料代わりにもらうのも悪くないって思っただけ……。そうですね……ではあなたたち、八本指に決闘(PVP)を申し込むとしましょう!」

 

 ふざけた口調をやめ、先ほどとはうってかわり妖艶な顔でほほ笑むルプーにコッコドールは何故か寒気を感じる。柔らかそうな肌と細い腕のメイドにしか見えないのにこのプレッシャーは何なのだろうか。

 コッコドールはその不気味さに踵を返そうとしたとの時、牢の蝶番が吹き飛んだ。

 

「なっ!?」

「覚悟をするのですね……。この建物にあるすべての人間……すべての家具……すべてのマジックアイテム……すべての素材……そのすべてをいただきます!」

 

 逃げようとしたコッコドールはその声の恐ろしさのあまり振り向いたことを後悔した。そこには薄暗い室内に輝く黄金の目を持った化物が口からギザギザの歯見せながら笑っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 王都にある違法娼館。その1階の広間に八本指警備部門の部門長「闘鬼」ゼロを始め警備部門最強の六腕すべてが集まっていた。

 「幻魔」サキュロント 、「不死王」デイバーノック 、「踊る三日月刀」エドストレーム、「空間斬」ペシュリアン 、「千殺」マルムヴィストにゼロを加えた6人だ。

 

「ゼロ、何でここに来ている?俺を信用できなかったのか?」

 

 八本指奴隷部門の部門長、コッコドールの所有する娼館は多額の警備費用を見返りに六腕であるサキュロントを雇っていた。

 そしてコッコドールと言えども六腕すべてを雇うほどの金はないはずであり、ここにその全員がいる理由が見当たらない。

 

「面白い話を聞いて寄らせてもらったてな。何でも次期国王に捧げる女がいるらしいじゃねえか?」

 

 サキュロントはゼロの耳の速さに苦笑いを零す。

 

「そのとおりだが……いくらゼロでもその女に手を出すのはヤバいんじゃないか?」

「誰がそんな真似するか!金のにおいがするから来たんだ。その女は金になる。何が何でも守らなきゃならねえだろうよ。逃げ出されたり、誰かに奪われたりしたらどれだけの損害があるか分かったもんじゃねえ。何しろ次期国王のお気に入りだからな」

「な、なるほど……で、何しに来たんだ?」

 

 ゼロはサキュロントの察しの悪さに舌打ちをする。

 

「分からねえか!?これはコッコドールからさらに搾り取るチャンスだ。慎重なやつのことだ。俺らの2,3人くらい追加で雇うくらいするだろう。それくらいのビッグチャンスだろうがこれは」

「た、確かに……」

 

 次期国王にあてがう女の護衛。これを成功すれば国のトップともコネが出来る。そして弱みを握った八本指はそこからいくらでも搾り取れるというわけだ。これに乗り遅れるわけにはいかない。

 

「よし!じゃあさっそくコッコドールに……」

 

 サキュロントが地下への階段へと向かおうしたその時、ドーンという大きな音が響き渡る。

 

「おい、今のはなんだ?地下から聞こええたぞ!?サキュロント?」

「あ、ああ。今地下にはコッコドールと女たちがいるが……」

「ああ!?コッコドールはそこの部屋にいるんじゃねえのか!?護衛のお前が離れて何やってんだ!!」

「いや、待ってくれ!ゼロ!地下には非力な女しかいねえんだ!だから何も問題はない!ないは……ず?」

 

 物音に振り向くと地下への隠し階段が跳ね上がり、そこから見たことのある顔が登ってくる。

 

「ん?ここは一階っすね。あ、みんなはちょっと下で待ってるっすよー?《道具上位鑑定》!お、レアアイテム発見っすー」

 

 呑気な掛け声をかけて登ってきたのは軍帽を被った惚けたメイドだ。サンタクロースのパンパンに中身が詰まってた白い袋を担いでいる。何らかの魔法をゼロ達に放ったあと嬉しそうに破顔している。

 それを見てゼロがサキュロントを睨めつける。

 

「おい、あいつは何だ!?」

「あ、あいつが……次期国王のバルブロの気に入ってる女だ」

「なんで自由に歩き回っている!?コッコドールはどうした!?」

「わ、分からねぇ!」

 

 サキュロントには理解不能だった。コッコドールは女を解放するような甘いことをする男ではない。しかし、こんなか細い女が自力で逃げ出してきたとも思えない。地下には警備の男たちも複数いたのだ。

 混乱する六腕を嘲笑うようにルプーは指を曲げて挑発する。

 

「さぁ、決闘っすよ?とりあえず名前くらい聞いておくっすか?私はルプーっす」

「あ?聞いて驚け、俺の名は闘鬼ゼ……」

 

 一歩踏み出してきたゼロにルプーは拳を一振り。筋肉ダルマが天井に突き刺さった。

 

「何!?俺の名はペ……」

 

 ゼロがやられたことに動揺したペシュリアンが極細の斬糸剣を取り出そうとする間もなく横殴りに吹き飛ばされ壁に頭から突っ込む。

 

「お、俺はマ……」

 

 マルムヴィストは自慢のレイピアに手をかける間もなく顎を撃ち抜かれゼロの隣の天井へ仲良く突き刺さった。

 

「わしの名はデ……」

 

 不死王デイバーノックは幸か不幸か二つ名を知られることもなく頭を叩きつけられ床へと突き刺さる。

 

「あたしはエ……」

 

 三日月刀を操るエドストレームは相手を魅惑する舞踊を披露する間もなく殴りつけられた衝撃により天井、壁、床とボールのように跳ね回る舞踏を披露した後、白目を剥いて動かなくなった。

 

「お……」

 

 最後にサキュロントが一言も発することなく天井に突き刺さりすべてが終る。

 

「これで全員っすかね?さーてお仕事っすよみんな!」

 

 それを見ていたツアレは名乗れと言っておいてそれはどうなのと一瞬思ったが女神様がやることに間違いはないだろうと思いなおす。

 そしてルプーは債権者として新しく雇った従業員に仕事を与えた。この館のすべてを奪い去るのだ。地下から始まり、そして地上部へと虱潰しにすべてを奪っていく。

 倒れている八本指の者達からは衣服を剥いでは下着姿へと変えていき、集められたものはすべてアイテムボックスへと詰め込まれていく。

 それは衣服やマジックアイテムだけに限らない。椅子やテーブルどころか絨毯まで奪っていく様はまるで台風かイナゴの群れのようであった。

 

 

 

 

 

 

 蒼の薔薇は八本指の経営する違法娼館の前に立っていた。

 第三王女ラナーの依頼で八本指の拠点を一つずつ潰していた蒼の薔薇であるが、第1手として黒粉を栽培する拠点を潰し、そして現在は違法娼館の情報を得てそこを壊滅させるべく動いていたのだ。

 そこではあらゆる快楽が手に入ると喧伝し、誘拐した人間が死ぬまで娼婦として働かせ尊厳を奪い、暴力に恐怖を与え、最後には命までも快楽のために奪っていると聞く。さらに聞いたところでは軍帽をかぶったメイドがここへ連行されたという話さえ聞こえてきたのだ。

 

「まったく許せねえな……。行くぞ、ラキュース」

「ええ、こんなことはこれで終わりしましょう」

「これで麻薬部門に続き、奴隷部門も終わりだな」

「終わらせる……」

「許さない……」

 

 蒼の薔薇は覚悟を決め、娼館のドアを蹴破ろうとしたのだが……。

 

 ドア自体がなかった。

 

 それどころか窓もなければ窓枠もなかった。何もない。あるのは天井と床と壁のみであった。

 

「はぁ!?なんだこりゃ!?逃げちまったのか!?」

 

 逃げるにしても扉まで持っていく馬鹿がいるだろうか。別の可能性を考えようとするもこんなことをする理由が蒼の薔薇には全く思い浮かばない。

 しかしそんな馬鹿がいたのだ。イナゴのように館を荒らしまわったルプー一行はその建物ある家具やマジックアイテムどころかドアや窓、はては牢屋の鉄格子まで素材としてはぎ取っていたのだ。

 戸惑いつつも蒼の薔薇の5人がドアさえない建物に入ろうとしたその時、中から複数の人間たちが出て来た。

 蒼の薔薇は一斉に身構えるが、現れたのはみすぼらしい服を着せれられた女たち、そして軍帽を被った赤毛のメイドだった。

 

「「あーーー!!」」

 

 ラキュースとルプーがお互いを指を指し合う。

 かつて一昼夜に渡り暗黒魔導の限りを尽くす戦いを脳内で繰り広げ、いずれ闇を継ぎ真なる邪眼を覚醒するだろうと今絶賛ラキュースの脳内で活躍中の人物であった。

 

「ルプーさん!?捕まってたんじゃないですか!?」

「いやぁ、捕まってたっすけど逃げてきたっすよ。後何て言うか……従業員募集?」

「逃げて来たって……八本指の人たちは……?え?従業員募集って言いました今?」

 

 ふと床を見ると下着姿で転がっている人、人、人。その人相からカタギではないことが伺えるが、そんな人間がそこここにいることに気が付く。

 

「みんなおねんねっすね。ところで何しに来たっすか?ま、まさか!?娼館に私の初めてを買いに!?駄目っすよ!いやー、犯されるーっす!」

「ちょっ、何言ってるんですか!」

 

 ラキュースは慌ててルプーの口を押える。

 

「冗談っすよ。で、本当はなんなんすか?」

「八本指のアジトを潰しに来たんですよ。ここは違法娼館として人々をさらい酷いことをしているんです。だから……」

「いや、正直にいえよ。ラキュース。ルプーが攫われたと聞いて心配してきたってよ」

「ああ、そういえばそうだったな。メイドが連れ去られたと聞いて血相を変えて……」

 

 ガガーランとイビルアイの言葉にラキュースは慌てふためく。

 

「あーーー!違う!違うから!」

「ああ……そうなんすか。いやぁー貴方はお気に入りっすけどますます好きになっちゃったっすよ」

 

 妖艶な笑顔を向けるルプーに同姓であるラキュースでさえ顔が赤くなる。

 

「違いますから!あなたは私のライバルなんですから簡単にやられてしまっては困りますから!だからきただけです!さぁ!ここで出会ったことは私たちに流れる暗黒の血の運命(さだめ)です!やりますか!?」

 

 ラキュースはかつての血沸き、肉躍る闇の決闘(デュエル)を思い出し魔剣を構える。

 

「いや、まだ昼間っすから……それは今度にしておくっすよ」

「それってもう助けに来たって認めちゃってるじゃねえか。ツンデレってやつか?」

「言ってやるなガガーラン……」

「!?」

 

 ガガーランとイビルアイに突っ込まれますますラキュースは顔を赤くする。

 

「ところで……ここのやつらはお前たちがやったのか?」

 

 そんなまさかとは思いつつイビルアイが尋ねる。ここにはアダマンタイト級冒険者に匹敵する強さを持つ六腕がいるとの情報さえあったのだ。さすがに一人で何とか出来るとは思えない。

 ルプーはイビルアイの問いに顎に手を当て天を仰いだと思うと何かを閃いたように悪戯っぽく笑った。 

 

「ああ……そのことっすけどね……お願いがあるっす」


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