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竹宮ゆゆこのおすすめ作品5選! ハチャメチャ故に人間らしいキャラクター

突然だけど、竹宮ゆゆこ先生(以下、愛称のゆゆぽ)が好きだ。

初めて彼女の作品を読んだのは10年以上前になるけれど、未だに新作を店頭で見かけると飛びついてしまうし、表紙をめくる時にドキドキする。

竹宮ゆゆことは?

1978(昭和53)年生まれの女性小説家。東京都出身・在住。
2004年「うさぎホームシック」で小説家デビュー。
同作品はのちにシリーズ作品として「わたしたちの田村くん」(全2巻)となった。
2014年までライトノベル作家として電撃文庫で活躍したが、以降は一般文芸へと転向した。

ラノベ作家としてデビューした彼女が一般文芸に転向したのも、正解だと思っている。
というより、彼女は初っ端から文体こそライトではあったけれど、ストーリー展開や登場人物の心理描写はまるでライトではない。

だから『ゴールデンタイム』を読んでいるころから、「この人はいずれ一般に行くのかもしれない」という予感があった。

昨今のラノベ界隈では、きっともう彼女の作品は以前ほど受け入れられないのだろう。
とにかく主人公が満身創痍になるゆゆぽの作品など読んだ日には、心が死んでしまうかもしれない。

けれど一般文芸に転向しても、文体自体はライトのままだ。

コミカルにギャグを、時として重いストーリーを書いていくのがまたいい。

彼女は良くも悪くも「女性作家」の色が強く、その点において登場人物の心情(特に女キャラ)が理解できないという男性ファンの声をよく耳にする。

しかし「男に理解されない都合の良くない女性」というキャラクターも、妙にリアルできれいではなく魅力に思える。

さて、前置きが長くなってしまったけれど、今回はそんな彼女が書いた全9作(2019年9時点)の中から、おすすめの4作をランキング形式で紹介したい。

未読の人にも軽く読んでもらえるように、ネタバレは伏せてある。

※ 今回はいつもと文体を変えてお送りしています。

 

竹宮ゆゆこ作品一覧

ゆゆぽの刊行作品(小説)は、2019年現在9作品である。

竹宮ゆゆこ作品一覧

ライトノベル

  • わたしたちの田村くん(2005 電撃文庫)
  • とらドラ!(2006-2009 電撃文庫)
  • ゴールデンタイム(2010-2014 電撃文庫)

一般文芸

  • 知らない映画のサントラを聴く(2014年9月 新潮文庫)
  • 砕け散るところを見せてあげる(2016年6月 新潮文庫)
  • あしたはひとりにしてくれ(2016年11月 文春文庫)
  • おまえのすべてが燃え上がる(2017年6月 新潮文庫)
  • 応えろ生きてる星(2017年11月 文春文庫)
  • あなたはここで、息ができるの?(2018年10月 新潮社)

※ 「あなたはここで、息がてきるの?」はハードカバーで未文庫化

漫画原作(エバーグリーン)をやっているのはまだしも、エロゲライター(Noel)まで経験済な女性作家は珍しい。

エロゲ畑からのラノベ作家は、田中ロミオやヤマグチノボル、丸戸史明など実力者が多いのだが彼女もその一人だ。

しかし残念ながら、私はどちらの作品も目を通していない……。

デビュー作では人物名をタイトルに入れ、4文字タイトルがブームになったちょうどそのころに「とらドラ!」を連載していた。

ちゃっかり流行に乗っているのである。

それにしても一般文芸になってからは、タイトルが絶妙なきらめきを見せる時がある。

インパクトがあり、それでいてアホみたいに長くもない。

タイトルからは中身は想像できないし、作品の集大成としてのタイトルか? と訊かれるとちょっとよくわからないものもあるのだが、でもいい。

覚えていることができる、というのがなによりも重要なのだ。

余談だけど、私が一般文芸で特に心に残っているタイトルは村上龍の「限りなく透明に近いブルー」と、野崎孝(J・D・サリンジャー)の「ライ麦畑でつかまえて」

こんなにも美しいタイトルがほかにあるだろうか。本当に余談。

竹宮ゆゆこおすすめ作品ベスト5

5位 献身的な愛ゆえに 『あなたはここで息がきでるの?』

今のところ最新作。
文庫化しないので電子書籍で買った。

二十歳の邏々(ララ)は女子大生。SNS中毒。

アリアナ・グランデになりたくて、たっぷりのロングヘアと豊満な胸がチャームポイントで、自撮りで騒ぐ、つまりはありがちな女の子。

けれど今、死んでいる。いや、死にかけている。

倒れたバイクCB400の横で、脳みそも身体も裂けて弾けて、飛び出している。

自らの死を覚悟した瞬間から、”青春の繰り返し”は始まった。

何度も、何度も邏々は繰り返す。

「愛する者の形」をした、正体不明の宇宙人と共に。

いつの時代も人気を誇る時間ループ小説。

ゆゆぽは冒頭からインパクトのあるシーンを入れることが多いけれど、中でもこれは最上級。

ぶっ飛び過ぎていて、ぶっちゃけ初っ端は意味不明。

読んでいて「なんなんだこの小説?」と首を傾げるほど、内容が頭に入って来なかった。

またループ系なため時系列がとびとびになることもあり、少々難解。

しかし邏々が死んだ理由、宇宙人の正体と思惑。
ラストに向かうにつれ霧のようにもやもやとしていた話が、ようやく掴めるようになってくる。

わかったころにはあっという間にラスト。
とにかくラストが面白かった。

子供っぽいワガママや不安定さを卒業できない邏々が、繰り返した青春の果てに選ぶ未来。その時の彼女の気持ちを想像すると、思わず泣けてしまう。

意味不明だった冒頭も、すべてを知ってから読むと印象が変わる。
ぜひ2度読んでもらいたい物語である。

4位 こんな大学生活が欲しかった! 『ゴールデンタイム』

ゆゆぽの2作目のアニメ化作品にして、(今のところ)最後のライトノベル。
ラノベで大学が舞台というのは冒険したな、と思う。

主人公・多田万里は記憶喪失。

高校の卒業式の日に事故に遭い、それまでの自分をなくしてしまった。

1年の浪人期間を経て都内の大学へ通うことになった万里は、入学式の日に同学部のイケメン・柳澤と意気投合する。

そんな2人の前に現れたのは、スタイルも服装も顔も完璧すぎる超絶美人な女学生・香子。

香子は柳澤の幼なじみにして婚約者(自称)にして、重度のストーカーだった!?

人生の『ゴールデンタイム』である大学生活を書いた、ドタバタラブコメディ。

ゆゆぽいわく、作品のコンセプトは「最大のライバルは自分自身。『ゴールデンタイム』で描かれているのは究極の自分自身との精神的な戦いであるのかもしれない。」とのこと。

読み進めていくうちに、この言葉の意味を痛感する。

とにかく「羨ましい!」この一言に尽きる作品だった。

読み始めた当時私はまだ浪人生で、大学生活に夢を見ていて、つまり憧れた。
こんな大学生活が自分にもやがて訪れるのだと信じていた。

現実とは非情なものである。

高校生にはない大学生のノリが、結構リアルに書かれていた。
いや、嘘をついた。多分リアルだと想像するだけで、私の大学生活とは全然違うから本当のところはわらない。

でも多分、都内の私立大学生ってこんな感じ。

どいつもこいつも痛々しくて、ゆえに必死さが伝わってくる。

途中迷走気味なところもあったが、読み終えるころにはスーパーサイコ香子のことが好きになっているはずだ。

ポンコツ女は可愛い。それに尽きる。

3位 逃げて、逃げて、逃げて。その先にあるものは……『おまえのすべてが燃えている』

不倫がバレて、包丁を持った女から追いかけられている二十六歳・樺島信濃。

社内恋愛の婚約者に捨てられ、ホステス、愛人。そして今は逃げている。

逃げた先でスポーツジムのアルバイトをしながら、貢がれたブランド品を売って細々と暮らしていた。

将来が見えない不安な日々のある日、弟が元恋人の醍醐とやってきて……

主人公の信濃があまりにあんまりな状態で、初っ端から面白い。

というよりすでにあらすじの時点で読みたくなる。

まるでこの世の闇を煮詰めたかのような生活に、思わず笑えてしまう。

そして信濃は言動がクズだ。
生き方も言葉遣いも、醍醐に対しての態度もよいものだとは決して言えない。

しかし彼女の人生の根源を知った時、信濃に大して抱いていた印象ががらりと変わる。

この物語は家族と、そして愛の物語である。恋愛的な愛というよりも、親愛に近かった。

信濃という女の人生を、追想していくような物語。

ゆゆぽ作品の中では最も静かで、一般文芸というか純文学的な色が強い作品である。

2位 抱えた痛みと再生と。 『応えろ生きてる星』

結婚を直前に控え、バーで飲んでいた会社員・廉次の元に彼女は現れた。

唐突に廉次にキスをした見知らぬ女は、謎の言葉を残し去っていく。

「あなたはいずれ、必ず、私のことを思い出す」

その直後、婚約者が男と駆け落ちをする瞬間を目にしてしまう廉次。

呆然とした廉次の前に謎の女は再び現れ、なぜか婚約者とのヨリを戻す協力をしてくれると言い出すが――

過去と痛み。

抱え続けたものと向き合う、再生の物語。

ゆゆぽは本当に掴みが上手い。

登場人物も序盤からキャラが立っているのに、しっかりと謎を残している。
だから読み進めてしまう。

この作品は、「自分は知らないのに、なぜか自分のことを知っている謎の女(朔)」が一体どういう人間なのかわからないままストーリーが進んでいく。

物語の進行と同時に新しい顔が見えて来て、キャラにさらなる愛着が持てた。

廉次と朔。二人が抱えている「痛み」が明らかになるにつれ、二十代の半ばはもう若くないのだな、ということを実感した。

何にでも挑戦できて、失敗してもまだ次があり、可能性に満ちていた時期は過ぎたのだと。

けれど読み終えた最後に感じたことは、人はいつだってやり直せるという月並みなことだった。

頑張ろう、と思わせてくれる作品だと思う。

1位 ゼロ年代最強のラブコメラノベ 『とらドラ!』

父親譲りの三白眼ゆえに、「ヤンキー」と恐れられている高須竜児は、その実普通の高校生。

2年生の春。親友の北村祐作や、以前から好意を寄せていた櫛枝実乃梨と同じクラスになれたことを喜んでいた。

そんな幸せはつかの間、ちっちゃいけれど凶暴なクラスメイト、“手乗りタイガー”こと逢坂大河の秘密を知ってしまう。

――北村祐作さまへ  逢坂大河より

中身のないラブレターを間違えて受け取ってしまった日から、竜虎の共同戦線は始まった。

お互いの恋を応援する。
二人の作戦は、やがて周囲を巻き込んだ大波乱を引き起こしていく。

甘くて苦くて痛々しい、超弩級ラブコメ。

そんなわけで1位は、ゆゆぽの代表作にして出世作『とらドラ!』
名作。マジで、名作。

とらドラ!嫌いな奴とは友達になれない、ってくらい自分の中では神聖化している。

どれくらい好きかと言えば、「とらドラ!」のアニメ放映中当時、リアルタイムで見てから夜が明けるまでにちゃんねる掲示板実況板と本スレに貼り付き、当然のように学校に遅刻するくらい好きだった。

ラノベでおススメなラブコメを訊かれたまず間違いなくこの作品を押すだろう。完結から約10年が経とうとしている、今なお。

まあ、テーマ自体はタイトルからもお察しのとおり、少女漫画お決まりのパターンというやつだ。

というよりこの作品は、ラノベには珍しい「少女漫画の作風をオマージュ」ということで当時話題になった。

もう今更こんなことはネタバレでもなんでもないから言ってしまうと、互いの恋を応援していたはずの二人が、最終的には結ばれる。

ベタすぎるベタ。

ただ、この作品のすごいところは決りきったラストに行くまでの過程、つまり想いが変化していく心理描写が恐ろしいほど繊細に書かれている。

主人公やヒロインが好きな人を乗り換える、という展開が許せない自分が、もう認めざるを得なかったのだ。

正直この作品品以外、その手の展開を私は認めていない!

読んでいた当時、彼らと同年代だったということもあるだろうが、泣きそうになるほど切実な彼らの想いを感じることができた。

ゆゆぽの真骨頂だ。

今でも私の中で、みのりんに匹敵するキャラはなかなか現れない。

もはやガチ恋に近かった。

どれくらい好きだったかといえば、これまた当時にちゃんねるにあった彼女のキャラスレの半分近くは私が立てていたくらい好きだった。

以降トラウマで、サブヒロインを一押しできない病気になってしまった。

まあそんなことはどうでもいいのだが、間違いなくラノベ界トップクラスのラブコメなので読んでもらいたい。

色褪せない名作である。

まとめ

痛々しくも人間らしいキャラクターたちが魅力の作品たち。

一般文芸に移ったことで登場キャラは高年齢かしたが、ゆゆぽの作品に合っている。

大人なのに総じて幼い思考に見えるが、ぶっちゃけ今の20代30代などガキみたいなものだ。
その点で、彼女の作品たちはリアルなのである。

2019年はまだ出版していないので、そろそろ新刊が出るのではないかと思う。

次はどんなストーリーで魅了してくれるのか、楽しみで仕方ない。