[香港 8日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 香港では4日、緊急時に行政長官が公共の利益のために必要な規制を制定できる「緊急状況規則条例(緊急条例)」が適用され、週末にデモ隊と警察が激しく衝突した。香港の金融に関して、警報器が大きく鳴り響いている状況だ。香港ドルを米ドルに交換する動きは既に出ている。対話を通じた解決への期待感が後退、人と資本の逃避につながっている。
香港は以前にも天災や金融上の危機に見舞われた経験はあるが、これまでは一定の回復力を示してきた。1997年にはアジア金融危機に耐え、香港ドルへの攻撃をうまくかわした。それでも、そのショックで香港はリセッションに陥り、2003年には重症急性呼吸器症候群の流行が同様の打撃をもたらした。住宅価格指数は1998年─2005年に30%程度下落した。しかし、香港はそのたびによみがえった。
今週末までは、香港市民の日常生活へのデモの影響は、比較的軽微なものにとどまっていた。市民らは普通に買い物をしたり、通学・通勤することができた。それがこの数日間に状況は様変わりした。
香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が緊急条例を適用し、デモ参加者がマスクなどで顔全体を覆うことを禁止する「覆面禁止法」を導入したことを受け、デモ隊はエスカレート。デモ隊は3連休だった週末に地下鉄駅やATM、本土企業の支店を破壊した。大規模なショッピングセンターや小売りチェーン、スーパーマーケットの多くは営業を停止したり、営業時間を短縮したりした。地下鉄運営の香港鉄路(MTR)(0066.HK)は5日に全線運休、現在も完全には正常化していない。
香港の市民たちは警戒感を強めている。営業している食料品店やATMの前には、長い行列が出来た。香港金融管理局(HKMA)は、紙幣の供給は十分な水準と発表し、不安がる市民らをなだめようとした。
リスクは不安心理が広がることだ。フィッチは香港の信用格付けを引き下げ、ゴールドマン・サックスは、この夏の間に40億ドルが香港からシンガポールに移動した可能性があるとの推計を発表した。8月のデータによると、香港ドル建て預金は前月比1.6%減少、米ドル建て預金は2.7%増加した。外貨準備は8月に160億ドル減少した。
人的資本も同様の道をたどるかもしれない。香港市民は地下鉄に強く依存しており、セキュリティー対策が一段と強化されれば、日常生活に支障が出る。海外から香港に赴任している企業幹部だけではなく、一般の市民の間でも、域外に流出する動きが加速しているもようだ。パニックボタンを押す人が増えれば、それに続く人も一段と増えていく。
●背景となるニュース
*香港行政長官は4日に緊急条例を適用、「覆面禁止法」を5日から導入すると表明した。長官は緊急条例について、当局は「どのような規制でも」導入することが可能になるとした。これを受けてデモが激化、警察と衝突した。[nL3N26P1UO]
*3連休の週末の間、デモ隊は中国銀行や中国人寿保険、シャオミなど中国本土系企業の支店を襲撃したほか、地下鉄駅でも破壊行為を行った。デモ隊はさらに、香港・九龍地区の中国人民解放軍(PLA)の兵舎に向けてレーザーを照射、PLAは警告を発した。[nL3N26R0G4]
*ショッピングセンターなどは営業時間を短縮。香港鉄路も全線運休を余儀なくされた。一部駅は8日も閉鎖が続いている。[nL3N26S0TF]
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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