台風や地震、洪水などの災害時に避難所へ向かう必要がある場合、ペットも「同行避難(飼い主が飼養しているペットといっしょに避難すること)」が原則とされ、愛猫を守るためには飼い主さんが猫用の避難用品も用意しておく必要があります。
そこで、避難用品について、環境省が作成した「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」や、これまでのペット防災に関する情報をふまえながら、「東京猫医療センター」院長の服部 幸先生にご意見をうかがいながらまとめました。
まず、↓環境省がまとめた「ペット用の備蓄品と持ち出す際の優先順位の例」です。
優先順位1 常備品と飼い主やペットの情報
● 療法食、薬
● フード、水(少なくとも5日分 [できれば7日分以上は望ましい] )
● 予備の首輪、リード (伸びないもの) ● 食器
● ガムテープ(ケージの補修など多用途に使用可能)
● 飼い主の連絡先とペットに関する飼い主以外の緊急連絡先・預かり先などの情報
● ペットの写真(携帯電話に画像を保存することも有効)
● ワクチン接種状況、既往症、健康状態、かかりつけの動物病院などの情報
優先順位2 ペット用品
● ペットシーツ ● 排泄物の処理用具 ● トイレ用品(猫の場合は使い慣れたトイレ砂) ● タオル、ブラシ ● おもちゃ ● 洗濯ネット(猫の場合)など
猫は体が柔らかく動きもしなやか。リードは、ベストタイプのハーネスに付けるのがおすすめ
避難するためのキャリーとケージも必要
上記のほか、避難するためのキャリーケースや、避難先での住まいとなるケージの用意も必要です。ペット用のケージは、ペット防災に力を入れている自治体などでは避難所に用意があるようですが、数が足りなくなる可能性もあります。基本は自分で用意しましょう。
重たいケージを最優先に持ち出すのは難しいので、まずは、折りたたみ式のソフトケージで対応する方法もあります。ケージに慣れていないと、避難先でのストレスが高くなるので、できればふだんの生活の中で慣れさせておきましょう。
区の防災訓練。「ケージは飼い主が用意しましょう」
折りたたみ式ソフトケージ(写真:Riepoyonn)
最優先は、療法食、薬、フード、水
持ち出す物は、人の分も含めて判断しなくてはならないので、優先順位は必ずしも上記の通りではありません。ただし、命に関わる療法食、薬、フード、水は最優先です。
そのほか、「どんなタイプがいいか」「どれだけ持ち出すか」に迷う方も多いと思います。以下に参考にしていただけそうな情報をまとめていきます。
持病がある猫の薬は、7日分くらい
大規模な災害では、動物病院も被害を受けている場合があり、薬を入手できなくなる可能性があります。持病がありふだんから薬を飲んでいる猫の場合は、予備で7日分くらいは準備しておきましょう。
ペット用の救援物資はすぐに届かない
かつては、持ち出し用のフードは「3日分」とよく書かれていましたが、近年の大規模災害の影響を受けて、環境省の推奨も「できれば7日分」となっています。
東日本大震災では、猫用のフードが3日で届かなかった例もありました。ペット車両が緊急車両として認められず、ガソリン不足も加わって救援物資がすぐに届かなかったという報告もあります。「猫用のフードは人のものよりも遅れる」可能性が高いと想定しておきましょう。
とくに療法食は、最近ではかかりつけの動物病院だけではなく、ネットやスーパーでも購入できますが、避難生活が終わっても入手しにくくなる可能性があります。備蓄しておきましょう。
フードは、少量・小分けのものが便利
持ち出すフードは、1kg以下の袋に入ったものや、小分けパックのものが便利でしょう。大きめの袋からファスナー付きのプラスチックバッグに分けて入れてもいいですが、備蓄時に酸化していると体調不良を招きますので、注意してください。
フードの量は、愛猫の体重と各フードパッケージの記載を参考に。たとえば、体重3〜4kgで1日にそのフードが65~80g必要という猫の場合、7日分で455〜560g。500g入りのパックがあればそれを1袋といった目安になります。
ウエットのおやつやフードで水分補給
最近は、直接与えられるウエットタイプのおやつも種類が増えました。器なしでも与えられ、災害時の水分補給にも便利です。中には、「総合栄養食(必要な栄養素が補える主食となるフード)」のおやつもあり、水分と栄養を効率よく摂取できます。
ウエットフードも、総合栄養食があります。缶詰は持ち出す際の荷物になるので、パウチがいいでしょう。
直接与えられるウエットタイプのおやつ
食事は、食用品ラップをかけた器にのせても
食器はステンレスや陶器が衛生的ですが、持ち出すことを考えると重さがネックです。折りたたみ式のシリコンの食器などもありますが、断水したら洗うための水も貴重です。その場しのぎの方法として、紙皿や、新聞紙などで作った箱をラップで覆ってフードをのせる、という手もあります。ラップや紙の誤食には注意してください。
紙の器にラップを敷いて。試しにドライフードにウエットをトッピング
食べ残し。そのままラップに包んで捨てられるので、器は汚れなし。
軽い器だと水はこぼれやすいので、裏面にテープを貼って固定しても
布テープがあると、避難所で何かと役立つ
テープは、段ボールで即席トイレや猫の隠れ家をつくったりと、避難先で手作りする際に何かと活用できるアイテム。最低限一つだけ持ち出すと想定した場合、おすすめは、手で裂ける布テープです。
コンパクトで貼っても剥がせる養生(マスキング)テープもフードの袋の開閉など幅広く使えて便利ですが、ケージの補強などには強度が不足する可能性があります。布テープが一つあれば、服か何かに何度か貼って剥がす、を繰り返すことで、粘着度を強粘着から中・弱粘着まで調節できるので便利です。
*テープに関しては、金巻とも子さん(NPO法人アナイス 理事)にアドバイスいただきました。
飼い主と愛猫の情報は、第三者にも伝えやすく
飼い主の連絡先や、愛猫の写真・ワクチン接種状況・既往症・健康状態等の情報は、健康手帳などにまとめておきます。それに加えて、たとえば避難所で、飼い主同士でお世話を分担する場合などを考えると、他の人と共有しやすいものもあったほうがいいでしょう。
リングを付けてペット用の非常用持ち出し袋やキャリーケースに付けておけば、そのままケージにも取り付けられます。これまでの大きな災害でも、猫は屋外での生活となった避難所が多くありました。もし濡れてもにじまないように防水対応されているといいでしょう。
環境省の資料を参考に、キャリケースに付けた例。100均で6個入りで買ったネームホルダーを使用
名刺を入れて胸につけるタイプの名札を活用。クリップ付き。リングは後付け
チャック付き整理パックに入れてみた例
スマホにも猫の写真データを入れておく
慌てて避難をし、持ち出せたのはスマホと財布くらいだったというシーンも想定できます。愛猫が行方不明になってしまった場合に備えて、スマホにも愛猫の写真データを入れておきましょう。スマホが充電切れになる可能性もあるので、プリントした写真は別に用意しておきます。
重たいトイレ砂は、流動的な対応を
猫によって好みが分かれる猫砂。紙砂タイプなら軽いですが、使い慣れている猫が多い鉱物系の砂は重さがあり、持ち出すのが大変です。最近では鉱物系に近い小さい粒で、軽量のタイプもあるので、慣れさせておいてもいいでしょう。
あるいは、シュレッダーにかけた細かい紙などをまとめて用意しておいても。避難先で新聞紙を細かくちぎったり、砂や土を活用するなど、流動的な対応も考えておきましょう。多くの人が集まる避難所では衛生面の配慮が必要です。処理方法も現場でよく相談してください。
ふだん使いのトイレ1つに、愛猫が好きな鉱物系+持ち運びしやすい軽い砂をブレンドで徐々に慣れさせる
トイレ容器は、折りたたみ式が便利
トイレ容器は、大きくて持ち運びが大変です。折りたたみ式のポータブルトイレを用意するといいでしょう。持ち出せなかった場合、段ボール箱にビニール袋を入れて簡易トイレを手作りする手もあります。
猫砂は、万が一のときに人の排泄にも使える
メーカーから推奨されているわけではありませんが、凝固力が高い猫砂や、吸水力が高いペットシーツは、万が一のとき、人の排泄にも活用できるようです。人の非常用トイレもありますが、断水が続いて使い切ってしまうことも考え、猫砂やペットシーツを多めにストックしておくと安心でしょう。
人のおしっこ1回量(目安200〜400cc)を想定。200cc水を砂にかけてみる
けっこうな大きさで、重い。筆者の家では亡くなった猫のトイレも非常用に残しています
持ち出し袋にまとめて、本当に持てるか確認を
持ち出す物を判断するには、家族形態、避難所までの距離、猫が何匹いるかなども考慮が必要です。とくに、抱っこが必要な小さいお子さんや、高齢者など補助が必要な方がいる場合は、最初に持ち出せる物は多くないでしょう。
そのときになって迷わないように人の物も含めた全体量を把握しておき、非常用の持ち出し袋にまとめて、実際に手に持ってみて重さを確かめておくといいでしょう。
監修:服部 幸先生(東京猫医療センター 院長)
(文/本木文恵)
取材日:2019年10月9日
服部 幸(はっとり・ゆき)
猫専門病院「東京猫医療センター」(東京都江東区)院長。
「SyuSyu CAT Clinic」で院長を務めたのち、アメリカのテキサス州にある猫専門病院「Alamo Feline Health Center」にて研修プログラム修了。2012年に東京猫医療センターを開院。2014年より「JSFM(ねこ医学会)」理事。所属学会は「ISFM international society of feline medicine」。