【資料写真】大阪高裁

【資料写真】大阪高裁

 給与が振り込まれた2日後に口座預金を差し押さえたのは違法だとして、野洲市の50代男性が国に対し、約2万4千円の返還を求めた訴訟の控訴審判決が10日までに大阪高裁であり、中村也寸志裁判長は一審判決を一部取り消し、国側に全額の返還を命じた。同種の訴訟に詳しい弁護士は「振り込み数日後の預金を財産ではなく給与とみなし、差し押さえを違法とした判決は全国初とみられ、画期的だ」としている。判決は9月26日付。


 「どうやって生きていけばいいんや」。原告の男性は、差し押さえられ、残高が0円になった自身の口座預金を見て絶句した。過去の事業の失敗で借金があり、所持金は財布に残った数千円だけになった。
 次の給料日まで苦しい生活が続き、友人に借金したり、白米と漬物だけの質素な食事を続けたりして、やりくりした。男性は「自分のようにレールを外れた人間を救うのが国ではないのか。今回の判決が同じ立場の人の救いになってほしい」と訴える。
 国税徴収法などの法律は、給与や年金、生活保護などの差し押さえを生活保障の観点から原則認めていない。しかし、銀行などの預金は「一般財産」とされ、差し押さえの対象になる。
 このため、「給与は振り込まれた瞬間、財産としての預金になる」という法解釈で、税務署や自治体が入金当日に「狙い撃ち」のように差し押さえることが全国で相次いできた。勝俣弁護士は「滞納者は生活が困窮している人が多く、実態に目を背けた法解釈で差し押さえることは、生存権を脅かすことになる」と話す。
 一方、2013年以降、入金当日の差し押さえを違法とする判決が全国で出始めた。さらに今回は、原告男性が入金額を一部引き出した後の預金も給与と同等と認め、差し押さえの違法性を指摘した。
 勝俣弁護士は「給与が預金になれば差し押さえるというのは常識的におかしい」とした上で、「今回の事例は氷山の一角で、泣き寝入りした人も多いだろう。判例が積み重なり、行政の現場に影響していくことを期待する」と強調した。