商業原稿やれよ……。
最終話のちょっと後。
まだザナックやジルクニフは来てません。
ラナーはまだ人間で、クライムと子作りしてる頃です。
ナザリック地下大墳墓。
第九層、モモンガの執務室。
主だった階層守護者やプレアデスらが集まる中。
男が一人
頭髪こそ復活していないが、彼の肉付きや顔色は十分に健康的だった。
「おお、かなり血色がよくなったではないか。レベリングもしてもらったが、状況はどうだ? 報告があるのだろう?」
「ははぁーっ、おかげさまで新たな呪文も多数習得し、独自の呪文も編み出しました!」
男――カジット・デイル・バタンデールが、ひれ伏した。
その姿に、媚びもへつらいもない。
絶対的な感謝と敬意が溢れている。
「ほう、独自の呪文! 教えてくれ、どのような呪文だ?」
取得呪文数では、ユグドラシルでも最多級だったモモンガ。
聞いたこともない呪文とあらば、今も好奇心が刺激される。
カジットやデイバーノックに、最も期待している分野なのだ。
「はい。母の蘇生において、まずは失われた母の霊魂を呼び出す必要があると感じました。よって、死者の霊魂を呼び寄せ、対話する第3位階呪文――〈
「具体的にはどんな効果だ?」
好奇心から身を乗り出す。
「は。死者の魂を肉体に呼び戻し、質問に答えさせる呪文です。腐敗していない遺体、少なくとも口が必要なため、遥か過去の霊魂を呼び戻すには至りませんが。呼び出した霊魂は基本的に下位霊体アンデッド。容易に支配し、秘密を――」
「なんだと!」
モモンガの目が紅い光を放った。
興奮からか、黒と紫の入り混じったオーラを放つ。
「も、もしやご無礼が……!」
「ご不快に思われたのでしたら、この男、処分いたしましょうか」
カジットが恐怖にうずくまり、控えていたナーベラルが殺意を見せる。
「いやいや、すまない。逆だ。お前たちも有用性は、わかるだろう?」
「ええ。これは画期的な情報収集手段だわ」
アルベドが笑みを浮かべ。
デミウルゴスとパンドラズ・アクターも頷く。
「ど、どういうことでしょう?」
「わからないかな、マーレ。これまでは殺してしまったり、勝手に死んでしまった場合……蘇生させた上、支配したり拷問したりしなければ、いけなかったろう?」
おかげで、情報を抱えたまま死者が出たら、様々な人員が呼ばれ、魔法やスキルを使う必要があったのだ。
「はい、いつもペストーニャさんかルプスレギナさんを……」
「だが、この呪文なら、頭部さえ残っていれば必要な情報を抜き出せる。とりあえず殺して首だけ保存しておき、必用な時に必用な情報を聞き出してもいい。不要な人間に餌をやる必要はなく、体はエントマたちが食べるのもいいね。蘇生と違ってレベルによる蘇生不可も起きない。実に画期的でありがたい呪文だよ!」
おずおずと聞くマーレに、嬉々としてデミウルゴスが説明する。
デミウルゴス自身、簡単に死に過ぎる人間には悩まされていた。
満面に笑みを浮かべた顔には、カジットへの感謝すら見える。
「あっ、じゃあうっかり殺しちゃっても大丈夫なんですね!」
「王国貴族ハ、スグ死ヌカラナ」
「それは助かるでありんす!」
王国貴族粛清や法国攻撃において、今まで“殺さないよう”かなりの注意を払って来た。
それでも、ショックやストレスで死ぬ者は少なくない。
ほんの少し、力を入れ過ぎて殺してしまう場合もある。
至高の御方が、それを叱ったり失望したりはしないが。担当者にとっては、己の至らなさ、情けなさとして、心を痛める要因なのだ。
そうして、即座に運ばれて来た貴族の死体により、御前実験が為された。
かつての王国貴族浄化初期、あっさりと死んで氷漬けにされていた死体だ。
「お前の名を言え」
『私はチエネイコ男爵、誇り高き王国貴族ですぞ』
「お前の望みを言え」
『ラナー王女を嫁に迎えて、七番目の六大貴族となるのです』
「お前の最も隠したい秘密を教えよ」
『バルブロ王子を八本指の娼館に連れて行き、黒粉の味を教えました』
「お前が最も愚かだと思う貴族を言え」
『バカの中のバカ、フィリップ。下級貴族の三男坊の分際で――』
長くなりそうなので、カジットは咄嗟に別の質問をする。
「魔法についてどう思う?」
『くだらん手品です。歴史ある貴族には通用しませんな』
効果時間が切れたか、間抜けに『な』で口を開けたまま死体は硬直した。
魔法で操られながらの最後の答えに、NPCらも笑いが漏れる。
「すばらしい! こんな漠然とした質問でも答えるのか!」
「当人ですから……ただ、本人の主観が混じり、偏見や嘘もそのままですので、ご注意ください」
モモンガの称賛に、カジットは恐縮する。
彼としては、あくまで母を蘇生させる前準備の――学術的価値はともかく、戦闘にも役立たない、評価されない呪文のつもりだったのだ。
パンドラズ・アクターが、拍手する。
「第3位階魔法なら、使い手も増やせるでしょうッ。これは各種情報収集や諜報活動、犯罪予防などなどッ! すっばらし~い、価値を持ちます!」
「ありがとうございます!」
遥か格上、神にも等しい者たちから誉めそやされ。
カジットとしては、それだけでも過大な褒美だ。
「カジットよ、よくやった! これは我らナザリックにおいて、画期的な呪文となるだろう! 有望な弟子、魔法職系の
「おお!」
カジットが、歓喜の色をさらに強める。
モモンガとしても、攻撃・防御・移動・探知などといったユグドラシルで既知の呪文より、この世界ならではの“便利”な呪文こそ高く評価している。
「そして、上位呪文を研究せよ! 遺体なしで霊魂を呼び出せれば、ホムンクルスやクローンの肉体を使って、疑似的な蘇生や不死化も可能となるだろう! お前の母の蘇生も叶うはずだ!」
「承知いたしました!」
遥か高みにありながら己を信じ、褒め、また生涯の目的を讃えてくれるモモンガに。
カジットは心酔しきっている。
有用性を証明し、狂信じみた忠誠を示す彼には、NPCらの目もやさしい。
「さて……カジット。お前は私の予想以上の成果を上げた。そして、私の言った通り、健康も取り戻しつつあるようだ。よって、お前に褒美を与えよう」
「ありがたき幸せにございます!」
額を床にすりつける。
「我らは多くの人間――王国貴族の犠牲者を
「なんと――! よ、よろしいのですか!」
それほどの褒美をもらえるほど、評価されるとは思っておらず。
カジットは喜びより、戸惑いの声をあげてしまう。
「よい。お前は己の有用性を証明した。今の命令を遂行するためにも、不死の肉体を得るべきだ。研究中に事故や病で命を落とされては、我らの喪失。この決定は、私自身のためでもある」
「おお……私如きをそこまで……もったいなや……!」
感涙するカジットに、NPCらも羨望の視線を送る。
狂人、悪人、背教者、利用物――過去のカジットに向けられた目は、そんなものばかり。
だが、今こそカジットは、遥か雲の上の存在に讃えられ、羨まれている。
法国の大神殿を消滅させ。
腐敗した王国を清めた神。
そう、まさに神によって、カジットが認められ讃えられているのだ。
事実、NPC全員が認める形、能力で成し遂げた功績で、彼はこの世界で初めて讃えらえた人間なのだ。
少なくともシャルティアやマーレにも褒められた人間は他にいない。
「
モモンガの手にいつの間にか現れた、神々しく輝く羽根が……カジットに差し出される。
「あ……あ……」
両手を差し出し、恭しく受け取れば、神聖な光が彼を包んだ。
母を思い描く。
かつての母の姿。
そして母の傍にいた頃の己。
母の死を知った日の、蘇る母の記憶の中にあるであろう姿。
まだ外で走り回っていた少年の……。
「ほう、そうか……それがお前が母を失った時の姿か」
「時の流れは残酷なのね」
モモンガが、どこか感慨深く頷いて。
アルベドが、酷くしみじみと言った。
「ああ……これは……」
喉から出るのは甲高い、声変わり前のもの。
魔法化されたローブは体格に合わせて変わっているが。
目の前に広げた手は小さく、柔らかい。
顔に触れれば、瑞々しい、まるで子供のような……。
「どうぞ」
戸惑うカジットに、ソリュシャンが鏡を見せる。
「おお……あの日の、あの頃の、姿……!」
背中から輝く翼こそはえているが。
あどけなく、活発な……幼い少年時代。
背後には、母の姿が幻視される。
感謝と感動と感激で、カジットはとめどなく涙を流した。
しばらくして。
スレイン法国に勝利したナザリック魔導国へと、隣接するリ・エスティーゼ王国の国王ザナック、バハルス帝国の皇帝ジルクニフが、多くの供を連れて訪れた。
地上部は対応のため、多忙を極める状況。
そんな中、カジットはなぜか地下に呼ばれていた。
多忙な状況ゆえか、NPCらはおらず。
モモンガの横には、アルベドではなく見知らぬ女が1人いるのみ。
魔導国でも墳墓でも見たことのない人物だった。
「研究の邪魔をして、すまないな。ラナーやニグンは来賓の相手に忙しく、お前にも歓待を頼まざるをえないのだ」
「いえ、モモンガ様のお呼びとあらば。しかし、私は学究の徒。来賓の相手には礼節の類も……」
そんなカジットに、モモンガは気まずそうな顔を見せる。
「いや、礼節は特に問わん。ただ、お前はその……地上では、相当な
「は。今までもこれからも、研究に打ち込むため、色に溺れぬよう努めております!」
そんなカジットの答えに、モモンガは苦笑する。
「いや、長き時をそのように気を張って過ごしてはならん。百年千年をかけても、望みを叶えるべく歩む力を得たのだ。あまり気を張っては、叶った後に腑抜けてしまうぞ」
「それは……」
確かに、ありえる話だった。
母が実際に復活し、可能ならば母も天使か……吸血鬼や淫魔にでも変えてもらったとして。その後の日々をどう送るのか、カジットには思い描けない。目的を達成した後は、魂の抜け殻にもなりうる。
「心に余裕を持つためにも、少しは
「は?」
首をかしげる。
だが。
しかし。
「すんすん……はぁはぁ……瑞々しい匂い」
「なっ!」
いつの間にか背後に現れた女が、カジットを羽交い絞め……いや、抱きすくめていた。
モモンガの横にいる女とほぼ同じ衣装、同じ顔。
双子だ。
女はそのまま、カジットのうなじに顔を押し付け、すうはぁと荒く深呼吸する。
「神聖な味……さすが天使……しかも童貞」
「や、やめぬか!」
さらに頬や首筋を舐めて来た。
未知への嫌悪感と不安に、カジットはぞわぞわと震える。
身をよじるが、魔法職専業のカジットでは、相当にレベルアップしていようとも、忍者の拘束を振りほどけない。
「だいじょうぶ……ちゃんと反応してる……」
「どこを触っておる!」
咄嗟に魔法を唱えかけるが。
「カジットよ、彼女は我が恩人の姉妹だ。相手をしてやれ。お前にとってあまりにつらいなら、一晩で止めるようにしよう。とりあえず、明日の朝までは、彼女の伽の相手を
「な……は、はい……わかり……ました」
初めて、モモンガの言葉に即答できなかったカジット。
一方、彼に絡みつく女忍者――ティナは満面の笑みを浮かべた。
「よいではないかよいではないか……カジッちゃんも、気持ちよくなる」
「その呼び方はやめよ!」
わめくカジットを抱き上げ、ティナは連れ去る。
二人のための客室は、すでに用意されていた。
残された二人が、顔を見合わせる。
「これでいいのか?」
「ん。あれでティナも満足する」
ティアは既に、モモンガに身をすり寄せ、指を絡め始め。
「それなりのアイテムを礼に渡そうと思っていたのだが……」
「いい。あれが最高の礼。それに……私はモモンガを抱けるだけで十分」
横からキスをし、くいくいと手を軽く引くティア。
この場でするか、部屋に移るかと誘っているのだ。
そんなティアに甘えるように、もたれつつ。
モモンガは、夫婦用とは別の寝室へ転移するのだった。
カジットさんが、おねショタ逆レの結果、トラウマを負うのか、性に目覚めるのか、そのあたりは読者諸氏の想像にお任せします。マーレを差し出すのもなぁってことで、ティナへのプレゼントはカジットになりました。
その後、犠牲者ないし同好の士を増やすべく、カジットがニグンさんをそそのかす可能性があります。その場合、ショタ天使になったニグンさんが、またまたティナにいただかれるでしょう。
「スピーク・ウィズ・デッド」はD&Dでは最初版からある呪文です。メカニズムやルールは版によって違うのですが、今回はカジットさんの目的に合わせてます。死者の証言が聞けるので、拷問も探偵も不要になる、けっこうなチート呪文です(オバロだと特に)。殺して口封じが不可能になるため、陽光聖典が受けてた呪いとかも、死んでからじっくり聞くし別にいいよって言えるようになります。
位階も高くないから、伝授していけば使える人数も普通に増えるし……。
でも、カジットさんの目的を考えると、これは避けられない呪文なんすよね。
あと、フィリップは、賢い父と兄のおかげで表に出ておらず、粛清を免れていました。今回のチエネイコ男爵の友情により、きっちりパンドラが処分してくれます。あと、他の家も次男三男にバカが残っていないか、チェックが入りました。おかげで他の国への浸食&諜報が少し遅れます。
各国はチエネイコ男爵とフィリップに感謝すべき。