by 松本龍祐(起業家)


僕がメルカリにジョインするとき、代表である山田進太郎に言われたのは「新サービスを作ってほしい」ともう1つ、「子会社の社長をやらない?」でした。

「起業家の口説き方がわかってるなー(笑)」と思いつつ、当時はせっかくジョインするならがっつり関わりたかったので、まずは子会社を作らず、メルカリ本体に入社しました。

ジョインから数ヶ月経ったころに、新規事業の準備を始めました。その際「子会社化するかどうか」「一部署でいいのでは」など、あまり議論していません。するするっとメルカリの子会社である「ソウゾウ」が誕生しました。

実際にソウゾウ設立後、数ヶ月ほど事業を進めてみて、改めて「やっぱり新しいことをやるなら、ハコ(=会社)も新しくした方がいいんじゃないかな」と感じています。

社内ベンチャーが成功しにくい理由

社内ベンチャーはなかなか成功しにくいと、一般的に言われています。その原因として、よく挙げられるのが「イノベーションのジレンマ」という言葉。

これは会社の規模を問わず、既存事業の維持に注力してしまい、新しい事業に本腰を入れられない状態を言います。

組織の中にいれば、技術、思想、リソースなど、何かしら引っ張られてしまうところがあります。既存事業が収益性の高いものであれば、新規事業の重要度は下がります。となると、最適なリソースを分配することすら難しくなってしまう。

「イノベーションのジレンマ」以外で成功しにくい理由を挙げると、資金面、人材面、思想面などいろいろあります。中でも、最も大きな要因と言われているのが「人材面」です。

スタートアップの初期フェーズに比べて、社内ベンチャーの初期フェーズの方が、人的リソースが足りていないケースはよくあります。そして、社内ベンチャーにジョインした人それぞれに、事業に対する思い入れや情熱があるわけでもなかったりするんですよね。

当然ですが、ほとんどのスタートアップが死ぬ気で新規事業に挑んでいます。だから、情熱が半端ない。「人材×情熱」の計算式は、わりとバカにできないのです。さらに、スタートアップは急速に成長し続けていくものです。彼らと同じくらいの人的リソースと情熱をかけなければ、勝てるわけがない。

リソースをどれくらいかけられるか、情熱を保てるか。その事業にどれくらいの自由度を与えられるか。このあたりのリソースを潤沢にあてられるかが、社内ベンチャーを成功させるポイントだと思います。

新事業に「0→1が得意な人材」はいるか

一方、社内ベンチャーをスタートさせるとき「一気に何十人も集めてやります!」なパターンもありますが、ただ人を増やせばいいわけでもありません。人が集まればコミュニケーションコストが累乗で増えていきます。これはスピードダウンに直結する。重要なのは、事業の中心部分に「スタートアップっぽい人材」がいるかどうかです。

新規事業をスタートアップさせるには「0→1」を得意とする人材が必要です。しかし、企業に所属する人材の多くが「1→10」です。そもそも0→1が得意な人材は数が少ないので、社内で見つけるのはわりと大変。

1→10が得意な人材をアサインしたところで、結果的に「どこかで見たことがある」「いいんだけど、なんかつまらない」サービスになります。たとえ社内で優秀な人材をごそっと集めてチームにしても、このあたりの0→1ができなくて失敗…も非常によくあるパターンです。このへんはどっちが優秀とかではなく、役割分担だと思います。

0→1ができる人材がチームいるか、熱量高いメンバーの「純度」が高いか、この2つが新規事業を始める際の、人材面でのポイントだと思います。

メルカリの性善説

ソウゾウの子会社化が正式に決まったとき、「やっぱりメルカリはユニークな会社だなぁ」と改めて感じました(笑)。こういった思い切りは、全社の意思決定がないとできません。意思決定があったとしても、一気にやり遂げるのは難しいです。

メルカリにあるカルチャーの根底には「性善説でいこう」があります。いったん、人を信じるんですよね。だから、まずは任せてくれる。

たとえば、僕が「これくらいお金が必要です!」と言ったら、基本的には出す方向で考えてくれます。ソウゾウの子会社化も「じゃあ、その方向でいこうか」みたいな感じで進んでいきました。「AさんとBさんとCさんが必要です!」と最初の立ち上げメンバーをお願いしたときも、希望通りアサインしてもらえました。

ソウゾウのエンジニアには、メルカリ立ち上げ期からいるメンバーがいます。メルカリで最初の産みの苦しみも、ローンチ後のいろんな苦労も経験しているからとっても心強い。でも貴重な人材であることは、メルカリにとっても同じ。恐る恐る聞いたんですが、「確かに、最初に居てくれたほうがいいよね」とすんなり送り出してもらえました。

タイミングもよかったかもしれません。会社として、メルカリの規模はまだ小さい。けれど、サービスはどんどん大きくなっていて、ゼロから資金調達する以上の人的リソースや予算規模で考えられます。だからアグレッシブに動けました。結果、ソウゾウも誕生しました。今のメルカリだからこそ、できたんだろうなと思っています。

まかせて、ほっとく

「アッテ」の誕生にも、会社を分けた効果は大きかったです。

ソウゾウでは、大枠の事業計画を出資元であるメルカリの取締役会で決めた後、そのほかはすべて僕を中心に進めています。レポーティングも週に一度、メルカリ社長の山田進太郎と僕が直接話す程度。ここでは報告がメインで、ときどきアドバイスをもらっているような感じです。「ああしろ」「こうしろ」と言われたことはありません。

ソウゾウができた後、最初のメルカリ全社MTGで山田から「これからはほとんど(ソウゾウについての)報告はしません」とハッキリ宣言されました。結構びっくりしたのですが、ありがたかったです。

情報共有することが嫌なわけではないのです。

ただどうしても普段から仕事をしていると、決裁権限にはあらわれない「念のため」の報告や調整を考え、行動してしまうと思います。これがじわじわ組織のスピードを下げている気がします。

メルカリ社内において、最初に会社設立のお知らせをした後は、社内公開の時と対外的にリリースした時以外は、ほとんど何もしていません。最初から分かれていたから、新しい発想のチャレンジもできたのではないかと思います。

たとえばアッテは、あえてメルカリとは異なる開発言語を採用しています。メルカリではPHPですが、アッテのサーバサイドはすべてGo+GCPです。

開発言語を変えたのは、もともとメルカリで培われてきたPHPによる資産を「活かさないため」です。資産があったらどうしても活かしたくなるし、共有化して効率を上げて…と考えたくなります。しかしそうすると調整が増えてスピードが落ちる。

意識的に異なる開発言語を使うことで、今までのメルカリのやり方に引っ張られず、本当の意味で「新たなサービス」を作れると考えました。

それに、まだ世間には「Go専門です!」と言えるエンジニアが少ない。おなじみの言語ではなく「Goで挑戦してみない?」とエンジニアを誘えるのもいいなぁと思っています。

また、「まかせて、ほっとく」ことには他にもメリットが。

任せられたらなんとかしないとな、という責任感です(僕が自分で言うのもなんですが)。

自由度が高いということは反面、全て自分の責任です。本来、企業の100%子会社というと、ゼロから起業した会社とはだいぶ雰囲気が違うのではないかと思います。

しかし今回のケースだと、ゴール設定や、それに対するコミットなど、かなり自分で投資家から出資してもらった感覚に近い状態で会社を運営することができています。

これも、毎週細かく承認をとったりしていたら、生まれづらかったのではないかと思います。

僕以外のソウゾウのメンバーも、みんなが新しい会社にいる感覚を持っています。そうすると「メルカリはこうだった」みたいなことがなく、「アッテをヒットさせるには、こうすべきだよね」が中心になっています。

情報をオープンにしておく

…と、あくまでもオリジナルであると主張しているソウゾウですが、それでは独自に会社を運営することと変わりありません。

グループにいることのメリットを活かすために、意識していることが2つあります。情報共有と思想の共有です。

先ほど「あまり状況を報告していない」と書いたのですが、共有はしています。会社のコミュニケーションはSlackで行っているのですが、メルカリと同じアカウントを使っています。なので、ソウゾウの社員でなくても、誰でもソウゾウのチャンネルに入ることできます。「ここを変えるといいと思う」「メルカリでやった施策では◯◯が効果的だったよ」といったアドバイスが横からポンっと入ったりします。

ヘタすると喧嘩になりそうな気がしますが、「性善説のメルカリ」なので、イヤな感じがせず、うまくいっているのかなと思います。

無理に報告の機会を持っているわけではないのですが、MTGの資料も仕様もKPIもチケットも、すべてオープンな状態になっています。アクセスしたい、する必要があるときはソウゾウのメンバーに限らず、誰でもできるようになっています。

もう一つが働くときの「バリュー」。思想の根本には常にメルカリがあります。

「メルカリ」オフィシャルサイトより

メルカリが掲げるバリューは「Be Professional」「Go Bold」「All for One」の3つ。メンバー全員が「Be Professional」「Go Bold」であること。そして、「All for One」という言葉の元、成功に向けて一致団結して取り組むことでメルカリは成立しています。

ソウゾウでは採用も独自に行なっているのですが、3つのバリューに合致する人だけに来てもらう、という点はメルカリと同じです。ここがブレなければ、お互いいつでも協力できるし、フレキシブルに組織も変えられると思っています。

加えて言うと、ソウゾウの場合はメルカリよりも規模が小さく、メンバーも若いです。そこでもっとも大事にしているのがバリューの1つである「Go Bold」。大胆にいこう、です。この要素を、特に強くしていきたいなと思っています。技術的なチャレンジもそうですが、打ち手をもっと大胆にしていくイメージですね。ベンチャーっぽく。

もっと社内スタートアップが増えてほしい

僕は元々自分で会社を経営していたこともあって、起業家が大好きです。
みんな起業すればいいと思う。

でも、実際うまくいくケースのほうが少ないし、失敗したら辛い。企業の中にいたら当たり前のことを知らなかったり、できないせいで、しなくていい苦労をしてるケースも多い。学生起業した僕はそうでした。

そんなことを考えると、「グループ会社を作って、思いっきり自由にさせてもらう」という今回のケースって結構アリなんじゃないかと思います。親会社の知見や資源を活かしながら、責任感は自分で起業するのと同じようにもっと事業を進められたら、「精神と時の部屋」みたいに成長すると思います。そのままグループ会社を大きくするのもいいし、自分自身で再度会社を作ってもいいし。

投資する側もメリットが大きいと思います。

通常の新規事業と考えると投資額が大きかったり、不安も大きいですが、外の会社を買収するよりは絶対コストは安く済む。

組織がどんどん大きくなるよりも、小さな会社の集団でいたほうが、スピード感をもって事業が進められるんじゃないでしょうか。その会社同士をつなぐのが、情報共有だったり、ビジョン・バリューの共有。

ソウゾウを作ってまだ半年くらい。全然成功できてるわけではないのですが、私はこれからもどんどんメルカリでグループ会社が増やしていけたらなと思っています。

また、日本の大きな会社がこんな感じで子会社を増やしていったら、きっと活性化するし、”起業家”の数も増えるのではないかと思っています。


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「First Penguin」とは、群れの中で最初に海へ飛び込むペンギンのことです。最初に飛び込む=リスクをとることから、起業家を表現するときにも使われます。 このメディアでは、起業家たちの「生の声(体験)」を伝え、起業の参考になるような情報を発信します。

Matsumoto Ryosuke

Written by

株式会社ソウゾウ代表取締役,株式会社メルカリ執行役員,コミュニティファクトリー元創業者,サービス考えるのと料理作るのが好きです。http://souzoh.com/

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