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5年前、ピケティ氏が唱えた富裕層への課税強化は当時の経済学において異端の存在で、誰も賛成しなかった。しかし、ここにきて、一部の米政治家やエコノミストたちが、その効用について認め始めている。資産を寝かせておくと富は失われるため、富裕層はより積極的な投資へ資産を振り向けるようになるのだという。

現在療養中のサンダース米上院議員も富裕層への課税強化を支持する(写真=ユニフォトプレス)

 5年前、フランスの経済学者トマ・ピケティ氏が『21世紀の資本』を出版し、その中で格差拡大について鋭い分析をしたことは記憶に新しい。同書は世界的なベストセラーとなるとともに、激しい論争を引き起こした。

 ピケティ氏の分析に関しては賛否両論あった。しかし、格差を是正するために同氏が処方箋として提案した富裕税は機能しない、という点だけは、多くの者が同意した。

 だがそれから5年がたった今、状況は一変している。2020年米大統領選の民主党候補者数人が、富裕層への課税強化を約束しているからだ。その一人、バーニー・サンダース上院議員は最近、純資産3200万ドル(約34億2000万円)超の富裕層に年間1%の税率を課す計画を発表した。税率は段階的に引き上げられ、純資産100億ドル(約1兆700億円)超では8%となる。

 ピケティ氏は重厚長大な近著『Capital and Ideology』(資本とイデオロギー、現在はフランス語版のみ出版)にて、超富裕層の資産に対し、最高90%の課税を行うべきと提起している。そこまで極端な説を唱える者はいないが、富裕税が経済成長を鈍化させるとは限らないとの見方はエコノミストの間で増えている。

 このように政治環境が変化した理由を説明するのは難しくない。富裕層への課税は有権者へのアピールになる。例えば最近のある調査結果では、米国人はこうした課税を好ましいものと考えていることが分かった。特に相続税については肯定する意見が多い。

 富裕層に対する課税の正当性を支持するデータも増えている。カリフォルニア大学バークレー校のエマニュエル・サエズ教授とガブリエル・ザックマン教授は、米国の上位0.1%の納税者が米国の資産全体の何割を握っているのか、調査している。これによると、1978年には全体の7%にすぎなかった富裕層の資産は2012年、20%に達したという。20%という数字は、1929年以来の高水準に近いものだという。

 大富豪が抱える巨額の資産──例えば、アマゾンの創業者でCEO(最高経営責任者)のジェフ・ベゾス氏は1000億ドル(約10兆7000億円)以上の資産を所有している。彼は、新たな支出の財源を模索する政治家にとって、格好の標的になる。