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ポータルサイト大手のヤフーを傘下に持つZホールディングス(HD)が「ヤフー経済圏」づくりを本格化し始めた。10日にSBIホールディングスと金融事業で包括提携すると発表した。ZHD側で金融サービス会社を再編する構想も進む。IT(情報技術)・通信大手では楽天とKDDIが決済や投資など幅広い金融サービスをそろえる。ZHDはネット証券最大手などを抱えるSBIHDと組み、巻き返しを急ぐ。
「インターネットの力で金融をもっと便利で身近なものにしていきたい」。10日の記者会見でZHDの川辺健太郎最高経営責任者(CEO)はSBIとの提携の狙いについてこう説明した。
第1弾としてZHDにぶら下がる各金融会社のサービスを使いやすくする。例えば月間約1500万人が閲覧する金融情報サイトのヤフーファイナンス。アプリやウェブサイト経由で、SBI証券の口座開設や株式売買ができるようにする。利用者は情報収集から取引までを1つの画面から完結できるようになる。
外国為替証拠金(FX)取引では、顧客からの注文の裏側で自社の持ち高のヘッジ(回避)取引をする「カバー」と呼ばれる分野で両社のFX子会社が連携する。2社を合わせると月間の取引高が100兆円に迫る規模となり、顧客の取引コストを下げやすくなる。
銀行分野でもジャパンネット銀行が取り扱っていない住宅ローンの「フラット35」を住信SBIネット銀行が提供する。ヤフーのIDを使い、SBIグループの金融サービスを利用できる仕組みも検討するという。一連の取り組みは年内から今年度内の実現を目指す。
今回の提携協議は「4月ごろにSBIが声をかける形で始まった」(川辺氏)。双方の思惑は両グループのサービスでお金に絡む取引をしてもらう経済圏づくりにある。
楽天は傘下にカードや証券、銀行、保険をそろえる。楽天ポイントで各サービスをゆるやかにつなぐ。17年から同ポイントを投資に使えるようにしたところ、若年層を中心に口座獲得数が急増した。新規開設数で見ればSBI証券をしのぐ。
KDDIは「スマートマネー構想」を打ち出し、銀行、決済、資産運用に加え、証券、損害保険、生命保険などの金融サービスを一括で提供できる体制を整えつつある。
2月に決着したカブドットコム証券への出資を巡っては、KDDIがヤフーに競り勝った経緯がある。ヤフーは価格や出資比率で折り合えなかった。ヤフーにとってはカブドットコム証券のライバルであるSBIと手を携えることで雪辱を果たす狙いもありそうだ。
もっとも、カブドットコム証券の口座数は約110万なのに対し、SBI証券の口座数は約480万。SBIの方が組む相手としては強力だ。ZHD傘下のFX会社やネット銀行をSBIの商品供給力で補えば、競争力は増す。今後もネット金融会社で足りないものを追加する方針のようだ。
さらなる焦点は、提携がZHDの親会社であるソフトバンク(SB)まで広がるかどうかだ。
SBIはソフトバンクの投資部門が独立して誕生した経緯があり、いわば「親戚筋」だ。会見でSBIHDの高村正人副社長は「もともと近しいこともあり、(ソフトバンクとの)提携に発展する可能性は十分ある」と強調した。
今回の提携は競争が激化するキャッシュレス市場にも影響しそうだ。
注目はソフトバンクグループ(SBG)のスマートフォン決済「PayPay(ペイペイ)」だ。現時点では構想にはないが、ペイペイ利用者の株式委託売買手数料を割り引いたり、SBI証券口座利用者のペイペイ還元率を高めたりすることも可能になる。ヤフー経済圏から一気にソフトバンク経済圏に発展する可能性も秘める。
(嶋田有、四方雅之)