「ウザい!」、氷河期世代に見捨てられた労働組合

それでも労組が必要な理由を探る「トラジャ」

JR東日本をめぐる12年の「サーガ」をたどります(写真:tarousite/PIXTA)
このたび上梓された『トラジャ JR「革マル」30年の呪縛、労組の終焉』は、JR東労組の3万5000人大量脱退、JR北海道の社長経験者2人の相次ぐ自殺がなぜ起こったのか、その裏側を深くえぐったノンフィクションである。
著者の西岡研介氏は、2007年刊行の前作『マングローブ――テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実』のその後についても粘り強く、この最新作で描き出している。12年の時を経て、なぜ今、『トラジャ』は刊行されたのか。ノンフィクション愛好家であるurbansea氏が同書を読み解きつつ、「西岡ノンフィクション」の本質に迫る。

JR東日本の遠大な対「革マル」戦術

「あの連中(JR革マル)にはアメ玉を食わせ、時間を十分にかけ、次第に牙がなくなるように対応し、ついには牙がなくなってしまう――というような遠大な計画が、JR東日本の対革マルの戦術だ」

後に会長になる人物がまだ常務だった頃、革マル派が中枢を握っていると見られるJR東労組との抗争の戦術を、こう語っていたという。

『トラジャ JR「革マル」30年の呪縛、労組の終焉』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)※本書の出版を記念し、トークイベントが行われます。詳しくはこちら

アメ玉をしゃぶらせておいて牙がなくなるのを待つ。悠長にみえる話だが、2018年、JR東労組がストライキを通告するなり、それがアダとなって、決壊と呼びたくなるほどの大量の脱退者を生む。なにしろ組合員数・約4万6900人を誇る巨大労組から、3万5000人が脱退したのだ。

革マル派ナンバー2と目される松崎明が、JR東労組を通じてJR東日本そのものを支配する。この実態を2006年から2007年にかけて、西岡研介は『週刊現代』で追及した。それをまとめたのが『マングローブ』(講談社・2007年)である。

それから12年、西岡は上述のようなJR東労組の崩壊にいたる過程と、同じく革マル派の影響下にあるJR北海道の惨状を書く。それが本稿で紹介する『トラジャ』(東洋経済新報社・2019年)だ。

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  • といざヤす9fb97ee2a27b
    社長が会社の経費で自分の高級車を買うような会社は、それなりに内部留保があるわけです。
    まだまだ少ないですが、そういった会社では、正社員組合が非正規の待遇改善も含めて要求し始めています。
    up8
    down2
    2019/10/11 07:21
  • marya112f01f0d4c
    組合費の使途を全公開しましょう。
    組合費の給与天引きを廃止しましょう。

    同一労働・同一賃金
    雇用の流動化

    に反対する組合は、非正規を搾取する既得権死守の反人権団体です。

    ここには、反人権団体の工作員が多数暗躍していますね。
    up7
    down3
    2019/10/11 07:42
  • cicero513b5170a733
    労働組合が必要なものであることに疑いは感じない。それが、いろんな理由で衰退し変質し壊されるのは、いずれにしてもとても残念だ。
    ずいぶん昔、社会主義圏の存在の恩恵は、先進国の労働者が享受してきた、それが、これからは失われるだろう、というような趣旨を何かで読んだ記憶がある。代表するものを持たない派遣労働者の増加がその答えだった。
    僕は、社員が会社の株を全部持つのが、理想だと思っている。そういう会社もあるように聞く。そんな会社だと、労働組合は要らなくて、全部株主総会で、決めればいいし、経営者も自分達で選んで、その結果は自分達の身で受けるわけで、合理的でよほど良いのではないかと思う。組合がEBOをかける、という、例は無いのかな?資本主義社会における労働者の疎外の構造的要員の一つが、生産手段と、労働者の分離であったわけで、これを回復するという意味で、本質的な解決であると思えるのだけれど。
    up8
    down4
    2019/10/11 07:27
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