外国人をも魅了する日本建築物
その歴史・伝統・文化に表情を添え続ける日本瓦

6年ぶりに5連休となった2015年のシルバーウィーク。
国内観光地は大いに賑わうと共に、宿泊施設が軒並み満室…そんなニュースも多く聞かれた。
その理由として挙げられたのが、外国人観光客の急増。
昨年訪日した外国人観光客数は1,341万3,400人だったが、今年9月時点で既に1,342万を超え過去最多を記録。このままいけば年内1,900万人に届く勢いという驚異的な伸びを見せている。

彼等が日本にハマる理由はいろいろだが、
深く魅せられるモノの一つに『日本建築物』があるだろう。

日本の歴史・伝統・文化、そして日本の美学を物語る建物に多く使われているのが瓦。
「瓦屋根の家は夏涼しく冬あたたかい」とも言う。
暑い夏が過ぎた今、改めて四季のある日本に根差した日本瓦について話を伺うべく、全国有数の瓦産地である愛知県高浜市を訪ねてみた。

日本瓦のシェア7割。愛知県高浜市を中心産地とする三州瓦

今から約2800年前の中国で生まれた瓦。
日本には遣唐使が持ち帰ったとされ、飛鳥寺で使われたのが初めてなのだとか。
その後現在に至るまで日本ならではの美しい風景を特徴づける存在として長く歴史を刻んできたわけだが、そんな日本瓦の三大産地と言えば、三州(愛知)・石州(島根)・淡路(兵庫)。
中でも三州はシェア7割という日本一の瓦生産量を誇っている。

三州とは、愛知県の西三河地方を指し、現在の三州瓦主要産地は高浜市・碧南市・半田市。
良質豊富な粘土に恵まれる同地域の瓦は、1150度もの高温に耐えて焼しめられるため、優れた耐火性・凍害への強さなどが特徴。銀色の「いぶし瓦」など、釉薬の違いや有無などで仕上がりが多彩なバリエーションの豊富さも、「全国の瓦の半数以上は三州瓦」となっている所以だ。

瓦の色は、釉薬の有無や違いによって様々。日本で誕生した「いぶし瓦」は、銀色と形容される色も特徴的だ瓦の色は、釉薬の有無や違いによって様々。日本で誕生した「いぶし瓦」は、銀色と形容される色も特徴的だ

日本瓦の危機

今回お話を伺ったのは、三州瓦工業協同組合理事長であり、100年以上の歴史を持つ三州いぶし瓦窯元(有)鈴幸・代表取締役の鈴木幸利氏今回お話を伺ったのは、三州瓦工業協同組合理事長であり、100年以上の歴史を持つ三州いぶし瓦窯元(有)鈴幸・代表取締役の鈴木幸利氏

1400年以上前から作られ我々に深く根付いてきた日本瓦だが、集合住宅の増加や屋根面積の減少、軽量・安価なストレート屋根やガルバリウム鋼板など瓦屋根に替わる建材の台頭などで出荷枚数は減り、瓦業界では苦境が続いている。
そして、「業界不況には大きな転換期が近年2度あった」と三州瓦工業協同組合理事長の鈴木幸利氏は話す。

一つ目は、阪神・淡路大震災。
大地震後の報道で崩壊した瓦屋根の民家を目にする度に「瓦の重さに家が耐えられなかった」と誤認する人が少なくなく、地震に弱い瓦屋根、との誤ったイメージが定着してしまったとか。
「瓦の重さだけが要因ではなく、柱や筋交い、土台、基礎など家自体が弱い事例が多々あった。
躯体がしっかりしていれば倒壊を避けられた家も少なくなかったのです」と鈴木氏。
その偏見を改めるべく、震災後に見直された建築基準法の趣旨に沿う『ガイドライン工法』を推奨。業界独自のガイドラインに基づいた施工で瓦屋根耐震実験を行った結果、今後発生が危惧される東海大地震の予想波にも耐えることが立証されている。
このような瓦業界全体の取り組みによって元来の優れた耐久性に加え、徹底した施工技術で大地震や台風にも耐えうる安全性の向上に努めているという。

もう一つは、エコ志向。
太陽光発電を導入する住宅が増える中、新築時・リフォーム時・屋根の葺き替え時には重量のある瓦屋根よりも軽量屋根が選ばれることも多いのが現状だ。
三州瓦ではエコ志向や環境への取り組みとして、瓦とソーラーパネルを一体化させた屋根一体型や、太陽光高反射瓦、緑化瓦の開発などを進めて時代の要請に応える瓦の姿を模索している。

耐熱性・耐久性・防音性・・・改めて日本瓦の魅力を見直してみる

苦境に立つ瓦産業だが、古くから日本人に愛されている日本瓦が減っていくのは寂しいもの。
高温多湿の気候風土に耐え抜いて進化してきた『日本瓦の利点』を改めて考えてみたい。

高温で焼成される瓦は、硬い陶器質の屋根材。

過酷な気象条件に耐える強度を誇る【耐久性】はもちろん、陶器同様ほとんど吸水しないいため【耐水性】【耐寒性】や、建築基準法指定の不燃材ゆえに類焼を防ぐ【耐火性】にも優れる。
また、瓦屋根は熱容量が大きく住まいと外気温を遮断する役割も果たす。
その効果により夏は熱を吸収し、冬は熱を逃さない【断熱性】【耐熱性】も四季の移り変わりが激しい日本には適しているであろうし、雨音を吸収する【防音性】や、雨を素早く流し落とす形状も雨の多いこの国においてメリットがあると言えよう。
そして、意外にも思われがちなのが【経済性】。
“100年以上もつ”とも言われる優れた耐久性の瓦は、傷みや退色も少ない上に、瓦1枚から交換可能というメンテナンス性も良い屋根材。他の屋根材より初期費用は割高なものの、塗装の塗り替えや葺き替えなどが不要でトータルコストで見るとかえって経済的なことが分かる。

三州で採れる良質の天然堆積層粘土とシャモット(リサイクルされた瓦)をブレンドして練り、</br>高圧の成形機で瓦の原型を作る。機械化される中でも、一枚一枚人の手が入る三州で採れる良質の天然堆積層粘土とシャモット(リサイクルされた瓦)をブレンドして練り、
高圧の成形機で瓦の原型を作る。機械化される中でも、一枚一枚人の手が入る

瓦屋根の家並みが続く美しい景観を後世にも

飾り瓦もいろいろ。棟の端に設置され、厄除け・魔除けの意味を持つ鬼瓦にもさまざまな表情・表現がある飾り瓦もいろいろ。棟の端に設置され、厄除け・魔除けの意味を持つ鬼瓦にもさまざまな表情・表現がある

四季のある日本だからこそ、屋根材としての役割に多くの性能で応えてきた瓦。
風土に合った機能性はもちろん、やはり心惹かれるのは『日本の美しい原風景をつくる建材』であること。
日本瓦だからこそ放つ情緒であったり重厚感は日本の伝統美・景観美に欠かせないものだろう。

「歴史的景観を守る京都のように、いぶし銀の瓦屋根が続く統一感のある家並みを心から美しいと思いますし、例えば、木綿屋の屋根には糸車が乗っているなど“建物の想い”が屋根に表現されるのも古からのものでした。
和文化に対する海外からの関心も高まり、『和の住宅』の住みやすさや魅力が見直される今、日本古来の美しさを家並みでも残していきたいと強く思っています」と鈴木氏。

屋根材のスタンダードであった瓦が、オプションの如く考えられることもある現代の家づくり。
『景観は皆の共有財産』として建築物のあり方や街づくりが進められる今日、日本の文化・伝統を大きな観光資源とする観点においても、日本らしさを物語る瓦屋根の家づくりをもっと公共性のあるものと捉えて良い気がした。

三州瓦工業協同組合
http://www.sansyuu.net/

三州いぶし瓦窯元(有)鈴幸
http://www.suzukou1167.com/

2015年 10月06日 11時03分