遊びつくされたゲームからバグを見つけ出す着眼点

 エディさんは「バグは何かの条件が重なったときに起こる場合が多い。バグを見つけるときの基本的な考え方だ」と言う。特に本来は重なることがない条件が重なったときには、ゲーム開発者が想定していない挙動が起こる可能性がある。この考え方に基づいて、シドタイマー持ち込みバグと別のイベントを組み合わせ、低歩数クリアの記録更新ができないか試したという。

 バグを見つけ出す方法について、エディさんは次のように話す。「プレー中に発見することは意外と少ない。ゲームで遊んだ後に外出して歩いているときなど、ゲームをプレーしていないときに突然思いつく」。シドタイマーも雪の降る日、喫茶店からの帰り道でひらめいた。「頭の中でFF6のプレーを想像していると『このタイミングでこうしたら、こういう現象が起こるのではないか』とひらめく」(エディさん)。

 ひらめいた仮説を基に実機で思いつくままに試す。実機で試す際には「過去に出した結論を信用しない」(エディさん)のがポイントだという。「何年もFF6の低歩数クリアに挑むための検証を続けているが、自分が以前に出した結論をあまり信用していない。本当にそうなのかと疑ってかかってプレーしている」。

 エディさんは自分で未発見のバグを見つける場合もあるが、他のプレーヤーが見つけたバグを使って低歩数クリアの記録を更新する場合もある。2014年に公開した動画でエディさんが一躍有名になった飛空艇バグを使った攻略もそうだ。バグを攻略につなげるには、他の人には見えない筋道を見つける必要がある。エディさんがこうした点でたけているのは、「過去の結論を信用しない」というスタイルにあるのかもしれない。

実はテストエンジニアが本業、趣味と良い相互作用生む

 「本業で培った経験も生きている。タイマー関連のバグは働き始めてから見つけた」。エディさんはこう打ち明ける。実はエディさんはテストエンジニアが本業だ。2016年に第三者検証を手掛けるSHIFTに入社し、スマートフォン向けゲームのデバッグやテストプレーなどを担当している。仕事の経験でテスト項目を整理して捉える勘所が身に付き、新たなブレークスルーが起こっているのだ。

エディさんの本業はテストエンジニア。趣味であるFF6の低歩数クリアにも経験が生かされている
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 本業と趣味が結びつきパワーアップしたエディさん。FF6の低歩数クリアはまた新しい展開を見せている。エディさんは2019年4月から5月にかけ、色々な場所へ「ほとんど歩かずに行ける」というバグを見つけた。影響範囲が大きすぎ、どれだけ歩数を減らせるのか見当が付かなくなっているほどだという。

 「ものすごい遠回りがトータルでは最少歩数になるという可能性まで出てきて、考えられるルートがあまりにも増えすぎてしまった」(エディさん)。最短と断言できるルートの組み合わせを絞り込めずに困っていると苦笑する。未踏の地を見つけたからこそのうれしい悩みだ。

 もちろん、攻略で培った着眼点は本業にも生きている。実際、FF6の低歩数クリアで培った「このときにこうしたら、何かが起こるだろう」という着眼点を利用して、本業でテストしているゲームで、他の人が見つけられなかったバグを発見した。やはり、好きなことを仕事にしている人は強い。

稲垣 宗彦(いながき むねひこ)
スタジオベントスタッフ
高校在学中から、電波新聞社の「月刊マイコン」「マイコンBASICマガジン」でゲームレビューやイベントリポートを中心に執筆し、ライターとしての活動を開始。趣味のゲームを仕事にしてしまったことを後悔し始めた頃に、中学校時代まで熱中していた釣りを再開。近年はアウトドア関連の他、財布やバッグといった小物の記事なども手掛けている。