突破不能と思われた壁を大幅更新して夢中に

 もう1つは、2013年に別のプレーヤーが見つけ出した「飛空艇(ひくうてい)バグ」と呼ばれる、スーパーファミコン版やプレイステーション版などに存在するバグを知ったことだ。飛空艇はFFシリーズでおなじみの乗り物で、手に入れると空を飛んでマップ上のあらゆる場所に行けるようになる。ただし、本来であればゲームがある程度進行してからでないと自由に動かせるようにならない。飛空艇をゲームの序盤で動かせるようにするのが飛空艇バグの内容だ。

注 FF6ではプレーヤーが操作するキャラクターが全滅すると、最後にセーブした場所に強制的に戻される。飛空艇バグはこれを利用する。序盤にセーブした後、その後一度もセーブせずにゲームを進める。飛空艇を手に入れた後、特定の場所で全滅すると、セーブした序盤の時点からいきなり飛空艇が使えるようになる。
スーパーファミコンのコントローラーを手慣れた手つきで操作
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 低歩数クリアには多くのプレーヤーが挑み、2000年代前半に達成された「約8900歩」が最少だと考えられていた。エディさんはこの数字を2011年に達成して、低歩数クリアへの挑戦を一度やめていた。「飛空艇バグを知ったときに低歩数クリアの大幅な記録更新ができると思ったが、他のプレーヤーは気付いていないようだった。それなら自分がやるしかないと考え、飛空艇バグを利用した低歩数クリアへのチャレンジを開始した」。エディさんはこう話す。

 序盤から飛空艇を使えると、行かなくてもいい場所が生まれる。「それまでの記録から約3000歩も歩数を節約できた。未踏の地を見つけた感覚で、すごくワクワクしたのを覚えている」(エディさん)。ゲームをプレーしている様子を2014年1月に動画サイトへ投稿したところ、視聴者から大きな反響があった。エディさんはこれをきっかけに、バグを使った低歩数クリアに情熱を傾けるようになった。

あるキャラの「余命タイマー」を利用するバグを発見

 低歩数クリアでは、バグを使ってクリアのために行く必要がある場所を減らし、より少ない歩数でのクリアを目指す。そのために、移動できないはずの画面でキャラクターを移動させるなどのバグを使って、ゲームを進行させないと起こらないイベントを序盤で発生させたり、起こるはずのイベントを起こさないようにしたりする。

 製品として出荷されたゲームは十分なデバッグがされていて、バグの発見自体が難しい。FF6は300万本以上も売れたし、発売から20年以上経過している。多くのプレーヤーに遊びつくされ、そのおかけでいくつかのバグが見つかっているが、だからこそ全く新規のバグはもはやそうは見つからない。しかも、バグを見つけたとしても、低歩数クリアに生かせる方法を編み出せるとは限らない。

 そうした状況で、エディさんはバグを活用した低歩数クリアの方法を次々と見つけ出している。なかでもゲームファンに大きな衝撃を与えたのが、2018年2月に発見した「シドタイマー持ち込みバグ」を利用した低歩数クリアだ。スーパーファミコン版のFF6でバグを利用すると、これまでは飛ばせなかったイベントも飛ばせるようになると示してみせた。ゲームの進行に根本的な影響を与えるバグが、発売から24年経過して見つかったのだ。

注 FF6には一定時間が経過すると状況が変化するイベントがある。こうしたイベントに利用するため、時間を測定するデータを「タイマー」としてゲーム内で保持している。その1つが「シドタイマー」で、徐々に体力を減らす病身のキャラクター「シド」の余命となる時間を管理している。このタイマーを別の場面に持ち込み、タイマーがゼロになると同時に別のイベントを開始すると、本来は起こらない挙動が発生する。