日米協定とTPP 主要品目を比較
2019年10月09日
日米貿易協定が正式署名されたことで、焦点は国会での承認案の審議に移る。昨年9月の日米共同声明に沿って、農産物の自由化水準が環太平洋連携協定(TPP)など過去の協定の範囲内にとどまったかどうかがポイントとなる。米、牛肉などで比較してみると──。
昨年9月の日米共同声明は、日本側の農産物の市場開放水準について、TPPを念頭に「過去の経済連携協定が最大限」とした。合意後、安倍晋三首相は「共同声明に沿った結論が得られた」と強調。政府によると、農林水産物のうち最終的に関税を撤廃する品目の割合はTPPの82%に対し、日米協定は37%。
TPPでは米国産米に最大7万トンの輸入枠を設け、一部の米の調製品や加工品は関税を撤廃・削減したが、日米協定では輸入枠を設けない。関税撤廃や削減の対象から「除外」した。
脱脂粉乳やバターなどTPPで参加国全体が対象の輸入枠(TPP枠)を設定した33品目は、輸入枠を作らなかった。
チーズはハード系の関税撤廃などはTPPと同様だが、TPP枠がある品目に米国向け輸入枠を設けなかったため、政府は「下回る」と説明する。
TPPの「範囲内」かどうか判断が難しいのが牛肉だ。関税率についてはTPPと同様に9%までの削減だが、発効時にTPP参加国と同じ税率にする。
米国向けに緊急輸入制限措置(セーフガード=SG)を新設し、2020年度の発動基準数量は近年の輸入実績未満だが、TPPの見直しまではTPP向けのSGと併存する。その間、米国も含めて設定したTPPのSGは事実上発動せず、TPP参加国が見直しに応じるかも不透明だ。
豚肉やワインなどもTPPと同様に関税を削減・撤廃するが、発効時にTPP参加国と同じ税率に下げる。これについて「TPPより優遇している」(野党農林議員)との指摘もある。
一方、米国は日本産牛肉の低関税(1キロ当たり4・4セント)輸入枠を実質的に拡大する。現行の年間200トンから、6万5005トンまで広がった。TPPでは日本向け輸入枠は最大6250トンだった。だが枠内の関税は無税で、輸入枠を超えた場合の関税(26・4%)も15年で撤廃としていた。どちらが日本に有利かは評価が分かれそうだ。
米国の自動車や同部品の関税撤廃についても、TPPでは期限を明記したが、日米協定では、できずに継続協議となった。
こうした点を含め、国益にかなう結果となったのか。そもそもTPP水準の農産物の自由化にも懸念はある。国会審議では合意内容の徹底した検証が求められる。
下回る米・乳製品 輸入枠設けず
昨年9月の日米共同声明は、日本側の農産物の市場開放水準について、TPPを念頭に「過去の経済連携協定が最大限」とした。合意後、安倍晋三首相は「共同声明に沿った結論が得られた」と強調。政府によると、農林水産物のうち最終的に関税を撤廃する品目の割合はTPPの82%に対し、日米協定は37%。
TPPでは米国産米に最大7万トンの輸入枠を設け、一部の米の調製品や加工品は関税を撤廃・削減したが、日米協定では輸入枠を設けない。関税撤廃や削減の対象から「除外」した。
脱脂粉乳やバターなどTPPで参加国全体が対象の輸入枠(TPP枠)を設定した33品目は、輸入枠を作らなかった。
チーズはハード系の関税撤廃などはTPPと同様だが、TPP枠がある品目に米国向け輸入枠を設けなかったため、政府は「下回る」と説明する。
不透明 牛肉 「SG」が焦点
TPPの「範囲内」かどうか判断が難しいのが牛肉だ。関税率についてはTPPと同様に9%までの削減だが、発効時にTPP参加国と同じ税率にする。
米国向けに緊急輸入制限措置(セーフガード=SG)を新設し、2020年度の発動基準数量は近年の輸入実績未満だが、TPPの見直しまではTPP向けのSGと併存する。その間、米国も含めて設定したTPPのSGは事実上発動せず、TPP参加国が見直しに応じるかも不透明だ。
豚肉やワインなどもTPPと同様に関税を削減・撤廃するが、発効時にTPP参加国と同じ税率に下げる。これについて「TPPより優遇している」(野党農林議員)との指摘もある。
一方、米国は日本産牛肉の低関税(1キロ当たり4・4セント)輸入枠を実質的に拡大する。現行の年間200トンから、6万5005トンまで広がった。TPPでは日本向け輸入枠は最大6250トンだった。だが枠内の関税は無税で、輸入枠を超えた場合の関税(26・4%)も15年で撤廃としていた。どちらが日本に有利かは評価が分かれそうだ。
米国の自動車や同部品の関税撤廃についても、TPPでは期限を明記したが、日米協定では、できずに継続協議となった。
こうした点を含め、国益にかなう結果となったのか。そもそもTPP水準の農産物の自由化にも懸念はある。国会審議では合意内容の徹底した検証が求められる。
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正式署名へ 8日にも閣議決定 政府が日米貿易協定の正式署名に向けた閣議決定を8日に行う方向で調整していることが分かった。閣議決定後、日米両政府は速やかに署名式を行う。交渉関係者によると、署名式は大使・閣僚級で行い、米国での開催となれば、トランプ米大統領が立ち会う可能性もあるという。 同協定は25日(日本時間26日)の日米首脳会談で最終合意を確認。だが両国とも法的審査が間に合わず、共同声明への署名にとどまっていた。日本では協定の署名には事前の閣議決定が必要で、署名後、政府は10月中旬にも協定の承認案を臨時国会に提出する。米政府は来年1月1日の発効を想定しており、日本も早期の承認を目指す。 日本農業新聞の購読はこちら>> 2019年10月04日
2050年 世界の食料需要1・7倍 単収増加が必須 農水省予測 2050年、世界の食料需要量は10年と比べて1・7倍に増大──。そんな予測結果を農水省がまとめた。地球温暖化を前提に人口増加や経済発展を加味して予測した。穀物の生産量は1・7倍に増えるが、収穫面積は横ばい。単位収量増加で需要増に対応する構図だ。長期的に食料をどう確保していくかが課題になる。 10年から50年にかけて世界の平均気温が2度上昇するという、気候変動シナリオに基づき予測した。 50年の食料需要量は58億1700万トンに増加。低所得国で2・7倍、中所得国で1・6倍と大きく伸びる半面、高所得国は1・2倍にとどまる。 品目別の需要量は穀物が1・7倍、油糧種子が1・6倍、砂糖作物が1・2倍、畜産物が1・8倍になる。 穀物の生産量は36億4400万トンに増える。小麦が1・8倍、米が1・7倍、トウモロコシが1・6倍、大豆が1・5倍に増加する。いずれも収穫面積は横ばいだが、農業関係への各種投資が増えて単収増につながり、生産量を押し上げるとみる。 世界の農地面積は、気候変動に伴い7300万ヘクタール拡大し、16億1100万ヘクタールになる。オセアニアや中南米、アジアで増加するが、北米やアフリカでは減少し、農地分布が変化する。 北米、中南米、オセオニア、欧州では主要4作物の小麦、米、トウモロコシ、大豆の純輸出量が増加する。一方、アフリカや中東、アジアでは生産量の伸びが需要の増大に追い付かず純輸入量が増加する。 同省は食料需給逼迫(ひっぱく)を回避するには、国内生産の増大を図りつつ、食料輸入の増加が見通されるアフリカなどへの継続的な技術支援をすることが課題になるとしている。 日本農業新聞の購読はこちら>> 2019年10月07日
米の景況調査 「需給緩む」見方強く 19年産供給に過剰感 米穀機構は、米の需給や価格動向に関する景況感調査(DI)について、9月分の結果を公表した。向こう3カ月の需給見通し指数は前月比1ポイント減の41と2カ月連続で下げた。2019年産米の供給に過剰感が出ており、「需給が緩む」とした見方が強まった。…… 2019年10月08日
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豚コレラワクチン 半数超希望 本州34都府県 未発生でも危機感 豚コレラの感染拡大を受けて始まる豚への予防的ワクチン接種について、日本農業新聞は本州34都府県を対象に調査した。「現時点で接種を希望するか」を聞いたところ、関東、北陸など半数以上の19都県が希望した。豚やイノシシの発生が確認されていない都県の希望もあり、危機感が強まっている。 国が示した豚への予防的なワクチン接種を可能にする防疫指針案は、イノシシから豚への感染リスクが高いエリアを「接種推奨地域」とし、都道府県知事が接種を認めるとしている。接種推奨地域は、野生イノシシの感染状況や生息状況、周辺の農場数などの環境要因から、専門家の意見を踏まえて設定する見通しだ。 日本農業新聞は9日までに、指針案の決定を前に「現時点でワクチン接種を希望するか」を本州の畜産担当部署に電話で聞いた。「希望する」と答えたのは19都県。豚やイノシシの感染はないが、と畜場に県外からの受け入れが多い神奈川は「交差汚染の懸念も踏まえればワクチン接種を希望する」と答えた。 栃木や山梨、千葉、静岡、奈良は、近隣県で豚コレラが発生しているため危機感が強く、「発生してからでは遅い」との回答が目立った。一方、福島は「接種するなら地域限定ではなく、種豚農家への影響なども踏まえ範囲は全国にしてほしい」と求めた。 検討中は7府県。ただ検討状況は大きく幅があり、愛知は「生産者や関係団体の意向を踏まえる」、和歌山は「必要があれば前向きに考える」とした。岩手や宮城、兵庫は今後の感染状況や意見精査などを踏まえて考えていく方針という意味で「検討中」と答えた。京都は「接種地域に入れてくれるよう要請するかどうかなど、知事に方針伺いをしている最中」としている。 複数の自治体から、風評被害や交差汚染、種豚の扱いを懸念する声が出た。 中国地方や北東北を中心に8県が「希望しない」と回答した。 日本農業新聞の購読はこちら>> 2019年10月10日
日米協定に署名 牛肉SG 発動基準量拡大も 来年1月発効視野に 日米両政府は米ワシントンで7日(日本時間8日)、貿易協定に正式に署名した。両政府は詳細な協定内容を発表。焦点の牛肉のセーフガード(緊急輸入制限措置=SG)は、発動した場合、早期に発動基準数量の引き上げの協議を始めることが分かった。日本の農産品の再協議規定として、米国が将来的な交渉で優遇を求める意思も明記。米国からの輸出圧力が強まる可能性のある規定が盛り込まれた。日本政府は2020年1月1日の発効を視野に、承認を急ぐ方針だ。…… 2019年10月09日
[ゆらぐ基 危機のシグナル](4) 細る自治体の体制 個性発揮は二の次に 政府が目指す「地方分権」とは裏腹に、各地で個性を生かした農業・農村振興が難しくなっている。背景には自治体の財政難や農業担当者の人員減などがある。農業担当者は、国と生産現場を結び付ける重要な役割を担うだけに、自治体農政の弱体化は、農業・農村の衰退につながりかねない深刻な課題となる。 広大なキャベツやカボチャの畑が広がる北海道和寒町。町の人口減と並行して役場職員数も減る中、町産業振興課の担当は農業に加え林業や商業、観光などと多岐に渡り、山口祐樹課長は「現場に行く回数が減っている」とため息をつく。 キャベツとカボチャは農家と町、JA北ひびきが一体で育てた町の二大看板。しかし、ここ2年でカボチャの栽培面積は60ヘクタール減の790ヘクタール、キャベツは25ヘクタール減の118ヘクタールと作付け減に歯止めがかからない。農家の減少に加え、自治体やJA職員の減少が作付け減に影を落とす。 国とずれも… 同町の農業担当者、鷲見幸一課長補佐の主な仕事は「農水省の補助事業事務」。国の事業は単年度で要件や予算が変わり、多種多様化している上、申請業務も複雑化している。「去年と今年で全く違う補助事業が多く、本当に苦労している」と鷲見課長補佐。国の農政に対応するのが手いっぱいの状況だ。 一方、「大規模化を推奨する農水省の各種事業では、町の特徴を打ち出す農業展開が難しい」というのが町とJAの共通見解。家族経営で支えてきたカボチャやキャベツは面積など補助事業要件に合わないことが多く、担い手は規模拡大しやすいソバや麦の栽培に走る。 JA和寒基幹支所営農課の小島憲昭課長は「担い手は限界近くまで栽培し、作付け増加は無理な状況。アルバイトもいない」と説明。食料自給率低迷やJA改革も踏まえ、JAの和賀覚支所長は「国の農政と現場が目指したい自治体農政の方向に矛盾があるのではないか」と感じている。 ただ、人が減り、財政難でも役場とJAを中心とした連携体制や役割分担が町の強み。和賀支所長は「今より元気だった昔とは違う形でも、個性を生かした和寒農業の可能性を示したい」と話す。ブランド作物「越冬キャベツ」は農家の冬の貴重な収入源だ。現在は農家や関係機関で、新品種の導入やカボチャの種の特産化など人材が限られる中、知恵を絞りながら新たな展望を模索している。 今こそ「対話」 人口1万4300人の新潟県聖籠町。町の産業観光課8人で、職員が協力しながら農林水産業や観光、雇用などの業務に当たる。自主財源が限られ、国の補助事業を活用するとその分、申請業務などの負担がのしかかる。萩原波春課長は「事務の効率化を目指すが、地域おこしの基本は町民との対話」と話す。自治体農政に携わる関係者は人口減が進んでいるからこそ、対話を基本とした現場の声を生かせる農政の在り方を求めている。(企画は尾原浩子、川崎学、木村泰之、鈴木健太郎、藤田一樹、松本大輔が担当しました) 歯止めかからぬ人員減 地方公務員数は2018年が273万7000人。ピーク時の1994年に比べると鳥取県の人口に匹敵する55万人も減った。農業担当者数は食料供給地帯の北海道以上に本州の減少が目立ち、合併自治体で深刻だ。普及指導員数は全国で今年度6102。10年間で約3割減った。 日本農業新聞の購読はこちら>> 2019年10月09日
豚コレラワクチン 接種後も豚肉輸出 香港、マカオ向け可能に 豚コレラの予防的ワクチン接種後も豚肉の主要輸出先である香港、マカオには、一定の条件下で輸出を継続できる見通しとなったことが8日、分かった。カンボジアは現行の条件のまま輸出を継続できる見通しだ。江藤拓農相が同日の閣議後会見で各国・地域との協議の結果を明らかにした。 伊東良孝農水副大臣が3日に香港、4日にマカオ、加藤寛治農水副大臣が7日にカンボジアを訪問。輸出継続に向けた協議をしていた。 政府は豚コレラの感染拡大を受け、飼養豚へのワクチン接種の準備を進めている。ただ、接種すれば、来年9月には国際獣疫事務局(OIE)が認定する豚コレラの「清浄国」の立場を失い「非清浄国」となる。輸出先から拒否されたり、条件を設けられたりして、輸出を継続できなくなる恐れがあった。 今回協議した香港とマカオ、カンボジアはいずれも「非清浄国」。協議の結果、香港とマカオはワクチン接種豚の肉でないことなどを条件に輸出を継続できるとの回答を得た。カンボジアは現行の条件のままで継続可能とした。 さらにシンガポールとも輸出継続の協議に向けて日程を調整している。 江藤農相は会見で「引き続き豚肉の輸出継続に向けて各国に働き掛けを続けていく」と話した。 豚肉の輸出額は2018年で10億4000万円。うち香港が7億1000万円(68%)、マカオが1億3000万円(12%)、シンガポールが1億2000万円(12%)、カンボジアが3000万円(3%)などとなっている。 日本農業新聞の購読はこちら>> 2019年10月09日
日米協定とTPP 主要品目を比較 日米貿易協定が正式署名されたことで、焦点は国会での承認案の審議に移る。昨年9月の日米共同声明に沿って、農産物の自由化水準が環太平洋連携協定(TPP)など過去の協定の範囲内にとどまったかどうかがポイントとなる。米、牛肉などで比較してみると──。 下回る米・乳製品 輸入枠設けず 昨年9月の日米共同声明は、日本側の農産物の市場開放水準について、TPPを念頭に「過去の経済連携協定が最大限」とした。合意後、安倍晋三首相は「共同声明に沿った結論が得られた」と強調。政府によると、農林水産物のうち最終的に関税を撤廃する品目の割合はTPPの82%に対し、日米協定は37%。 TPPでは米国産米に最大7万トンの輸入枠を設け、一部の米の調製品や加工品は関税を撤廃・削減したが、日米協定では輸入枠を設けない。関税撤廃や削減の対象から「除外」した。 脱脂粉乳やバターなどTPPで参加国全体が対象の輸入枠(TPP枠)を設定した33品目は、輸入枠を作らなかった。 チーズはハード系の関税撤廃などはTPPと同様だが、TPP枠がある品目に米国向け輸入枠を設けなかったため、政府は「下回る」と説明する。 不透明 牛肉 「SG」が焦点 TPPの「範囲内」かどうか判断が難しいのが牛肉だ。関税率についてはTPPと同様に9%までの削減だが、発効時にTPP参加国と同じ税率にする。 米国向けに緊急輸入制限措置(セーフガード=SG)を新設し、2020年度の発動基準数量は近年の輸入実績未満だが、TPPの見直しまではTPP向けのSGと併存する。その間、米国も含めて設定したTPPのSGは事実上発動せず、TPP参加国が見直しに応じるかも不透明だ。 豚肉やワインなどもTPPと同様に関税を削減・撤廃するが、発効時にTPP参加国と同じ税率に下げる。これについて「TPPより優遇している」(野党農林議員)との指摘もある。 一方、米国は日本産牛肉の低関税(1キロ当たり4・4セント)輸入枠を実質的に拡大する。現行の年間200トンから、6万5005トンまで広がった。TPPでは日本向け輸入枠は最大6250トンだった。だが枠内の関税は無税で、輸入枠を超えた場合の関税(26・4%)も15年で撤廃としていた。どちらが日本に有利かは評価が分かれそうだ。 米国の自動車や同部品の関税撤廃についても、TPPでは期限を明記したが、日米協定では、できずに継続協議となった。 こうした点を含め、国益にかなう結果となったのか。そもそもTPP水準の農産物の自由化にも懸念はある。国会審議では合意内容の徹底した検証が求められる。 日本農業新聞の購読はこちら>> 2019年10月09日
日米協定巡り論戦 代表質問始まる 首相 所得向上実現に注力 野党 1次産業へ影響懸念 安倍晋三首相の所信表明演説に対する各党の代表質問が7日、衆院で始まり、与野党の論戦が本格化した。立憲民主党の枝野幸男代表は、日米貿易協定の結果を問題視。環太平洋連携協定(TPP)や欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)と合わせ、「1次産業に与える影響は極めて大きい」との懸念を示した。安倍首相は、農家所得向上実現に力を入れていく方針を示すなどし、野党の追及に反論した。 枝野氏は「ただでさえ、わが国の1次産業は生産基盤が著しく弱っている」と強調。TPPと日欧EPA、日米の3協定に、「悪影響を放置すると、壊滅的な状況に陥る」と警鐘を鳴らした。食料の安定供給や農山漁村の多面的機能の維持などを重視し、対策として農業者戸別所得補償法案の成立を挙げ、安倍首相の認識をただした。 安倍首相は、旧戸別所得補償制度が全販売農家を対象にしていた点を挙げ、「担い手への農地集積のペースを遅らせる面があった」と指摘。安倍政権では麦や大豆、飼料用米など「需要のある作物の生産振興を図っている」とした上で、農地集積や輸出促進などと合わせ、「前向きな政策を強化してきた」と強調。一連の政策を引き続き推進し、「農家所得向上を実現していく」と訴えた。 自民党の林幹雄幹事長代理への答弁では、日米交渉の成果に関し、「わが国にとって大切な米は関税削減の対象から完全に除外した」と強調。日本産牛肉の低関税輸入枠拡大を成果に挙げ、「新しいチャンスも生まれ、国益にかなう結果が得られた」と主張した。 国内対策の根拠となるTPP等関連政策大綱の改正は「年末に向けて、与党の力も借りながら改正する考えだ」と与党との連携を強調。「新たな市場の開拓や生産基盤の強化などに取り組むことで今回の協定を全国津々浦々、わが国の経済のさらなる成長につなげていきたい」とした。 豚コレラへの対応は「一刻も早い終結に向けてあらゆる対策を総動員する」とし、発生農家の経営再開への支援など「万全の支援策を講じる」と語った。 相次ぐ台風による農業被害には、災害復旧事業の早期実施、農業用ハウス再建への支援、停電対策などを例に挙げ、「総合的な農林漁業者への支援を決定し周知を図っている」とした。 日本農業新聞の購読はこちら>> 2019年10月08日
農福連携を後押し 農業側の助成拡大 障害者向け施設整備 農水省が概算要求 農水省は農福連携を加速させるため、2020年度から農業法人を対象に、障害者が就労する農業生産施設や加工販売施設の整備費用を新たに助成する。これまでは社会福祉法人や民間企業など福祉側が対象だったが、農業側にも拡大。農福連携への取り組みを促し、農業生産の拡大につなげる。 同省が20年度予算の概算要求に盛り込んだ。19年度は、社会福祉法人や民間企業に福祉農園を始める際の支援として、水耕栽培のハウスといった農業生産施設、加工販売施設などの整備費用を助成。…… 2019年10月07日
2050年 世界の食料需要1・7倍 単収増加が必須 農水省予測 2050年、世界の食料需要量は10年と比べて1・7倍に増大──。そんな予測結果を農水省がまとめた。地球温暖化を前提に人口増加や経済発展を加味して予測した。穀物の生産量は1・7倍に増えるが、収穫面積は横ばい。単位収量増加で需要増に対応する構図だ。長期的に食料をどう確保していくかが課題になる。 10年から50年にかけて世界の平均気温が2度上昇するという、気候変動シナリオに基づき予測した。 50年の食料需要量は58億1700万トンに増加。低所得国で2・7倍、中所得国で1・6倍と大きく伸びる半面、高所得国は1・2倍にとどまる。 品目別の需要量は穀物が1・7倍、油糧種子が1・6倍、砂糖作物が1・2倍、畜産物が1・8倍になる。 穀物の生産量は36億4400万トンに増える。小麦が1・8倍、米が1・7倍、トウモロコシが1・6倍、大豆が1・5倍に増加する。いずれも収穫面積は横ばいだが、農業関係への各種投資が増えて単収増につながり、生産量を押し上げるとみる。 世界の農地面積は、気候変動に伴い7300万ヘクタール拡大し、16億1100万ヘクタールになる。オセアニアや中南米、アジアで増加するが、北米やアフリカでは減少し、農地分布が変化する。 北米、中南米、オセオニア、欧州では主要4作物の小麦、米、トウモロコシ、大豆の純輸出量が増加する。一方、アフリカや中東、アジアでは生産量の伸びが需要の増大に追い付かず純輸入量が増加する。 同省は食料需給逼迫(ひっぱく)を回避するには、国内生産の増大を図りつつ、食料輸入の増加が見通されるアフリカなどへの継続的な技術支援をすることが課題になるとしている。 日本農業新聞の購読はこちら>> 2019年10月07日
堆肥・化成混合OK 省力、低コスト期待 法改正 農水省は4日、堆肥と化学肥料を配合した「混合肥料」の製造販売を認めるなどの肥料取締法改正案を明らかにした。堆肥と化学肥料を混合した新しい肥料の開発や利用が可能になり、農家は土づくりと施肥が一度にできる施肥作業の省力化や経費削減などが期待される。農家が安心して肥料を活用できるよう、肥料原料として利用可能な食品残さなどの産業副産物に規格を設け、安全な肥料の確保にもつなげる。…… 2019年10月05日
日米協定 生産基盤強化で対策 臨時国会首相所信 輸出加速へ意欲 第200臨時国会が4日、召集された。安倍晋三首相は所信表明演説で、日米貿易協定について「生産基盤の強化など十分な対策を講ずる」と強調。環太平洋連携協定(TPP)などで農産物の輸出が増えたとして、新法の制定でさらに加速させる方針を打ち出した。豚コレラの早期終息を目指す考えも示した。 日米貿易協定の合意について「日米双方にウィンウィンとなる結論を得られた」と改めて評価。一方で「それでもなお残る農家の皆さんの不安にもしっかり向き合う」と、十分な対策を講じる考えも示した。政府・与党は今国会で同協定を承認したい方針だが、合意内容を巡って野党の追及は必至だ。「自由貿易の旗手」として、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉などを進めていく方針も示した。 豚コレラについては、「ワクチン接種をはじめ、あらゆる対策を総動員して、一刻も早い終息に努める」と強調した。 農産物の輸出を巡っては、TPPや日欧経済連携協定(EPA)の効果で「牛乳・乳製品の輸出は2割以上増加し、欧州への牛肉輸出は3割上昇している」と主張した。 「あらゆる農産品に、世界に羽ばたくチャンスが訪れている」とし、輸出加速への意欲を表明。農水省が今国会に提出する農林水産物・食品輸出促進法案の制定で「各国の輸入規制緩和に向けた働き掛けをオールジャパンで進める」とした。 「ベトナムやシンガポールでは最近、日本の粉ミルクが人気だ」「福島の農産品輸出は過去最高となった」「32の国と地域で(輸入)規制の完全撤廃が実現した」など、輸出に関する実績を並べて強調した。 東日本大震災からの復興に向けて「司令塔となる復興庁の後継組織を設け、復興に全力を尽くす」と訴えた。 「これからも、安倍内閣は経済最優先だ」と強調する一方、農政改革をはじめとする規制改革への言及はなかった。憲法改正論議の進展にも強い意欲を示した。 所信表明演説に対する各党の代表質問は衆参で7~9日に予定する。 日本農業新聞の購読はこちら>> 2019年10月05日