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米軍ヘリ「53E」はなぜ墜落したのか? 真相に迫るアメリカの調査報道

10/10(木) 8:20 配信

米軍最大の輸送ヘリ「53E」は、なぜ、相次いで墜落事故を起こすのか――。米国の大学を拠点とするジャーナリストたちが、その謎を追い続けている。同じ型のヘリは2017年10月に沖縄県でも炎上したが、原因は今も「不明」のままだ。このヘリは米国内でも多数の事故を起こし、これまで130人以上の米軍兵士・軍属が死亡している。「死亡事故最多のヘリ」でもある。チームの調査は、どこまで真相に迫ったのか。(取材・文=大矢英代、当銘寿夫/Yahoo!ニュース 特集編集部)

米軍大型ヘリが炎上

話は2年前、2017年10月11日の沖縄から始めたい。

沖縄本島北部の東村(ひがしそん)高江。午後5時過ぎ、農業を営む西銘(にしめ)晃さん(66)は、仕事を終えたところだった。ふと前方を見ると、巨大な黒煙が上がっている。自宅の方角だった。驚いてトラックに乗り込み、アクセルを踏んだ。

父から携帯に着信が入る。「おまえの牧草地に何かが墜落したようだ」。現場に到着すると、数人の米兵が「爆発するかもしれない。近づくな」と大声で叫んだ。

目の前で、米軍の大型輸送ヘリが炎を噴き上げていた。米軍普天間飛行場所属の「CH-53E」だった。

西銘さんの牧草地で炎上するCH-53E=2017年10月11日(西銘晃さん撮影・提供)

あれから2年。現場を訪れると、事故の痕跡はどこにもなかった。数日前に刈り取りを終えたという牧草が、海からの潮風でゆったりとなびいている。

現場から西銘さんの自宅まで、わずか300メートルほど。「もし自宅だったら」との恐怖は今も消えない、と西銘さんは言う。

「(空を)意識するようになっている。特にさ、(事故後も)あちこちで事故が起こっているでしょ? 心配になるわな」

高江で生まれ育った西銘晃さん。米軍訓練は日常の一部だったが、自分の土地で事故が起きるとは想像もしていなかったと言う(撮影:当銘寿夫)

緑豊かな森が広がる東村。高江地区は米軍の北部訓練場に囲まれたエリアでもある(撮影:当銘寿夫)

米軍は事故後すぐに飛行を再開し、昼夜を問わず訓練を続けている。取材中も、バラバラバラという重低音が響いた。大型の米軍ヘリが飛行していく。夫の横で、妻の美恵子さん(65)はこう言った。

「落ちると分かったから、怖くてね……。しかも、真上というか、突っ込んでくるような飛び方。余計、恐怖心があって。心臓がドキドキして……」

米軍の53E。イラクやアフガニスタンの戦場でも使用された大型ヘリだ(提供:DVIDS)

輸送ヘリ「53E」は、全長約30メートル、重量31.7トン。兵士なら55人、貨物なら14.5トンを積載できる。海兵隊所属は「CHスーパースタリオン」、海軍所属は「MHシードラゴン」と呼称は異なるが、いずれも同型機だ。運用は約40年前の1981年から始まり、今も世界中で運用されている。

米軍で最も大きなこのヘリは、米軍にとって「死亡事故最多ヘリ」でもある。事故の実態はどうなっているのか。なぜ、事故が続くのか。

その調査を続けているのが、米カリフォルニア大学バークレー校ジャーナリズム大学院に拠点を置くジャーナリストたちだ。「調査報道プログラム(IRP)」に参加するメンバーたちが独自ニュースの制作・配信を続けている。

大学を拠点に「真相」を追う

カリフォルニア大学バークレー校。名門校として知られている(撮影:大矢英代)

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