選手・スタッフへのパワーハラスメント行為が認定されたサッカーJ1湘南の曹貴裁(チョウ・キジェ)監督(50)が退任することが決まった。スポーツ報知では「湘南・曹監督パワハラ辞任 検証」と題し、サッカー界に衝撃を与えたJリーグ初の事案について、3回にわたり緊急連載する。
「お前はチームのがんだ。他(の選手)にうつるから出ていけ」「お前なんかけがしてしまえ」―。Jリーグが公表した調査報告書には、曹氏の言動が詳細に記されていた。調査はクラブ内部からJリーグに匿名の通報があったことに端を発する。クラブを飛び越え、リーグへ告発があったことに騒動の本質が透けて見える。
Jリーグの村井満チェアマンは告発者またはその身近な人物がクラブ側に申し入れたが、改善が進まなかった趣旨の内容が含まれていたため、調査に乗り出したことを明かした。スポーツ報知の取材でも被害を訴えた複数のチーム関係者が幹部に「耐えられない」「もう無理です」などと改善を要求したが、聞き入れてもらえなかったことが判明している。
厚生労働省はパワハラの定義を「同じ職場で働く者に対し、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは就業環境を悪化させる行為」としている。
曹監督より上の立場にいる人間がブレーキ役になる必要があったはずだ。だが真壁潔会長は曹監督と15年来の付き合いで、監督を管理する立場の強化部トップの坂本紘司スポーツダイレクター(SD)はかつて選手としてチョ氏のもとでプレーし、「監督が強化部長を選ぶ」という異例の背景で入閣した人物。18年ルヴァン杯優勝など限られた資金と戦力で結果を残してきた監督に対し、幹部陣がもの申せる環境ではなかった。
調査報告書では、会長について「不適切な言動を相当程度認識し得た。注意したり改善させたりしようとした形跡は認められなかった」、SDについては「パワハラ認定事実の大半を認識し、または容易に認識し得た。曹氏の実態や問題性について社長・会長への報告・連絡・相談もほとんどされなかった」と記された。
曹氏の言動が原因で退団した選手は、本紙の取材に「どうにもならなかった」と明かした。調査報告書によれば、15年から19年7月まで少なくとも十数人が被害を受けたとみられる。弁護士4人から成る調査チームは「(フロント幹部が)事実上容認していた」と結論付けた。(特別取材班)