ノーベル化学賞がリチウムイオン電池を開発した吉野彰・旭化成名誉フェローら三氏に贈られることが決まった。環境問題への貢献が評価された。日本の先端技術への評価でもある。
リチウムイオン電池は一九九〇年代後半から、デジタルカメラや携帯電話、パソコンなどで広く利用され始めた。私たちに身近なものである。
しかし、現在、もっとも注目されているのは容量の大きな蓄電池としてである。電気自動車(EV)に使われるだけでなく、再生可能エネルギーを利用する上で重要な蓄電池として期待されている。授賞理由でも脱化石燃料への貢献が挙げられている。
赤崎勇名城大終身教授らが青色発光ダイオード(LED)で二〇一四年に物理学賞を受賞したのも、電力消費量の少ない照明器具としてのLED電球への応用が評価されてのことだった。
日本がノーベル賞に値する環境技術を二つも生み出したことを喜びたい。
吉野さんが研究を始めたのは八一年。会社から「付加価値の高いプラスチックの開発」というテーマを与えられたときだった。
この年、福井謙一博士がフロンティア軌道理論でノーベル化学賞を受賞した。その理論の有効性を示したのが、白川英樹博士(〇〇年に同賞受賞)が発見した導電性プラスチックだった。吉野さんは二人の受賞者の研究を基に開発に取り組んだ。
実用化に向けて旭化成は東芝と組み、最初に製品化したのはソニーだった。国内の企業が協力したり、競争したりして生み出したのだ。日本企業が電池の実用化に大きく貢献した。この点も青色LEDと共通する。
かつて吉野さんは本紙の取材に「これからはET革命だ。新しい革命は自動車から始まる。その原動力はリチウムイオン電池」と語った。Eはエネルギーや環境(エンバイロメント)を、Tは技術(テクノロジー)を表す。授賞理由に重なる発想である。
「新しい技術が普及するスピードは、どんどん速くなっている。携帯電話が出たとき、今のような世界は想像できなかった。ET革命はすでに始まっている」
石炭火力発電にこだわり、世界のひんしゅくを買っている日本政府や電力会社には、今回のノーベル賞の意義をかみしめてほしい。
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