神岡の「か」と重力波(Gravitational wave)の「GRA」でKAGRA。
日本の岐阜県にて、世界で4番目の重力望遠鏡KAGRAが建設されました。このKAGRAは12月より稼働を始め、地球上アチコチにある天文台とともに、時空に波紋を起こす宇宙事象の探索に加わることになります。
飛騨の地下200mに掘られたトンネル
プレスリリースと公式サイトの説明文によりますと、KAGRA(大型低温重力波望遠鏡計画)は、岐阜県飛騨市神岡町にある神岡鉱山の地下200mに建設され、現在は試運転の段階にあるとのこと。
そしてアメリカにあるふたつのレーザー干渉計重力波観測所「LIGO(ライゴ)」と、イタリアの「Virgo(ヴァーゴ)」に加わる予定だ、とあります。これらすべての施設はデータを共有し、互いに結果を検証する独立した機関として機能することとなります。
検出の方法
KAGRAは、LIGOやVirgo検出器と同様に、“重力波”と呼ばれる時空における微弱な波紋を検出するためにレーザー干渉法を用います。「マイケルソン干渉計」を巨大化したこの実験施設は、地下に2本、長さ3kmのアームがL字型に埋蔵されています。
光学系はレーザー光線をL字に分割し、トンネルのどちらかの側を通過させた後、検出器のビームに再び合流させます。KAGRAのサイトにある説明文には、こうあります。
重力波による物体間距離の変化は、直交する二つの方向のうち、片方が伸びた時はもう片方が縮むという変化を繰り返します
光は重力波で歪んだ空間に沿って走る性質を持つため、直交方向で伸縮するという性質を利用して、KAGRAのL字に延びたアームが重力波を観測します。
(伸縮の)長さを測るには、同じ光を直交するニ方向に向けて発射し、遠くに置いた鏡で反射させ、また戻ってきた光の到達時間を両方で比較します。伸びた距離を走った光のほうが短い距離を走った方の光より帰ってくるのに時間が長くかかるため、伸縮の有無が(光の干渉を通じて)分かります
大きなサファイア鏡が要
KAGRAは地下で稼働する初めての重力波検出器で、地下にある理由は、誤った信号を生成する可能性のある外部ノイズの影響を受けにくくするため。実験中は5kmほど離れた施設から遠隔操作し、人間がいることで発する微弱な振動すらもシャット・アウトさせるのです。
またLIGOのプレスリリースいわく、低温冷却ミラーを搭載するのも初めての試みで、レーザーを反射するミラーをほぼ絶対零度まで冷やすことで、熱によるノイズが低減するのだそうです。そのミラーには、人工サファイア製のレーザー反射鏡が使われている、というのもKAGRAの特徴となっています。
機器が増えれば精度が高まる
2015年、ふたつのLIGO重力波検出器は重力波を発見したと最初に発表しました。その重力波は、太陽の数十倍の質量を持つふたつのブラックホールが、13億光年離れたところで衝突し、エネルギーを放出した結果だったのでした。そこにVirgoも参加し、独自に確認した信号を提供。
そして2017年、検出器らはさらなる観測により、信じられないほど高密度で小さくなった星の亡骸=中性子同士が衝突する重力波を捉えることに成功しました。その業績によりLIGOの創設者のうち3人は、2017年のノーベル賞を受賞したのでした。
マルチメッセンジャー天文学の精度を高める
KAGRAは4つ目の重力波検出器として、重要な追加になることでしょう。これはLIGOの検出内容に独立した検証を提供しますが、より大事なことは、空からやって来る重力波の起源をより詳しく特定するのに役立つ、ということ。重力波を検知し、そのすぐあとに従来の望遠鏡を使って重力波を引き起こした可能性のある天体を探す能力にあります。新しい天文学を取り巻く興奮の一端は、重力波検出器にかかっているのです。
天文学者たちは2017年以降、世界各地で様々な波長を観測し、そこから総合的に結論を導き出す「マルチメッセンジャー天文学」による発見がないままとなっています。そういう意味でも、KAGRAによって重力波発生位置特定の精度が高まることで、天文学者らがその範囲だけに絞って観測すれば良くなるよう、効率化されることが期待されています。
全基同時稼働は12月より
KAGRAの建設はこの春に完成し、LIGOとVirgoの科学者たちも、共同作業の詳細とデータの共有方法を記した覚書に署名しました。そのほか3つの検知器は、今年の4月1日より稼働しており、12月より、全4カ所の検知器が来年4月まで同時に稼働します。新発見に期待大ですね。