あと1点が届かなかった敗者を、九州のファンは温かい拍手でたたえた。しかし、楽天にとってソフトバンクは、敗北を受け入れてはいけない絶対に倒すべき宿敵だ。これは僕が勝手に書いているのではない。
「ドラゴンズのときは読売が負けちゃいかん相手だった。だからオレは立ち向かっていったんや。楽天の監督になって、オーナーに聞いてみたんだよ。『一番負けたくないのはどこですか?』ってな。そうするとソフトバンクだと言う。よしわかった。それならソフトバンクには絶対に勝とうとなったわけだ」
楽天の監督を退いた後の星野仙一さんが、こんな話をしてくれた。中日は読売(巨人)に牙をむく。楽天はソフトバンクに爪を立てる。燃える男、闘将と呼ばれた男の生き様を表す話である。
この日の試合前、両チームの関係者、スタンドのファンが、6日に亡くなった金田正一さんに黙とうをささげた。巨人でも活躍した金田さんだが、長い日本プロ野球の歴史で最も多く巨人から勝った投手でもある。そんな大投手ですら負け越し(65勝72敗)ている。最も勝率が高かった(30勝以上)のが星野さんだ。投手として35勝31敗。監督として134勝154敗4分け。宿敵の壁は高く、厚かったが決して背は向けなかった。
三木谷オーナーから請け負った打倒ソフトバンクは、4年間の監督在任中に47勝46敗3分けと見事に成し遂げた。もし健在なら、惜しくても届かなかった1点をさぞ悔しがったことだろう。
金田さんも星野さんも、負けることが大嫌いだった。今の選手も負けるのは嫌だろうが、果たして「打倒読売」の思いは通じるのだろうか。この3年間、負け越しが続き借金を13つくっている。負けてはいけない相手がいるのは幸せなことだ。そんな物語は、ファンにも必ず伝わる。敵地を去る楽天を見ながら、来季こそ昇竜復活をという思いが強まった。