政府は外資による原子力や半導体など安全保障上重要な日本企業への出資規制を強化する外為法の改正案をまとめた。今は株式の10%以上保有としている出資の事前審査を「1%以上」に厳しくするほか、役員選任の提案や事業譲渡の内容も国が審査する。
中国を念頭に先端技術の流出防止で米欧と足並みをそろえるが、日本への投資を冷やすと懸念する声もある。
財務省は8日、審議会の分科会で改正案に有識者の合意を得た。臨時国会に提出し、2020年度中の施行を目指す。
外資への規制を定める外為法では、外国投資家が日本の安全保障に関わる事業を手掛ける国内の上場企業の株式を10%以上取得したり、非上場企業の株式を取得したりする場合、事前の届け出を義務付け、審査している。対象業種は武器や航空機、電気、ガス、通信などだ。政府は8月から半導体メモリーなど新たにIT(情報技術)関連20業種も対象に加えた。
改正案では事前届け出の対象を広げる。対象を発行済み株式数の10%以上から、同1%以上に厳しくする。会社法で議決権1%以上の株主に株主提案権が認められていることを踏まえた。
法改正前に対象企業の株式を1%以上保有していれば届け出の必要はない。外資が1%以上から株式を買い増す際には届け出を求められる。
さらに海外投資家がすでに出資した日本企業について、役員選任の提案や重要な事業の売却など経営に影響を与える行為をするなら、新たに事前届け出を求める。主要株主が合意していても、政府が安全保障上の問題があると判断すれば、止められることになる。
一方、株価指数連動の資産運用など現在、事前届け出の9割を占める経営関与を目的としない投資家は事前届け出を免除し、事後報告のみとする制度を新設する。ファンドマネジャーによるアクティブ型の投資であっても、幅広い銘柄を運用するなら届け出はいらないという。安全保障上の懸念がない投資家は規制を緩め、投資を呼び込む。
経済産業省も8日、外為法による次世代技術の輸出規制を厳しくする方針を公表した。人工知能(AI)やバイオテクノロジーなどの先端技術を輸出規制の対象に加える。大学の管理も強める。
政府が外資規制の見直しを急ぐ背景には、世界的な潮流がある。米国は中国を念頭に外為法にあたる法律の大幅な強化を決めた。欧州勢も同じ方向だ。「このままでは日本だけが抜け穴になりかねない」(日本政府関係者)との危機感がある。
課題は少なくない。一つは透明性や説明責任の十分な確保だ。新設する免除制度は「外国政府などの影響を受ける者」を適用外とした。国有企業などを想定するが具体的な線引きはこれからだ。
もう一つは審査の実効性だ。外為法では財務省と各担当省庁が届け出を精査し、支障があると判断したら外為審議会の意見を聞く。財務省によると、現在届け出数は年平均約600件あり、改正後は8倍に膨らむ見通し。実績などからそのうち9割は免除制度の対象になるとみているが、作業は膨大だ。
政府は外国政府などとの情報連携を強化する方針だが、迂回して投資している場合などにリスクを判別するのは容易ではない。通商関連法に詳しい藤井康次郎弁護士は「技術流出を防ぐには投資規制だけでなく、輸出規制や不正競争防止法などと一体で対処する必要がある」と話す。
政府は20年までに対内直接投資残高を35兆円にする目標を掲げる。18年末は30.7兆円で国内総生産(GDP)の6%弱と、3割強の米国、6割強の英国とは差がある。安保上のリスク管理と投資呼び込みのバランスが重要になる。