ルパン三世 ナザリック狂想曲 作:マモー
ユグドラシル、始まりの街近くの森。
たっち・みーこと館文彦はさっきまでの事を思い出していた。
アーコロジー、高級居酒屋『HANAKO』。
ちゃんとした料理自体が貴重なこの時代、この様なちゃんとした居酒屋もちょっとお高くなるのは無理も無い。
そんな居酒屋の座敷で、顔を突き合わせる二人がいた。
「あの、警部? そ、それなに食べてるんですか?」
「うるせぇ、あんな不味い合成食料じゃ出せるチカラも出やしねぇってんだ! 日本人なら米を食え! 米を!」
そう言って納豆ご飯をかき込む銭形とそれを眺める館、そして。
「いやー、すいませんね遅れちゃって」
「うわー、遊馬、私初めてこーゆーとこに入ったよ」
「でも本当に良いんでしょうか、僕らがご馳走になって」
「貴様、警部のお心遣いがわからんのか! 日夜職務に励む我々へのせっかくのお誘いだぞ! にもかかわらず進士のヤツめ、なぁーにが嫁さんが待ってるからだ、さっさと帰りおってぇ!!」
「よしなさい太田くん、家庭の事だもの仕方がないわ」
後から座敷にやって来たのは館の仲間、特車二課第二小隊の面々である。
上から篠原遊馬、泉野明、山崎ひろみ、太田功、熊耳武諸。
先の太田の発言のとおり、進士幹泰は帰宅、香貫花・クランシー、空谷みどり両名は私用のため欠席、隊長の後藤も先約があるとかで欠席だ。
すると銭形は遊馬の顔をジーと見つめだす。
「あーっと、俺の顔に何か?」
「……ルパーン! 逮捕だぁっ!!」
「いででででででっ!!??」
言うや銭形は遊馬に飛び掛かり顔を引っ張り回す。
飛び掛かられた遊馬は訳も分からず悲鳴を上げるしか出来なかった。
「ちょっ、ちょっと警部!? 何するんですか!?」
「ど、どう言う事!? あ、遊馬がルパン!?」
「篠原、貴様ぁ!!」
「んな訳あるかぁーっ! なんとかしてくれぇーっ!!」
「なんだ、ルパンじゃないのか」
ガッカリとした様子で遊馬から手を離す銭形と若干涙目の遊馬、呆然とした居酒屋の個室。
いきなり顔を引っ張り回された遊馬が怒るのも無理は無い。
「なにすんだ一体!?」
「い、いやぁ、すまん。一時期のルパンの声とそっくりだったもんで、つい」
「そんないい加減な理由で押し倒されたのかよ!?」
そこに野明が疑問の声をあげる。
「ルパンって変装の名人って聞いてますけど、声とかも変わるんですか?」
「ああ、その通り。顔は勿論のこと背格好から声帯、性別まで変幻自在だ。一昔前の指紋認証、網膜認証、声帯認証なんてセキュリティは飾りにもならん! それに素顔すら不明と来てる」
「す、素顔すら分からないって。どうやってルパンだって見分けるんですか!?」
館の疑問ももっともである。
「ワシはヤツとはなが〜い付き合いだからな、一目見ただけでピンと来る。まぁ、心配せんでもヤツは基本的に細部は違えどこのモンキー顔だ。この顔を見たらとりあえずとっ捕まえとけば問題無い」
「そんな無茶苦茶な」
隊員一同席につき、銭形の出したルパンの顔写真を見つめるが、この顔を見たらとりあえず捕まえろと言うのはさすがに信じがたいものがあった。
「それじゃあ指名手配できないですね。なんたって顔の情報が曖昧なんですから」
山崎の言葉に銭形は首を横に振る。
「顔が分からないから手配出来ない訳じゃあ無い。まずルパンという男は現行犯でないと逮捕出来んのだ」
「それは一体」
熊耳は眉をひそめるが、銭形がそれに応えた。
「簡単な事だ。ヤツがやったと言う証拠が何にも無いんだからな。予告状を出し、多くの警察官の前に姿を晒してもなお、一切の証拠が無い」
「自分は納得いきません! そんな馬鹿な話が!」
いきり立った太田が机を叩く。
「そう馬鹿な話だ。ヤツの盗みの腕のおかげでな。しかし、ワシにはルパンを追い、逮捕する権限と責務がある! この責任に掛けて漢銭形、必ずやルパンめを逮捕する。それがワシをこの時代へと送り出した者たちへの礼儀なのだ!!」
「警部殿! 貴方は警察官の鑑です! 是非自分に捜査をさせて下さい! 必ずルパンの土手っ腹に銃弾をぶち込んで見せます!」
「こらぁ! 殺しちゃいかん!」
「太田のバカは撃ちたいだけだろ」
「俺に銃を撃たせろおおおぉぉぉっ!!!」
太田がお約束みたく叫んだところで食事会の始まりである。
「ともかく! 君たちの貴重な戦力をルパン捜査の為に引き抜く事になる。その礼と言っては何だが、今日は好きなだけ食べて英気を養うと良い。遠慮は要らんぞ! がっはっはっはっ!」
「んじゃま、お言葉に甘えて。すいませーん、生くださーい!」
「篠原ぁ! 貴様、少しは有り難みというものをだなぁ!!」
「まぁまぁ、太田さん。せっかく機会ですから」
各々が好き勝手に喋る中、銭形が疑問を口にする。
「そう言えば、君ら特車二課というのはなんなんだ? ワシの時代には特車隊はあったが、二課なんて無かったが?」
「へぇー、警部って本当に百年前の人なんだ」
「まぁ、私たちの部署が出来たのは最近だからね」
館は感慨深く頷く。
それを見た遊馬が助け舟を出した。
「物思いにふける前に警部の質問に答えるとこだろ? 太田、出番」
「うぉっほん!!
レイバー、それは作業用に開発されたロボットの総称である。建設・土木の分野に広く普及したがレイバーによる犯罪も急増、警視庁は特科車両二課パトロールレイバー中隊を新設してこれに対抗した。通称『パトレイバー』の誕生である」
「はい、お疲れさん。と、まぁ、そういう訳で我々警視庁警備部特殊車両二課パトロールレイバー中隊は日夜凶悪なレイバー犯罪から市民を守っとると言うわけですな」
「レイバーが出始めてまだまだ日が浅いですからね。環境汚染された外の世界のどんな地形でも活動できるロボット。まぁ、ロボットとは言え、区分的には特殊車両、早い話が作業用の重機なんですが。それにマスクは必要ですし」
「ほぇー、どちらにせよワシからすればアニメか漫画の世界だな」
「私達からしたら警部の方がアニメのキャラに見えるけどねー。古い作品だから見た事はないけど」
「まぁ、ルパン三世シリーズと言えば大ヒット作品ですから」
「なんだぁそれは?」
「2067年からルパン三世を主人公にした漫画が始まりまして。アニメ化、映画化、テレビスペシャルなんかもやってましたから。勿論、銭形警部も出てたようで」
「へぇー、ワシらがアニメや映画にねぇ」
銭形が感心していると、何やら熊耳がそわそわとしているではないか。
見かねた館が問う。
「どうしたんですかお武さん?」
「あ、あの! 銭形警部!」
「な、何かな!?」
「よ、よろしければサインを頂けませんか?」
「ワシが? サイン?」
熊耳が銭形に突き出したのは一枚のハンカチとペンだった。
ちなみにこの時代では木材の不足も相まってサイン色紙というのは珍しいものである。
「えっと、じ、実はファン、でして」
「ファン? ワシの?」
「はい」
お武のこの言葉に嬉し泣きも嬉し泣き、涙溢れさせながら銭形は嬉々としてハンカチにサインを書いたのだった。
「ああ、いいとも、いいとも! 苦節何十年、ルパン逮捕に身を捧げたワシの人生が認められる日が来ようとは、くぅ〜! ワシャぁ嬉しくて嬉しくて! よぉーっし! さぁ、みんなじゃんじゃん食ってくれぇ!」
「「「「「ご馳走様でーす!」」」」」
「ところで館くん?」
「なんですか警部?」
「これって経費で落ちるよな?」
「え゛!?」
こうして特車二課の面々と存分に飲み食いをした後今日の所は解散となり、館はユグドラシルにログインしていた。
ちなみに館は経費で落ちるとはこれっぽっちも思ってはいない。
「大丈夫なんだろうか……」
自身のこれからに多少の不安を抱えつつユグドラシルを歩くが、その時木の向こうから怒声と争う様な音が聞こえて来た。
館、いや、たっち・みーはすぐさまその方向へと走り出していた。