移住すれば、自分の思い描く生活が待っているわけではない。都会以上に、地方の人間関係は密なものであり、ないがしろにしてはいけないのだ。地域のコミュニティへ積極的に足を運ぶようにして、少しずつ関係性を築いていき、地域に溶け込めるようにする。

 また、小商いやローカルビジネスを始める際も、地域の人が喜ぶような活動を行ったり、地域の人を巻き込むよう意識したりすることで、次第に自分のやっていることが理解されるようになるのではないだろうか。

◆移住先の「土地柄」に惚れ込むことの大切さ

 もともとアパレルジーンズメーカーで勤務していた荻原氏。一念発起して西条へ移住し、蕎麦屋を15年経営している身として、西条市の魅力をこう語る。

「西条市は今も、古き良き日本が色濃く残る街。四国は30年前に橋がかかった土地で、出る人はいても入ってくる人は少ない。そのため、西条人は度量の深さがあり損得勘定よりも、正しいかどうかで判断する考えの人が多い」

 西条に残る古き良き日本の考え方に触れ、作られた良さではなく、存在している良さに気づいたのだという。

 眞鍋氏は西条に住む住人の性格や気質について次のように語った。

「西条人は自分から構いにいく気質ではない。特に西条の男性はシャイで内気な人柄が特徴で、一歩引いた感じで接するイメージがある。だが、最近は外部からのよそ者に慣れてきたと感じていて、外から来た人に対しても受け入れる気質になってきている」

◆移住は目的ではなく手段

 荻原氏は、夢を抱いて大阪から来たときの苦労話を振り返った。

「西条市には手打ち蕎麦屋がなかったので、手打ちだから人気が出るだろうと思い込んでいた。しかし、西条の人が何を欲しているのかが掴めず、全然売上が立たなかった。大阪からやって来たというプライドを捨てきれず、独りよがりになっていたことに気づいた」

 自分が移住先で一旗揚げてやるという気概や意気込みを持つことは大切だが、それが独りよがりの考えになっては移住先で受け入れてもらえない。

 利他的な考えを持って地域の住人と接し、街に対する考えや風土を理解していくこと。移住先の一員として、地域にどう貢献していくかという考えを持つことが移住者には求められるだろう。

「外部から来た人が、大阪弁で西条の人と話すのはナンセンスだと思った。地域の風土や歴史を知る努力はもちろん、日常会話にも気を配り、少しずつ西条のことを理解するよう心がけた。自分のやりたいことを街に寄り添って掘り下げること。相手ありきの目線になって考えたとき、徐々に軌道に乗ってきた」(荻原氏)

◆なぜ移住したいかを先に考える

 物事やプロジェクトをうまく進めるための法則として、サイモン・シネックが提唱したゴールデンサークル理論が知られている。「What(何を)」や「How(どのように)」よりもまず、「Why(なぜ)から始めよ」という考えがあり、かのアップルが多くの人の共感を集めたのは、世界を変えるためにプロダクトを作っているという「なぜ」の部分を示したからと言われている。

 これを移住の話題に例えるならば、移住をどのようにするかと考えるのではなく、なぜ移住するのかを考えることから始めてみるといいのではないだろうか。

 今の時代、イベントに参加したりネットで調べたりと移住の情報はいくらでも取れる。相性のいい地域を見つける上では事前に下調べすることは重要だが、なぜその地域に住みたいのかをしっかりと考える必要があるだろう。

 移住の目的が、都会に比べて自然豊かな生活を送るというものなら、3年も経てば豊かな自然もただの風景になる。ライフステージの変化に合わせて、住む場所を変えるのも選択肢の1つだが、移住はあくまで手段として捉えることが大事だ。

<取材・文/古田島大介>

【古田島大介】
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている。