椅子から立ち上がろうとした瞬間、目の前がぐらりと傾いたように感じ、ベテラン編集者のN氏(男性・54歳)はデスクに手をついた。かろうじて転倒をまぬがれ、膝から床に崩れ落ちる。
(立ちくらみか。このところ風邪気味で熱もあったのに無理したからだろうか)
同僚たちが驚いて集まってきた。大騒ぎはしてほしくないので、急いで立ち上がろうとしたがダメだった。遊園地の回転するアトラクションのようにぐるぐると目が回る。あの手の乗り物は苦手だ。こみ上げる嘔吐をこらえ、横になる。
「救急車を呼びました。しっかりしてください」
搬送されたのは、会社の近くの総合病院だった。
「前庭神経炎(ぜんていしんけいえん)ですね。身体の傾きの感覚を脳に伝える前庭神経に異常が生じると、傾きの感覚がおかしくなり、めまいが起こります。どうして炎症が起きるのかはよくわかっていませんが、ウイルス感染や血管障害のせいではないかと言われています。けれど、はっきりとしたことは分かっていません。ただ、多くの場合、風邪を引いた数日後に起こるので、ウイルス感染や感染後の炎症と考えられています」
聴力検査、温度眼振検査、頭位眼振検査、血液検査に加え、MRI検査も受けた後、医師からこう診断を聞かされた。
「つらいめまいは明日か明後日ぐらいには治まるでしょう。その間は入院していただきます。退院後、1週間もすれば、めまいは大体消えますよ。でも、ふらつきやぐらぐらする感じは数ヵ月から1年以上、続くこともあります。リハビリも必要ですから、気長に治しましょう。しっかり治せば、再発はまずしません」
※1 めまい専門医療機関の統計