生を実感できる太田山神社
4年前に本殿を目前にしながらも岩壁に恐れをなした太田山神社。今回の再挑戦で無事参拝することができ、実に感無量だ。人間、何事もやればできるものである。
鎖から降り、地面に足を下ろした時は「生きて帰ってこれた!」と本気で思った。死と隣り合わせの状況から生還することで生を実感し、命のありがたみに感謝する。この感覚が欲しくて、修験者たちは危険な場所を好んだのかもしれませんなぁ。
北海道の西の果て、久遠郡せたな町の太田集落に「太田山神社」が存在する。本殿までたどり着くには急傾斜の山道を登り詰め、最後には約7mの断崖絶壁をよじ登らなければならず、その極めて過酷な道のりから“日本一危険な神社”と称されている。
私は4年前に参拝しようと試みたのだが、圧倒的な迫力の岩壁に恐れをなしてギブアップ。完全敗北と相成った。その様子はこちらの過去記事→「日本一危険な神社に参拝したかった」をご覧頂きたい。
今回、再び北海道を訪れた私は、今一度太田山神社に挑戦し、そしてなんとか参拝を果たすことができた。
まずは太田山神社の過酷さについて復習しておきたい。切り立った山々が連なる海岸に位置する太田集落、その背後に聳える太田山の岩窟に太田山神社の本殿が鎮座している。かつては蝦夷地最古の修験道の山として信仰を集めていた霊場だ。
本殿参拝への最終試練である岩壁は、凹凸が激しい上にオーバーハング状にせり出している。不安定に揺れる鎖を使って上らなければならないのだが、万が一滑落したら崖下まで真っ逆さまだ。命はない。
4年前は台風が通過した後でまだ風が強く、当時の私は鎖につかまっているだけで精一杯であった。結局、二段上っただけで死への恐怖に囚われ、たまらずギブアップしたのであった。
今回、太田山神社へ再挑戦するにあたり、前回の敗因を分析してみた。様々な要因が挙げられると思うが、主なところは次の四点だ。
そのうち天候に関する(4)以外はすべて自分に起因するものである。(1)は日々の積み重ねが必要であるが、実は私は最近まで約3年間、それなりに体を使う職場で副業をしていた。運動不足が著しかった4年前よりも、体力や筋力は向上しているはずである。
(2)と(3)は長期に渡るカブ旅行の最中であったことによるものだ。今回もカブ旅行なので条件は変わらないのだが、栄養と疲労の二点を意識して体調管理に努めることにした。
カブ旅行は自由に移動できる一方、運転に気を使うので意外と体力と精神力を消耗する。また宿泊はキャンプ場でのテント泊なので、ベッドよりも疲労が取れにくい。なので、太田山神社に挑戦する前日は、ほとんど動かず体力の回復に専念した。
とにかく食べて、とにかく寝て、体調を整える。その努力(食って寝ただけだが)の甲斐あって、参拝当日の朝は万全なコンディションで目覚めることができた。
さぁ、それでは決戦の地に向かうとしよう。太田集落は極めて険しい地形が連続する海岸にあり、そこまでのアクセスは道道740号線が唯一の手段である。
峻険な山々をバックに、海岸線にへばりつくように家屋が並ぶ太田集落。相変わらずの物凄いロケーションである。4年前は天気がイマイチだったのに対し、今回はスカッと爽やかな青空。これ以上ないくらいの好条件に気分は昂揚し、気力がもりもり湧いてくる。
くそー、相変わらずあんな危険な場所に独り寂しく鎮座していやがって! 待ってろよ、絶対にそこまでたどり着いてやるからな! ――と、決意を新たに登山口へと向かったのであった。
前回は準備運動などせずに山へ突入していたが、今回は違う。少しでも参拝の成功率を高めるべく、思いつく限りの策と準備を講じて挑むのだ。
その一環として、今回は自宅から秘密兵器を持参してきた。アウトドア好きな私の父親が所持している、登山用のロープとカラビナ(ロープを繋ぐ金属リング)である。
太田山神社は最後の岩壁がフィーチャーされやすいが、そこまで至る登山道も大概なものである。まぁ、外観からして物凄く切り立った山なので、当然といえば当然なのだが。
4年前となるとだいぶ記憶が薄れるものだ。特に太田山神社は最後の岩壁のインパクトが強大すぎただけに、その道中の記憶はかなり曖昧になっていた。
最初こそは「あー、こんな感じだった」としみじみ歩いていたものの、段々進んでいくにつれ「あれ、こんなにキツかったっけ?」と思うようになっていた。その道のりは私の頭の中にあった記憶よりも険しく、そして長いものであった。
今回の再挑戦にあたって、私は最後の岩壁をどう攻略するかということのみを考えていた。岩壁抜きでも十分すぎるくらいに険しい山道であるという認識を失念していたのだ。
岩壁までできるだけ体力を温存しておこうと思っていたのだが、そんなこと言ってられないくらいの道のりに不穏な影が差す。……いやいや、今回こそは本殿まで行こうと決意したのだ。気張っていこうじゃないか。
この辺りはこれまでの九十九折ではなく直線的な山道となる。どこまで進んだのか目印がない上に足元が不安定なので、体力的にも精神的にもかなりキツい区間だ。
なので山頂付近まで来たことを示す白い岩肌が見えた時は、ようやくたどり着いたという安堵半分、この状態で岸壁を上るのかという不安半分。かなり複雑な心境であった。
4年前はかなりボロボロだった鳥居の上部分が修復されていたのには驚いた。それはすなわち、鳥居の部材を担いでここまで登ってきたということだろう(ヘリで部材を下ろせるような場所はない)。
私はできるだけ軽装できたにも関わらず、山道の険しさにやられてへこたれそうになっていた。だが、この鳥居を修復した人々の苦労に比べれば、なんてことはないはずだ。よーし、やってやろうじゃないか!
覚悟を決めて鳥居をくぐったのは良いが、まずは岩壁までたどり着かねばならない。そこまでの道のりもまた非常に恐ろしいものである。
鳥居と同様、この空中回廊にも補修の手が加わっているようで、滑落防止のネットや滑り止めの縄などが強化されていた。とはいえ、それでも滑りやすい上に網が空いている場所もあり、やはり怖いものは怖い!
へっぴり腰で這いずるようになんとか進み、ようやく本殿の真下にまでたどり着いた。そして、最後の岩壁を4年ぶりに見上げる。ついに、ここまで、来てしまった。
固定されたハシゴとは違い、鎖の難しいところは前後左右に揺れることだ。しかも左右の鎖が別々に動くので、それを体勢で制御しなくてはらない。
とりあえず一眼レフカメラの入ったバックを空中回廊の隅に置いて身軽になる。余計な荷物を背負って挑めるほどの余裕はない(なので、以降の写真はiPhoneで撮影したものだ)。しばらく鎖を観察した結果、左側の二本の鎖を使うことにした。右側よりも岸壁との距離が空いており、比較的足を掛けやすいと思ったからだ。
カラビナを少し上の鎖に掛け、左足、右足と鎖に入れる。右手、左手を上の鎖へと移し、そして左足と右足をもう一段上へ――と、そこで鎖が岩肌から離れたのか、体がふわりと浮いた感じになった。途端に「死」という文字が頭に浮かび、恐怖で膝がカクカクと笑い出す。「あ、やっぱ無理かも」「ギブアップしようか」という思いが横切った。
とりあえず体勢を維持したまま深呼吸をして落ち着かせ、腕と足に力が戻ってきたのを確認してもう少し上ってみる。カラビナをより上の鎖に掛け直し、もう一歩、二歩……。できるだけ下を見ないように、慌てず急がず確実に……。と、さっきよりは落ち着いて上がることができた。
一応、安全策としてカラビナとロープを使ってはいるものの、ハーネス(安全ベルト)で体に固定されているわけではなく、ズボンのベルトに掛けているだけだ。ガチで滑落したらベルトが千切れて真っ逆さまだろう。ヒヤリハットの際に体勢を立て直すための保険程度の意味合いである。過信はできない。
さらに上がり、オーバーハングを乗り越えると、不思議と足の震えは無くなった。恐怖が消えたワケではないものの、ここまで上ってしまったら下りなきゃならないのは同じだし、ならばどんどん上がってしまおうと、気力が勝ったという感じだろう。「あ、行けそう」と思ったのはこの時だ。
岩が手前にせり出したオーバーハング等、場所によっては鎖と岩との間に隙間がなく、輪に足を入れにくい場合もある。そのような時は、鎖を手前に引くと隙間ができて足を入れやすくなる。
カラビナをより上部に掛け直し、右手を動かし、次に左手、右足、左足――恐怖を押し殺しつつ、ただひたすら同じ動作を機械的に繰り返す。5分ほど経っただろうか。ついに鎖が途切れ、太田山神社の本殿が私の視界に現れた。
鎖をよじ登り、最後に掛けたカラビナを外し、転がり込むように岩窟の内部へと入る。ついに、ついに私は太田山神社を上り切ることに成功したのだ!
すぐに下りるのもなんなので(というか、足の震えが止まらないと下りられないので)、深呼吸しつつ岩窟内を見渡してみる。これが思っていたよりも広く、4、5人くらいは滞在できそうな感じであった。かつては修験者たちが、ここで修行を行っていたのでしょうな。
短めで恐縮ですが(じっくり撮れる状態ではなかった)、動画でもどうぞ
しばらく岩窟内で休憩し、身体と精神を休ませてから鎖を下りた。上りと違って下りではどうしても下を見ることになるが、どの高さでも滑落した死ぬのだと腹を括り(ヤケクソともいう)、なんとか下り切ることができた。
4年前に本殿を目前にしながらも岩壁に恐れをなした太田山神社。今回の再挑戦で無事参拝することができ、実に感無量だ。人間、何事もやればできるものである。
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