2021年に90万人下回ると予想されていた日本の出生数が、2年前倒しで90万人割れとなる見込みが濃厚となった。厚生労働省がこのほど発表した人口動態統計の速報値によれば、2019年1月から7月の出生数は前年同期比5.9%減の51万8590人で、今年の出生数が90万人割れするのはほぼ確実となったからだ。国立社会保障・人口問題研究所は17年、19年の出生数は92万1000人で、90万人割れするのは21年(88.6万人)とする推計を出していた。
想定より早いペースで少子化が進んでいることに対しては、団塊ジュニア世代(1971~74年)の高齢化が進み、出産適齢期でなくなったことや、20代の女性が578万人、30代の女性が696万人と、出産期の女性の数自体が減っていることが主な理由に挙げられる。しかし、こうした人口動態の変化は、17年時点である程度把握できていたはずだ。なぜ狂いが生じたのか。
問題を見るに当たっては、少子化を考える上で注目すべきもう1つの指標、合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数)が重要になってくる。合計特殊出生率も、15年の1.46をピークに減少傾向が続いており、足元(18年)は1.42だ。ということは、出産適齢期とされる女性の総数が減っている上に、合計特殊出生率が想定よりも上がっていない点が、影響しているのかもしれない。
少子化問題に詳しいニッセイ基礎研究所の天野馨南子准主任研究員は、2年前倒しで出生数が90万人割れとなった今回の問題について、「合計特殊出生率を計算する上で影響を与える、未婚率の見通しが甘かったのでは」と話す。
直近の国勢調査(2015年)では、男性の生涯未婚率は23.37%、女性は14.06%となっている。「国立社会保障・人口問題研究所の想定以上に未婚化が進んだのでは。とりわけ、一番出生率に影響を与えるとされる、20代後半の未婚率が増えている可能性が高い」と天野氏は分析する。
非正規雇用の増加、給料の減少、社会保障費用の増大と、若年層を取り巻く雇用環境は厳しい。こうした経済的環境が未婚率を加速させている部分はある。だが、天野氏は未婚率の上昇は必ずしも経済的理由とは限らないと話す。「20~40代の独身男女の6~7割が親や親族と同居している。子どもを手元に置いておき、仕事や結婚に関してまで口を出す親が昔より増え、自立できない若者が増えている。結果、結婚しようとしない若者の“増産”につながっている」(天野氏)というのだ。男性の方が数が多いこともあって、天野氏はこうした現象を「子ども部屋おじさん」と呼んでいる。
政府の少子化対策は、保育の無償化や待機児童対策など、子育て世代に対する支援に目が向きがちだ。もちろん重要であり、必要なことだが、一方で夫婦の最終的な子どもの数(完結出生数)は2015年、1.94人と1990年代の2.2人からさほど大きく下がっていない。結婚した夫婦が出産を控えているわけでは必ずしもないのである。
天野氏は「20代の未婚化を食い止める方が少子化対策の効果は高い」と話す。親は生涯にわたり、子どもの面倒を見ることはできない。家族の間の意識改革も、今後重要になってくるのかもしれない。
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コメント33件
けーしー
社会が変化している事を捉えて、過去と違うから戻さなければならない、という議論はもうやめたい。人口減少も未婚率の上昇も受け止めたうえで、幸福な国になるためにどうするか論ずればよいものを、過去の好景気、成長期の社会を取り戻す論調ばかりで未来が見
えない。もう人口は増えない。増えなくても良い日本、もっと単純に言ってしまえば、人口が増えず消費が拡大しなくても存続可能なビジネスモデルを議論する方向に転換すべきと思う。社会全体が、既にそうした思考で進んでいるにもかかわらず、いつ迄も「今は良くない状態なので、良い状況に戻さねば」というマインドで語るのでは、ネガティブな感情しか生ず、前向きな世相に転換できない。幸福は規模ではなく質であると切り替えたい。...続きを読むへたれFP
子供の人口は99年に120万人割れ、2005年に110万人割れ、2016年に100万人割れ、そして2019年に90万人割れ予定と瞬間値だけを見ると前回11年かかった10万人減が今回は3年しかかからなかった? と早合点しますが、6年から8年、
9年から10年、14年から15年と踏みとどまる年があり、その反動で翌年大きく下げていますし、16年に2.8万人減、17年に3万人減、18年に2.7万人減の91.8万人で、今回は下げ止まる年がたまたまなかったことから運悪く4年で10万人減とことさら数値だけが強調される結果になっただけだと思います。
...続きを読むそれにしてもコメントを求めるにしても、同研究所出身の武石恵美子女史ならともかく、何故天野馨南子女史? 記者はこの方がネット公開されているコラムを読んでも人選は本当に妥当だと考えるのでしょうか?
雨あがりの風
結婚し子供を産み育てるにはそれなりの収入、所得がなければできません。「同居独身=親に依存」と言う構図だけで考えるのは今の時代、あまりにも短絡的では? 賃金等、国民の置かれている経済状況をもう少し理解するべきではと思います。
知り合いに20代
のお子さん(男性)が定職について同居していますが、月5万円を家に入れるのもキツイと言ってますから…。...続きを読むホンダラ行進曲
顧客向け会報編集長
性の情報が容易に得られるようになり、若者の関心が薄れている、ということも少子化に影響があるのではないか。マツコデラックスも似たような話しをしたそうだが、昔は性について大っぴらでないため、妄想し、辞書に載っている用語だけで、中学生ぐらいなら興
奮したものだ。...続きを読む今はネットでそのものズバリを簡単に見られてしまい、性に対して関心度合いが落ちている可能性がある。結婚していても、子育てのリスクを優先してしまうのも、性が特別なものでなくなってきているような気がする。
日の当たる場所に出たい
慣性の法則に従うように徐々に減ってますね。
何かビッグバンでも無い限りこの傾向は続くと考えた方が良いでしょう。
人口減少でも経済を回していく施策も同じくらいの重要度で考えないと、どちらも取れずで衰退しそうです。
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