見て見ぬふりをしない。 | 戸田和幸オフィシャルブログ「KAZUYUKI TODA」Powered by Ameba
2019年10月07日

見て見ぬふりをしない。

テーマ:ブログ
https://www.jleague.jp/release/wp-content/uploads/2019/10/925ec93f2e7757434f6bc923dd9beb70.pdf



僕は高校時代に報告書に書いてあるような経験をした。

今でも昨日の出来事のように思い出す。

高校2年、練習試合の日だった。

上手くプレーが出来なかった、でもふざけていた訳ではなかった。

上手くなりたくてレギュラーになりたくて毎日悩んで悩んで必死に練習をしていた時期だった。

遅刻をした訳でもなく、文句を言った訳でもなく、タバコを吸った訳でもなく。

ただプレーが上手く出来なかっただけだった。

その日は多くの保護者が観に来ていたが、その中に珍しく父親の姿があった。

望むようなプレーを見せない僕に苛立ったのだろう、試合後監督は他の保護者の方達もいる場所で僕の父親に向かってこう言った。

「オタクの息子、頭おかしいんじゃないの?」

父親は苦笑いをしていた、それだけだった。

「父さんごめんなさい」

僕はそう心の中で謝罪をし、この人だけは絶対に許さないと心に誓った。

僕はただ一所懸命、サッカーが好きでプロになりたくて一所懸命にプレーをしていただけだった。

練習試合の時に足首を捻ってしまった時がある。

酷く捻ってしまい満足に歩く事も出来ない状態だった僕に、ある保護者が「駅まで送って行くよ」と声をかけてくれた。

その時、随分離れた場所にいた監督からこっちに来いと言われた。

痛む足を引きずりながら監督の元へ歩いて行った僕に対し監督は「何を話していたんだ?」と聞いた。

僕は「駅まで送っていくよ」と言ってもらいましたと答えた。

「ふざけるな、歩いて帰れ」

その瞬間にスイッチが入った僕は「分かりました」と答え、パンパンに腫れた足にサンダルを履き、歯を食い縛ってバス停まで歩き電車に乗り自転車を漕いで帰宅した。

結果、ゾウの足のように腫れに腫れた足首が治るまでにどれだけの時間が必要だったか。

今でも思う。

何故あんな事を言われたのかと。

何故父親はあんな屈辱を味合わされたのだろうと。

僕はプロ選手になりたくてただ必死に練習をしていただけだ。

理不尽が人を強くすると言う人がいる。

馬鹿な事を言うんじゃないよと。

行き過ぎだったかもしれないが体罰や暴言も相手の成長を願ったあくまでも指導の一環だったと言う人がいる。

そんなものは指導ではない。

指導なはずがない。

自分だけでなく多くの部員が同じような経験をした。

人格を否定され、家族の前で馬鹿にされ、プレーが上手く出来ないからとゴールポストにヘディングをさせられた。


あんな経験があったから僕はプロ選手になれたのだろうか。

理不尽を乗り越えたから強くなれたのだろうか。

そもそも理不尽とは一体何なのか。

道理に合わない事を経験させたり、恥ずかしい思いをさせないと人は強く逞しくなれないというのだろうか。


僕は何が何でもプロ選手になりたかった、だからどんなに苦しくても夢の為に頑張った。

応援してくれる両親の為にも何が何でもプロになりたかった。

両親は全て知っていたはずだ。

でも息子が歯を食い縛って頑張っている姿を見て応援する事しか出来ないと監督に対してアクションを起こす事はなかった。

僕がもし父親の立場だったら、どうするだろう。

あの時父親は一体どんな気持ちで苦笑いをしてくれたのだろう。

あの時心で怒り泣きながらも顔では笑ってごまかしてくれた父親には死ぬまで頭が上がらない。



プロでも形は違うが丸々1シーズン無視され続けた経験がある。

「お前の全てが気に入らない。何もかもが酷過ぎて使い物にならない。絶対に試合に使う事はないからこのクラブから出て行け」

丁度キャンプが終わったタイミングでの出来事だった。

キャンプでも全く試合に出られなかった後の出来事だった。

コーチに理由を聞いても「逆に何があったのか教えてくれよ」と言われ。

GMに間に入って下さいとお願いをしても「二人の問題だから私は何も出来ません」と突き放された。

35近くなっていた僕でも流石にこの一年はきつかった。

結果、夏前に身体がおかしくなり離れて暮らす家族の元へ帰って1ヶ月間休む事になった。

それでも諦めたくなくて最後までそのチームで闘った。

フットボールは僕の人生そのものだから。


離れて暮らす妻は全てを知っていたが、僕が決めた事だからと泣きながらも最後までサポートしてくれた。

高校時代も含めたこれらの出来事は今でも良く思い出すし一生忘れる事はないだろう。

そして自分は選手に対しては何があっても同じような事はしてはならないと思い続けて生きている。

Jリーグが公表した報告書を読むだけで胸が痛くなる。

勇気を振り絞って告発した人達は今どんな気持ちでいるだろう。

自分とは関係ない、他人だから関係ないでは駄目だ。

駄目なものは駄目だ。

結果を残す人だから一部の人達が犠牲になるのは
仕方ないと、見て見ぬ振りをし精神を病み崩れていった人達を見殺しにし事実を隠蔽した人達がいる。
 
どうしてアクションを起こせなかったのだろう。

それもまた指導の一環だという間違った考えがあったからなのだろうか。

みんな生活が懸かっている、簡単にそこを離れる事は出来ずとにかく歯を食い縛って耐える事しか出来なかったんだと思う。

本当に辛かったと思う。

考えただけで涙が出そうになる。

駄目なものは駄目だ。

見て見ぬ振りをするのはよそう。


報告書、声明、会見。

これら全てに目を通して、自分の頭で考え心で感じる事。

サッカー・スポーツの未来は我々一人一人のアクションに懸かっている。