人生100年時代における病院像を考えるうえで、まず、現在の諸外国の高齢者医療の現場がどうなっているかをご紹介したいと思います。
アメリカの老年医学は、その教科書や論文をみても、非常に進んでいることがわかります。しかし、その進んだ医療を受けられるのは、おそらく人口のわずか5%ほどです。
医療費がとても高く、年寄りになってから病院に入れるのは富裕層だけなのです。金を持っている人は医療が受けられるが、そうでなければ受けられないということが、はっきりしているのがアメリカ社会です。
一方でヨーロッパでは、高齢者には原則、医療をやりません。たとえばスウェーデンの介護施設で、高齢者の口元にスプーンを持っていっても、そこでもう食べなければ、生きる意志がないとみなされます。
高齢者が肺炎になったり、脱水になったりして食欲がガクッと落ちることはよくありますが、そうなると、そこでもう寿命だと判断されるのです。
しかし日本であれば、老人医療が普及していますので、食べないという理由だけで、放っておかれることはまずありません。いろいろ検査をしたり、原因を調べて処置をします。
その意味では、日本ではこのままいけば、寿命の延びとともに高齢者にかかる医療費はますます増大し、国の財政をさらに圧迫することになるでしょう。
そのような医療費の増大を抑えるために、1990年代の後半に、国は高齢者の長期入院に対して、医療費を定額制にしました。いろいろな医療処置をしても、決められた額しか、国から病院に支払われないようにしたのです。