東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

北漁船が衝突 生活向上には非核化を

 北朝鮮の漁船が水産庁の取締船と衝突した事故は、北朝鮮の厳しい食糧事情が背景にある。国民生活を豊かにしたいのなら、非核化を一刻も早く実現して、国際社会の一員となることが大切だ。

 衝突が起きた海域付近は「大和堆(やまとたい)」と呼ばれ、イカやカニなどの好漁場だ。日本の排他的経済水域(EEZ)内にあるが、北朝鮮の漁船が違法操業を繰り返し、日本側とトラブルが絶えなかった。

 八月下旬には、北朝鮮の船とみられる高速艇が、海上保安庁の巡視船に小銃を向けて威嚇するような行動を取り、北京の大使館ルートで厳重に抗議している。

 北朝鮮は、隣接するロシアのEEZ内でも違法なイカ漁を行っているほか、韓国との間でも海上の境界線(NLL)周辺で問題を起こしていると報じられている。

 今回の衝突で日本側が、海に投げ出された北朝鮮船員を人道的な観点から救助したのは当然だが、食糧事業が厳しくなる冬にかけて、違法操業は続くだろう。

 北朝鮮が無理な操業を行っているのは、国民のタンパク源を確保するためだ。金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長も「新年の辞」で、「水産業の発展による人民生活の向上」を呼びかけたことがあり、自ら水産施設を視察に回っている。

 軍も水産業に乗り出し、漁船や養殖場を管理しているという。一部の水産物は、中国側に違法に輸出され、外貨稼ぎに利用されているとの報道もある。

 ただ、粗末な設備の船で遠洋まで漁に出るため、一部は潮に流され日本の海岸に漂着している。昨年は二百二十五件と過去最高の漂流、漂着を記録した。

 食糧問題解決のためには、国際社会からの支援を受けることも重要だ。しかし、北朝鮮への支援は逆に先細っている。

 これは、核開発やミサイルの発射実験によって、国連安全保障理事会から厳しい経済制裁を科せられていることが影響している。

 ちょうど北朝鮮の非核化をめぐって、スウェーデンで米朝の実務者協議が行われた。決裂したハノイでの首脳会談以来七カ月ぶりで、成果が期待された。

 ところが北朝鮮は、協議の直前に新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射。交渉でも米国に譲歩を要求、核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射再開を示唆したという。

 「脅し」で成果は得られない。自国の食糧事情を直視し、非核化の道を進むべきだ。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報