関電事件の闇は、同和の闇ではなく、原発の闇の中にある

前代未聞の事件だ。

関電 八木会長859万円相当 岩根社長150万円相当を受領 | NHKニュース

関西電力の経営幹部らが、原発立地地域の元助役の森山氏から3億円を超える金品を受領していた問題だ。幹部らは現金や商品券のほか小判型の金貨や金杯アメリカ・ドルなどを受け取っており、常務と元副社長の2人は受領額がそれぞれ1億円を超えていたことが明らかになっている。

令和のこの世に、関電ほどの大企業の役員が 個人から億を超える現金同等物を受け取るなど考えられず、しかも社長は会見で現実に受け取ったことを認めながら、「一時的に預かっただけ」、「返そうと思ったが、返そうとすると森山氏が激昂し恫喝するので返せなかった」などと子供の言い訳のような釈明を繰り返したのも印象的だった。

こんな多額のお金を受け取って、もし外部に露見したらおしまいなのはわかっていただろうに、怒られたぐらいで返却を諦めたなどという釈明をするのは理解に苦しむ。返却できないならできないで会社に事情を話して供託するなどの方法もあるだろう。

こんな有様では、経営陣は全員退任し、組織風土を一新しないとどうにもならないだろうし、こんな組織に原発を預けるのは難しいと思っていたら、いくつかの週刊誌が森山氏は同和関係者ではないかと報じたことにより、少なくともネットの風向きは変わり、急に関電に対する同情や擁護の意見が増えた。

億を超える大金を、大企業のトップ連中が受け取って、「断れなかったから」と釈明するのも前代未聞だが、渡した側が同和関係者だとわかるやいなや、そんな嘘くさい釈明を直ちに信じちゃう人がこんなにいて、しかも彼らは割と著名な人たちだったのが驚きだった。今回のポイントとして、関電マネジメントは払った側ではなく、受け取った側なのである。上のツイートの方たちは、関電という超大企業のトップが、同和を傘に俺の金が受け取れないのかと脅してきたとして、それだけを理由に、理由もなく多額の金を受け取って返金しない、それが現代の大企業のコンプライアンスなのだと本当に思っているのだろうか?

いわゆる同和の闇や同和利権など今では存在していないと言いたいわけではない。それはかって飛鳥会事件やハンナン事件といった形で表に出たこともある。2002年で同和対策関連事業が終了したが、今でも利権として残っている部分はあるだろう。ただ、今回の関電の事件に部落解放同盟同和利権は殆ど関係がない可能性が高い。以下に理由を説明する。

そもそも森山氏は本当に同和関係者なのか?

 実はここがはっきりしていないように思われる。そもそも森山氏が同和関係者であるという確たる証拠はなく、過去に糾弾活動にかかわっていたという証言らしきものがあったり、50年前に所属していたことがあるなどという噂があるだけのようだ。

一応、証拠としてネットに上がっているのは、40年近く前の共産党関係の機関紙の一部である。

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ここには、森山助役(当時)が被差別部落関係者として、糾弾を繰り返していたという記載がされている。周知のとおり、共産党部落解放同盟は、差別との闘い方をめぐって対立し、大昔から非常に仲が悪い。敵の情報ほどよく知っているもので、この記事の信ぴょう性はそれなりにあると思われる。

その記事でも、「『自ら』組織した「部落解放同盟」を指揮してだれから容赦なく糾弾を繰り返してきた」という記載があり、彼の活動は、本家の部落解放同盟を真似して「自主的に」行われたものであると思われ、彼が部落解放同盟に所属していたことを示すfactはないのである。なお、部落解放同盟は、森山氏は自分たちとは無関係というコメントを出している。

飛鳥会事件の首謀者として逮捕された小西氏は、実際に部落解放同盟大阪府連合会飛鳥支部の理事長をつとめ、飛鳥会は、大阪市同和対策事業の一環として大阪市の外郭団体から西中島駐車場の運営を独占的に業務委託をうけていたのだが、この点が森山氏と大きく異なっている。

つまり、街のチンピラなどが言う「俺には、山口組がバックについとんねんぞ!」とヤカラかましているのと同じ状態にすぎないわけで、森山氏が実際に部落解放同盟では何の地位についていたわけでもない。仮に、森山氏が関電の幹部たちを同和とのつながりを仄めかして脅したとして、そんなチンピラな脅しに、関電のマネジメントたちが、この時代にこうも簡単に屈するものだろうか?

 ただ、森山氏が関電に対して大きな影響力を持っていたことは、報道や社内調査委員会の報告書を見る限り、ほぼfactといってよいようだ。しかし、僕はこの影響力の源泉は、森山氏が同和関係者だからではなく、彼が高浜原発の闇を知っているからだと推測している。

なぜ森山氏は関電に対して強い影響力を行使できたのか?

この問題について、何かを語るならば、関電が公表している当件の調査報告書に目を通すことが重要であると考えている。ジャーナリストを名乗る識者たちですら、こういったfactを含む重要な情報をおそらく確認することなく、いい加減なネットの情報に踊らされてコメントしている事を残念に思う。

https://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2019/pdf/1002_1j_01.pdf

 この調査報告書には森山氏の具体的な恫喝が登場する。その恫喝には同和関係の脅しは一切登場しない。彼の恫喝はこのようなものだ。重要なので全文を引用しよう。

発電所運営の妨害を示唆する恫喝として、 「お前とも関電とも関係を断ち切る。発電所を運営できなくしてやる。また高浜3・4号機増設時に関電経営トップと何度も面談し、増設に関して依頼をうけたと話していた。森山氏は、その際、当社の経営トップから受け取ったという手紙やはがき等を保管しており、発電所立地当時の書類は今でも自宅に残っており、これを世間に明らかにしたら、大変なことになる」などといった発言があった

おそらくこの「世間に明かしたら大変なこと」を握っているということが、関電に対して強い影響力を行使できたパワーの源泉になっている可能性がある。

当事件に関連した記事でも以下の記述がある。

関電がパワハラ被害者面する一方で言及を避ける「不都合な真実」

森山氏が助役になってほどない1979年5月、高浜原発の1号機では、緊急炉心冷却装置と連動した補助ポンプの軸が折損していることが判明。これは当時、通産省も「わが国原発開発史上、初めての重大な異常」(読売新聞1979年5月12日)と述べるほど問題視した。その半年後、住民を恐怖に陥れるような深刻な事故も起きている。

放射能含んだ一次冷却水 高浜原発で大量漏れ パイプ破損 9時間で80トン」(読売新聞1979年11月4日)

 当時、アメリカのスリーマイル島の事故もあって、原発の危険性が国際的にも指摘されていた。事故が続く高浜原発にも反対派が集結し、森山氏と関電が二人三脚で進めていた3号機、4号機の安全審査をやめさせようと、公開ヒアリングには全国から反対派市民団体が500人押し寄せたこともあった。

 が、こんな「逆風」の中でも3号機と4号機は稼働した。今の感覚からすれば、あまりにも強引な原発推進に、「誘致や地域の取りまとめ等に深い関わりをもった」(報告書)森山氏が大きく寄与したことは間違いない。

 要は高浜原発の増設時に、森山氏はおそらく恫喝や利益供与などをしながら、地元の取りまとめに大きく貢献し、3号機と4号機の増設を可能にしたのだろう。その見返りとして、森山氏が顧問を名乗っていた吉田開発に対して、入札などで便宜を図り、通常より高額の発注を行っていた可能性が報道により示唆されている。

www.sankei.com

 普通に考えれば、入札で便宜を図ってもらったお礼、もしくは共犯関係であることをしっかり認識させるために関電マネジメントに多額の金を渡していたと考えるのが自然だろう。この事件は同和の闇なんて何も関係ない、ただの原発利権を巡る収賄事件だった可能性が極めて高いということだ。

調査報告書は、社内調査であることが影響して、関電に徹底的に甘く、森山氏がいかに悪魔的な人間であるかが執拗に記載されている。森山氏に対する発注に対しても問題なしとしているが、これだけのkick backがあった以上、発注が適正に行われていたとは常識的に考えにくいだろう。

調査報告書に小林弁護士の所感として記載された文章は、依頼者とはいえあまりにも関電寄りすぎて、著しく公平性を欠いているが、興味深い一説がある。

森山氏が、原発設置に尽力したのは事実であろうが、それも何十年も前の話であることに加え、仮に森山氏に暴露できるような当時の裏事情がありえたとしても、その露見の影響は限定的であろうことは容易に推測できることであった

なぜそんなことが容易に推測できるのかは読者にはわからないが、関電の不可解な森山氏に対する従属について、森山氏が握っている秘密を関電が重要視していたと考えれば、辻褄は合ってしまうのである。

関電の責任は?

森山氏が握っていたであろう原発増設時の秘密が何だったのかは今となってはわからないが、彼が故人となり、その秘密がバラされる可能性がほぼなくなった今になって、関電のマネジメントたちは、一転して強気な態度に出ており、全ての責任を森山氏に押し付け、自分たちは責任を取るつもりはないように見える。辞任すらするつもりがないのは、こんな収賄は大した話ではなく、全て森山氏のせいにすることで逃げ切れると考えており、また多くのネットユーザーやジャーナリストがその筋書きに踊らされているということだ。

仮に森山氏に押し付けられた金だとしても、もっと適切な対処は取れたはずだ。関電マネジメントの被害者ヅラを許すことはできない。第三者委員会の調査も含めて、全て真実を明らかにすることがなければ、この会社が再び原発を扱う資格を持つことは到底ないと思われる。