パンドラズ・アクターの冒険   作:kirishima13

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第10話 禁断の出会い

 クライムはガゼフとの訓練後、第三王女ラナーと話をしていたアダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』のリーダ、ラキュースから伝言を預かることになった。

 向かう先は蒼の薔薇の滞在している王都で最高級の宿屋だ。酒場も兼用となっている宿屋の一階へと入るとそこには4人の個性的な女性たちが座っていた。

 クライムが彼女たちに近づくと、大柄でまるで男のような体躯をした女があいさつをする。

 

「よう、童貞。あたしと寝に来たのか?」

 

 ハスキーな声でいつもそのセリフをあいさつ代わりしてくるのは戦士ガガーランだ。短く刈り上げられた金髪の髪に、肉食獣のような瞳をしている。

 クライムは最初はその挨拶をやめてほしいと言っていたが、そのうちからかわれるだけと悟り何も言わないように心掛けている。

 童貞好きを豪語する彼女に、下手に「はい」などと返事をしようものならその圧倒的な膂力により二階の寝室へと連れ込まれて奪われてしまうだろう。

 

「いいえ、結構です」

「だっから童貞なんだよおまえは!」

 

 そうは言われても相手がいないのだから仕方ない。気になる相手はいるのだが、彼女はそんなことを考えることさえ恐れ多い存在だ。

 

「そんなことだと憧れの姫様ともうまくいかねえぞ?」

「わ、私はラナー様とそのような関係になろうとは思っておりません!」

「別にラナー様だなんていってねえぞ?ははははは」

 

 思わず頭にあった人の名前を出してしまった。羞恥に顔が赤くなる。

 だが、彼女にはいつも剣を教えてもらっていることもあり頭が上がらない。そして訓練場のことを思い出し報告することにした。

 

「ガガーランさん。実は今日ストロノーフ様と手合わせを願える機会があったのですが一矢報いることが出来ました」

「へぇ!やるじゃねえか!あの教えた大上段からの一撃が決まったのか?」

「いえ、下段からの反撃でストロノーフ様の剣を折ることができました」

「「「「何!?」」」」

 

 何でもないように言ったクライムの言葉に話を聞いていたガガーランのみならず野菜スティックを夢中にかじっていた双子の女たちまで驚きの声を上げて振り返る。

 忍者のティアとティナである。

 二人ともスラリとした肢体をしており、身に着けているのは全身にぴったり密着するような服装、忍び装束だ。

 

「で、でもストロノーフ様は武技を使っておりませんでしたし、先の戦で怪我を負われていたようですので……」

「いや、それにしたって……さすがに嘘だろ……いや、ちょっと待てお前……何かつよくなってねぇか?」

「え?」

 

 ガガーランの戦士としての相手の力量を図ることができる。それによるとクライムの強さは以前あった時より強いような感じがしていた。

 

「おい小僧、ちょっとこっちに来てみろ」

 

 仮面の魔法詠唱者がクライムを呼ぶ。蒼の薔薇の最後の一人、イビルアイだ。

 身長は小柄で胸部も平坦、見た目は子供にしか見えないが、かつては『国堕とし』とまで呼ばれた吸血鬼であり、蒼の薔薇の中では突出した強さを持っている。

 

 言われるがままクライムがイビルアイのもとへ行くと全身を舐めるように見つめてきた。

 

「な、なんですか……?」

「小僧……お前から何か魔力を感じる。何か持っているな?出してみろ」

「え……」

 

 そう言われて思い当たるのは噴水広場で買わされたアクセサリーだ。

 

「これのことですか?」

 

 出されたのは動物の牙などで作られた簡素なネックレス。

 

「なんだそりゃ?おい、イビルアイ。まさかそんなしょぼいのがクライムの強さの原因とか言わないよな?」

「まぁ見ていろ。《道具鑑定》」

 

 イビルアイの持つ杖からネックレスへと光が当たる。

 

「な、なんだこれは!?筋力上昇?敏捷性、魔法防御、物理防御……属性防御までついているのか!?しかもどれも上級の効果だ!こんな材料の道具に上級の魔化を施すとかどこの馬鹿だ!?」

 

 突然叫びだしたイビルアイに周りメンバーが驚く。イビルアイは比類なき高みにある魔力系魔法詠唱者だ。そのイビルアイがここまで言うとはただ事ではない。

 

「おい、落ち着けよ。イビルアイ」

「これが落ち着いていられるか!?こんな馬鹿は見たことがない!これだけのものを作る能力があるならもっと希少で上級の素材を使ってアイテムを作ればいいじゃないか!これだけの才能をこんなゴミ素材に使うとか馬鹿としか思えん!何を考えているんだ!」

 

 同じ魔力を扱う魔法詠唱者としてそれは信じがたいことだったのだろう。イビルアイはひたすら憤っている。

 

「あ、あの……これはそんなにすごいものなんでしょうか」

 

 イビルアイのあまりの様子にクライムは戸惑っている。無理やり買わされたとは言えそれほど高くなかったのだ。それほどのものとは全く思わなかった。

 

「すごいなんてものではないぞ。お前がガゼフの剣を折ったのがその証拠だ。身体能力が上昇したのを気づいていなかったのか?」

「いえ、今日は体の調子がいいなぁっと思っていましたが……」

「おまえなぁ……まぁいい。それで、これはどこで買ったのだ?お前がこんなものを買うとは思えんが……」

 

 まずクライムではこのマジックアイテムの価値には気づかないだろう。さらにこのような見た目の悪いネックレスを買うようにな人間でもない。

 

「いえ、無理やり買わされてしまいまして……」

「無理やり?詳しく話してみろ」

「はい……それは……」

 

 クライムの話によるとこうだ。

 街の噴水広場を歩いていると道具やのカウンターから声をかけられたそうだ。変わった軍帽をかぶったメイドで言葉巧みに言いくるめられ、いつの間にか買わされていたという。

 

「へぇー……?そのメイドは美人だったのか?」

 

 ガガーランのその言葉にクライムはその顔を赤らめる。それを見てガガーランは面白そうに笑う。

 

「おいおい、王女様が悲しむぞ。でもまぁお前も男だったんだな。よし、ベッドに行くか!」

「行きません!」

「クライム、そのメイドは軍帽を被っていたと言ったか?」

 

 イビルアイの言葉にクライムは頷く。

 

「最近軍帽を被った変わった冒険者が王都に現れたと聞いたことを思い出した。銀級でありながらこのあたりの魔物を狩りまくってると聞く。確か黒髪でとんでもなく美人だと聞いたが……もしかしてそいつか?」

「いえ、その方は赤い髪をしておりましたし冒険者プレートもしておりませんでした」

「別人か?そんな変わった格好が流行っているのか?」

「まぁ、いいじゃねえかイビルアイ。それよりクライム。お前なんでここに来たんだ?そんな話をしにきたわけじゃないんだろう?」

「あ!そうでした!アランドラ様が呼ばれてます。夕方に例の場所に集合だそうです」

「そういうことは早く言え!」

 

 クライムの伝言で蒼の薔薇はすべてを察する。王女の依頼だろう。クライムに礼をいうと4人は立ち上がり宿を出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 ラキュースは他のメンバーとの集合場所へ移動するため街を歩いていた。その整った顔立ちと身に纏う装備は歩いているだけで絵になる。

 そんな彼女が噴水広場を通りかかりふと目に入るものがあった。

 

「あれは……?」

 

 それは道具屋だ。噴水広場の一番いい場所に店を構えている。しかし、ラキュースが注目したのは道具屋そのものでもその商品でもない。

 興味を持ったのはその店員だ。メイド服を着ているのは珍しいがただそれだけだ。しかし、その頭に乗っている物を見た瞬間、背後に雷鳴が走った。

 

「メイド服に軍帽だと……あのセンス……まさか……」

 

 

 

 一方、ルプーはロフーレのコネにより王都の噴水広場の一番いい場所に共同とは言え店舗を出させてもらっていた。カウンターに置かれているのは至高の存在謹製の商品に加えて他で仕入れてきた商品も加えている。

 暇を見つけては冒険者ナーベとしても活動しており、徐々にその名声は高まっているが未だに創造主の情報は得られていない。

 その日は商人として売り子をしていた。店は繁盛しつつも客足もだいぶ落ち着いてきた夕方時、噴水広場を見ていると一人の変わった格好をした女が通りかかる。

 それに思わずルプーは目を奪われると、背後に雷鳴が走った。

 

「両手の指すべてにアーマーリング……あのセンスは……」


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