アルベドさん大勝利ぃ!   作:神谷涼

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 セバス以外の100レベル守護者全員による総攻撃を受けたスレイン法国(世界級アイテムはもうない)の運命やいかに!



35:最後の命令

 ナザリック地下大墳墓、第六層、円形闘技場(コロッセウム)

 

「……無事に終わったか。犠牲や損傷もなかったようだな。よくやった」

 

 転移門(ゲート)で帰還する守護者たちを、モモンガはそれぞれ抱きしめ、出迎える。

 最後に、抱きしめたアルベドを傍らに侍らせ。

 哀しそうに視線を送るシャルティアを、モモンガは敢えて無視した。

 チャイナドレス姿のアルベドの髪を撫で、帰還した守護者らを見やる。

 法国襲撃で確保した人材と物資は各施設に送り済だ。

 ただ一人、見知らぬ少女がいた。

 その目は光を失い、ただぼんやりと立っている。

 

「番外席次とやらも、無事確保したか……我が子よ、これの戦力はどれほどだった?」

 

 アルベドの着る傾城傾国で精神支配された少女を指さしつつ、パンドラズ・アクターに問う。

 抜け目ない彼ならば、その戦力構成を既に分析しているだろう、と。

 

「レベル90代の回避型戦士ッ! ただーし、合理的クラス構成ではありませんッ! 超位魔法、世界級(ワールド)アイテムなしッ! 複数の神器級(ゴッズ)を装備ィッ、衣装に鎧を重ね着ッ、アクセサリ多数ッ、各種対策と耐性ありッ! 生まれながらの異能(タァーレント)を持つ可能性大ッ。さァ~らにッ、我々の魔法やスキルを無策で受けッ、ダメージを受けて驚いておりましたッ! ――おそらくは耐性と無効化系スキルによる、ごり押しに頼っていたのでは」

「……ほう。実戦経験は薄そうだな」

 

 興味深く少女を見る。

 

「容易に精神支配できたため、戦闘データはあまり引き出せておりません。首都守備の軍は全体的に、士気こそ高くとも、実戦経験少なく、連携も取れていなかったかと」

 

 デミウルゴスが追加の情報を述べる。

 

「なるほど。アルベドよ、精神支配を解いてみよ」

「いけません! せめて武装解除と拘束を!」

 

 慌てて反論するアルベドに、他の守護者も頷く。

 

「いや。お前たちを玉座の間でなく、ここで迎えた理由でもある。精神支配中の記憶、この者の在り様など、知りたい案件は多い。何より……私も、たまには実戦をせねば、なまってしまうだろう」

「しかし……」

 

 なおも抗弁しようとするNPCらだが。

 モモンガが、ナザリック最強の武器を取り出すを見ると、口を閉ざす。

 ギルド武器たるスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。

 至高の御方らの努力の結晶、世界級(ワールド)に比肩する逸品。

 

「私が危なければ割って入るがいい。さあ、下がっていろ」

 

 嗜虐的な笑みを見せる主に……ここ最近は性奴隷めいた扱いを受けているアルベドが、何を言えようか。

 

「……わかりました」

「な……おやめなさい、アルベド!」

 

 デミウルゴスが止めようとするが……。

 少女の体から、光の竜が離れ、チャイナドレス――傾城傾国に吸い込まれる。

 

「はぁ……ほんっとに、舐めた真似してくれるじゃない……」

 

 少女の目に、光が戻った。

 ゆらりと下から睨みつけるようにし、手の中に戦鎌(ウォーサイズ)を出す。

 

「精神支配中の記憶はあるようだな」

「あなたが親玉なんでしょ? 随分見下してくれるじゃない」

 

 白と黒のオッドアイが、殺意でぎらつく。

 

「なら、見上げさせてみるがいい。お前の同僚だったクレマンティーヌは、少なくとも私に並んで見せたぞ」

「あんなザコに勝った程度で――」

 

 モモンガから噴き出した絶望のオーラに、少女が怯んだ。

 

「あいつはお前より、よほど強いぞ」

「ッ――」

 

 恐怖を抑えごまかすように、漆黒聖典番外席次〈絶死絶命〉が飛び掛かった。

 モモンガも今ばかりは。

 少しばかり大人げなく、戦うことにした。

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓、第九層、大食堂。

 アルベド以外のNPCが揃って戦勝祝いの最中である。

 

「まったく、実にすばらしい勝利だったよ!」

「御方の戦う姿に、濡れ濡れだったでありんす!」

 

 デミウルゴスの報告を兼ねた熱弁。

 特に頼まれていないのに合いの手を入れるシャルティア。

 そんな二人の話に、NPCらが身を乗り出す。

 

「あたしたちのいない間に、ずるいなぁ」

「武人トシテ、ゼヒ見タカッタ……」

 

 アウラとコキュートスが不平を漏らす。

 セバス、プレアデスその他も黙ったまま頷いている。

 

「安心したまえ。御身の戦いは、パンドラズ・アクター殿が保存してくれた」

「ハイ! 母上のォご活躍ッ、一切見逃しておりませんッ!」

 

 モモンガが、番外席次とのPVPで圧倒する動画が何度も流され。

 彼らは感涙と喝采を繰り返す。

 

 白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)と、事実上の同盟を結び。

 スレイン法国は今回、完全に降した。

 御方の希望――ナザリック維持における脅威はほぼ退けられたのだ。

 エリュエンティウ攻撃は、数十年か百年規模で戦力準備した後でもいい。

 今回の収穫でも、百年はナザリックを維持できるだろう。

 

 知恵者たるデミウルゴスもパンドラは、特に浮かれていた。

 二人とモモンガしか知らない情報として、ザイトルクワエの素材による多額のユグドラシル金貨を既に得ている。

 最悪でも100年後……次に来たプレイヤーを、略奪すればいい。

 モモンガの希望はほぼ叶えられたと言えよう。

 NPCとして、これより嬉しいことはない。

 

 その空気は他のNPCに伝わり。

 単なる戦勝パーティーでない、お祭り騒ぎとなっていく。

 滅んだスレイン法国と裏腹に、ナザリックは大いなる歓喜に包まれた。

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓、第四層、地底湖。

 天然洞窟を思わせるそこは、自我を持つ守護者がいない階層。

 湖に沈む巨大ゴーレム、ガルガンチュアは起動させねば動かない。

 配置モンスターもゴーレム系であり……ナザリックで最も人目のない場所だった。

 そんな洞窟に、モモンガの声が響く。

 

「だから事後報告になって悪かったと言っているだろう。こちらとしても、あのように強力な刺客を送り込まれては黙っておれんのだ。中枢の神殿以外は破壊しておらんし、一般市民にも犠牲は出していない」

 

 何度目かの弁明。

 

(それにしたって、やりすぎだよ。私がどれだけ他の竜王をなだめたと思ってるんだい。漆黒聖典も全滅させたんだろう?)

 

 〈伝言(メッセージ)〉越しの竜王の口調は、本気で怒っているというよりも、頭を抱えているといった風。

 

「殺したのもいるかもしれんが……基本、レベルの高い奴は確保した。我々の戦力の底上げに使っている」

(戦力の底上げって……それ以上強くしてどうするのさ)

 

 呆れかえった口調。

 

「先日、法国から送られた刺客はまずかった。一手間違えていたら、取り返しのつかん事態を引き起こしたかもしれん」

(……それほどだったのかい?)

 

 ツアーも真剣になる。

 ならざるをえない。

 モモンガは、漆黒聖典が所有していた世界級(ワールド)アイテムについて説明した。

 

「――というわけだ。これはお前も防げん。不安なら、お前には使わないよう、誓約してもいいが」

(いや……いい。それに番外席次についても、エルフ王についても……キミに任せるよ。私が思っていた以上に、人類は愚からしい。少なくともキミの方がマシに思える。本拠地から出さずにいてくれるなら、それでいいよ)

 

 ため息交じりの返答。

 スレイン法国の所業について、ツアーもいろいろと思うところがあったのだ。

 

「わかった。今回は急だったため相談できなかったが、今後これらを用いる状況があれば、その前に相談すると約束しよう」 

(頼んだよ)

 

 疲れきった言葉を最後に、通話が切れる。

 

「はぁ――待たせてすまんな、アルベド。まったく、法国のせいで余計な苦労が増えたものだ」 

 

 モモンガも、疲れた溜息と共に言う。

 疲れの元は、法国でもツアーでもないが。

 

「幸い、これで完全に禍根を断てたかと」

 

 甲冑姿のアルベドが、すぐ横に侍っている。

 傾城傾国を宝物庫に保管し、完全武装で来るよう、命じられたのだ。

 そんな彼女に、モモンガが寂しげに笑う。

 

「そうか。だが、私は最大の禍根を断てていない」

 

 ぴったりと寄り添うアルベドを振りほどき、突き離す。

 

「モモンガ様……?」

 

 突然の思わぬ行為に、アルベドが戸惑う声を発した。

 

絶対なる無(ギンヌンガガプ)は置いてきたな?」

「は、はい」

 

 傾城傾国と共に、宝物庫に置いてくるよう言われていた。

 ゆえに、今の彼女は世界級(ワールド)アイテムを装備していない。

 なぜその有無をと、問い返す間もなく。

 モモンガは酷く儚い微笑を浮かべて、言葉を続ける。

 

「アルベド。私はいろいろと無理もして……お前に愛されようと努力した。お前もお前なりに、私に応えてくれていたと思う。私が気づかぬ間に、お前に無理もさせていただろう」

「…………」

 

 どう答えればいいかわからず、戸惑うしかないアルベド。

 だが、モモンガは構わず、独り言のように続ける。

 

「以前も言ったがな。私はとても自分勝手で独りよがりだ。その点、お前たちも変わらないと思うし……同じように自分勝手なこの世界の人間たちに、ある種の共感も抱いた」

「あのような者どもに、モモンガ様が共感など――」

 

 軽く手を広げ。

 モモンガは、アルベドの言葉を封じる。

 

「アルベド。やはり私たちは夫婦としてもっと、対等の関係になるべきだろう。お前も私も、互いに知らない点が多すぎる。ラナーを習って、お前をずっと騙し続けようと思ったのだが。私にはどうやら、無理らしい」

「……モモンガ様?」

 

 冷たく落ち着いた声。

 儚い微笑。

 その様子にただならぬ、不穏なものを感じる。

 

「結婚し、交わり、奴隷になり、奴隷にした。随分といろいろ回り道をしたが……お互い、最も大事なものを忘れていたな。相変わらず相談もせず一方的ですまないが……」

「モモンガ様?」

 

 問いただしても、主は淡々と冷たく、無機的に、人形になったように、言葉を続ける。

 

「幸い、婚礼の折に使った流れ星の指輪(シューティングスター)は、あと1回使える」

「お待ちください、モモンガ様!」

 

 叫ぶアルベドにも構わず。

 モモンガが、片手を高らかに上げた。

 その指には、指輪がある。

 この先はいけない、そう思って止めようとするが。

 

()()の命令だ、アルベド。“(ひざまず)け”」

「あ……あ……どうか、やめて……」

 

 ユグドラシル時の最初のプログラムにもあった、原初の命令に。

 アルベドは逆らえない。

 どれほど力を入れようとも。

 100レベル戦士職の筋力があろうとも。

 根源に根差したNPCという枠が、反抗を許さない。

 最後。

 最後。

 最後の、命令。

 アルベドは震え、涙を流しながらも、跪くしかないのだ。

 

「さあ、これが私たちの決着だ、アルベド。〈星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)〉――守護者統括アルベドを人格と記憶をそのままに()()()()()()()へと変えよ」

「――――!!!!」

 

 流れ星が走る。

 声にならないアルベドの悲鳴が響く。

 

 そして。

 アルベドの中と、ナザリック全体で。

 何かが大きく変わった。

 




 次回、最終回。

 番外席次ちゃんは、種付けおねだりしましたが、シャルティアとPVPで勝ったらなって言われてます。シャルティアも、殺さず勝利するごと、モモンガさん一晩ゲットの条件もらえたので、ご機嫌です。

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