プロ野球唯一の通算400勝投手、金田正一さんが6日、急性胆管炎による敗血症のために86歳で死去した。巨人でともに戦った本紙評論家の黒江透修さんが金田さんとの思い出を語る。
突然のことで驚いている。あの金田さんが亡くなるなんて。最後にお会いしたのは昨年だったように記憶している。「おまえも年をとったな」といつもの調子だった。訃報に接して、言葉が出なかった。
私が巨人に入団したのは1964年のシーズン途中。その年のオフに国鉄から移籍してきたのが金田さんだった。その戦歴は言うまでもない。デビュー戦で4打席4三振だった長嶋さんは、金田さんのドロップを打つために大根切りのような素振りをひたすら繰り返したそうだ。大敵を倒すための努力が、長嶋さんのその後につながったと思っている。
金田さんが食事をするときによく言っていたのは「お金をかけろ」という言葉だ。「おまえたちは夕食にいくら使っている? 俺は2万円ぐらいだ。たくさん食べて、頑張るんだ」。当時、私たちは目を丸くしたものだが、プロは自分に投資せよ、ということだったと理解している。
そして、人一倍練習する人でもあった。走り込み、汗をびっしょりとかくのは、通常の姿。チームの練習が終われば、ストレッチを始めた。両足を広げ、上体を前に倒す。胸が地面につくほどの柔軟性に驚いたものだ。長嶋さんや王さんとも少し違う。すでに他球団で途方もない成績を残していた金田さんの一挙手一投足は、当時の巨人でも若い選手たちにとって最高の教本だった。