「どうなっている!何故召喚したアンデッドが魔導国の味方をしている!?何故蒼の薔薇が居る!?何故モモンはネイア・バラハを助ける!?」
「やはり我々は嵌められたのでは……。」
「
「さっきから何度も行っております!しかし、一向に繋がりません。」
目の前で行われるのは、一方的な天使に対する殺戮。
「この情報を!モモンはアンデッドに心酔する背信者だという情報だけでも各国に知らせるのだ!」
「神官長!
「モモン、それにスレイン法国まで……、皆裏切ってくれたな!」
「神官長!どちらへ!?」
「最早逃げる事も出来ん!ならば……。」
颯爽と消えた神官長に残された従者5人はただただ呆然として……。そして背後に気配を感じた瞬間、意識を消失させた。
●
「激発物存在なし」
「毒物反応なし」
「怪しい人物は捕らえた。
襤褸を纏った5人の男を捕らえたティアとティナは、未だ激戦が続く市街を見つめていた。視界に入るのは大小様々な天使の軍勢。市民はアンデッドとデスナイトによって護られており、何とも倒錯的な光景に2人とも頭が追いつかない。始まりは魔導王国首都、エ・ランテルに入って数分の出来事だった。突如無数の天使がどこからともなく現れ、襲いかかって来たのだ。
「ガガーラン……!危ない!」
「はああああああああああああ!!」
漆黒の騎士、モモンが振るう2つの大剣は、蒼の薔薇の戦士を襲う大天使を真っ二つに切り裂き、聖素へと還元させ消滅した。
「
「イビルアイ!あなたは無理に戦わないで市民の防衛に当たって!!」
ラキュースの指示に、モモンも同意し、イビルアイは戦線から離れて市民の保護に回る。とはいえ魔導国側の戦力は圧倒的であり、街には負傷者もおらず、建物の損傷もない。
「…………天使なのに全然可愛くない。だから撃つ。」
「この天使……わたしを狙って?」
ネイアも背負っていた弓を構え、矢を放つ。天使の軍勢は明らかにネイアを狙ってきたものばかりだ。偉大なるアインズ様の治めるアインズ・ウール・ゴウン魔導国の首都エ・ランテル。自分が来たばかりに、偉大なる御身に恥をかかせてしまった。そんな自責の念がネイアを襲う。その時……
「誇るべき我が国の民と親愛なる客人の前で、好き勝手やってくれるものだな。」
後ろから轟く声に、ネイアは全身が赤くなるのを音で感じた。
「アインズ様!!」
「ネイアよ、このような事態に巻き込んでしまったのは、わたしの不徳がなすところだ。
詠唱のひとつで、無数に居た天使の全てが闇に呑まれ消え去った。それは圧倒的な王の力、またも脳裏に記憶される絶対的な正義。
「……モモン、ナーベ。そして噂に名高い冒険者チーム蒼の薔薇の皆さん。この度は我が国の民を救って下さったことに感謝を。治癒を行う、怪我をしている者はないか?」
「魔導王陛下にお会い出来て光栄に思います。わたくし蒼の薔薇のリーダー、ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラと申します。モモン様とナーベ様、そして魔導王陛下が使役されるデスナイトの尽力によって、被害は皆無と言っていいでしょう。」
「謙遜することはない。あそこにいる忍者……盗賊姉妹が不審者を捕らえ、仮面の少女が民を護っており、ラキュース卿と勇敢な戦士1名が戦っていたことは把握している。わたしは民を護る立場にありながら、遅れたことを詫びる立場だ。」
「陛下!あの天使共はわたしを狙ったものです!わたしがこの地にこなければ、首都が襲われることも無かったでしょう!全ての責任はわたくしにあるのです!」
「ネイア、ここはわたしの国だ。そして貴君は客人だ。責められるべきは……」
「モモン!!貴様気が触れたのか!」
家屋の上に立つのは、襤褸を纏った男だった。手には魔封じの水晶を持っている。モモンは漆黒の大剣を構え、男をみやる。
「おのれ!貴様が元凶か!!罪なき民を巻き込み、何を成そうと言うのだ!!」
「貴様……!!何が漆黒の英雄だ!アンデッドに魂を売り渡した背信者め!」
「黙れ!その魔封じの水晶を手放し、大人しく降参しろ!貴様の野望は既に破れたのだ!」
「何を、何を、何を、何を、何を!!!この裏切り者め!征け、座天使よ!」
男は水晶を天高く掲げ……
「へ?」
膨大な光に呑み込まれ、そのまま消滅した。そして六羽を生やした大きな幾つもの顔を持つ異形の……身体のない不気味な天使が天高く降臨する。
「
「で、あろうな。盗賊姉妹が捕らえた5人の男達も消えている。恐らくは最後の手札だったのだろう。」
「モモン様!!」
「ぬううううううううううん!!」
モモンは圧倒的な跳躍力によって200mもの距離を優に飛び、
「不味い、このままでは!」
ネイアの手に弓が渡された。見まごうはずもない。ネイアにとってアインズ様……魔導王陛下との始まりの武器、アルティメイト・シューティングスター・スーパーだ。
「矢にはこれを使うと良い。」
手渡されたのは、漆黒の刃が夜空の星を思わせる輝きを宿す矢であった。
「
「に、210!?」
「だがモモンの攻撃によって、やつは心臓部を顕わにしている。赤く光る点が見えるか?」
ネイアは目を懲らす。確かに創傷から心臓部と思わしき妖しい光が見える。
「射貫け、お前にならば出来る。本来レベル差があれば攻撃は無効化されるが、その弓と矢を使えば、無効化を解除出来るのだ。」
ネイアはアインズに右肩を叩かれる。そして左に温かな感触を覚えた。
「…………先輩を信じろ。ネイアなら出来る。」
それはシズの信頼を込めた、宝石の様な緑の眼差しだった。ネイアには不安など既に無い。右には尊敬すべき偉大なる御方がおり、左にはこの世で最も信頼出来る友人がいる。
……弱いことは悪だ。2人を前にして心の悪を見せられるものか。ネイアは狙いを定め一拍置き、放たれた矢は見事に
●
忍者姉妹が捜索の限りを尽くし、遺留品から、犯人はローブル聖王国の南派閥神殿勢力であることが判った。ネイアは自国のトラブルを尊敬すべき魔導国に持ち込まれたことから、住民から酷く反発を受けるだろうと覚悟していたが……。住民から浴びるのは、何時かも浴びた事のある英雄を見つめる眼差しであった。
「……ヤツを一撃で仕留められなかったのはわたしの不覚。あのままでは民に被害が出ていたことでしょう。ネイア様、ありがとうございます。」
深紅のマントを靡かせた漆黒の英雄……モモンがネイアに深く頭を下げる。魔導国に来てから、天上人に頭を下げられてばかりだ、いよいよネイアの頭がどうにかなってしまう。
「ネイア様、皆に勝利を。……これは最も武功を挙げた者がする。そうでしたね、イビルアイさん。」
「え!?あ、ああ、そうだぞ、ネイア。モモン様の精強にして可憐な一撃があったおかげとはいえ、
「…………後輩。」
皆の視線がネイアに集まる。そしてネイアは胸に手を当て……
「魔導王陛下の慈愛を分かち合いし皆様、ここに天使の脅威は去りました。」
〝おおお〟と歓声が沸くも、ネイアはそれを手で抑える。
「皆様を護った存在を思い出して下さい。それは最初皆様が石を投げ、唾棄したアンデッドです。……しかし、魔導王陛下に仕えるアンデッドは皆様に石を投げ返すこともなく、唾を吐き返すこともなく、その身を呈して皆様を護りました。今回襲ってきたのは、わたしの国の、わたしの敵でした。それは陛下の慈悲に対し無知であり、そのお力を今のように正しく使える御方であると理解されない憐れな方々です。……意見をお聞きしたいのです、この天使の脅威が去った直後でも、未だ魔導王陛下がアンデッドであるという理由から、受け入れられない方はいらっしゃいますか?」
ネイアは静寂を感じ取り、言葉を紡ぐ。
「わたしは他国の人間です。他国の人間だからこそ言います。これほど慈悲に溢れ、お優しく、力を正しく行使出来る王をわたしは知りません。わたくしは、ヤルダバオトという脅威を、魔導王陛下が救ってくれたその日から、強くあろうと努めてまいりました。理想だけでは勝利など出来ません、力だけでは他者を蹂躙する暴力となります。
……魔導王陛下は正義です!しかし、未だ魔導王陛下に対し無知であり、敵対する者は多くいます!魔導王陛下の御慈悲ある統治の元に居る、羨望すべき皆様!わたくしは魔導王陛下に恩義を返すべく、活動しております!強くあろうと努力しております!皆様も、魔導王陛下に恩義をお返ししようではありませんか!
この勝利を魔導王陛下へ!魔導王の……栄光のために!!魔導王陛下万歳!!」
天へ掲げる指先と、力強い勝ち鬨に民衆が沸き上がる。万雷の拍手が轟き、熱狂に包まれる中……当本人のアインズだけが呆然と立ち尽くして……民から万雷の拍手を浴びた際の練習をしておけばよかったと後悔していた。
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エ・ランテルの高級宿屋、黄金の輝き亭。広々とした一階は全て酒場となっており、ホールには高名な商人や冒険者が集っている。そんなラウンジの一席で、女性5人……アダマンタイト級冒険者チーム蒼の薔薇一同は優雅にお茶を飲んでいた。
ネイア・バラハの護衛任務の依頼はまだ続いているが、本日はネイア・バラハが戦闘の疲れを癒す目的から王城に保護される事となり、蒼の薔薇一同は黄金の輝き亭を無償で借り、疲れを癒して貰う方針と相成った。
「しっかし、しょっぱなから酷ぇ目に遭ったな。それに目付きの悪い娘は別として……その横に居たメイド悪魔だっけか?俺らより強ぇえぞ。」
「まさか初手から鬼札を切って殺しに来るとは思わなかった。いや、不意打ちとしては絶好とも言えるか。」
「もう天使が敵でアンデッドが味方なんて、頭がどうにかなりそうだったわ。それにしても最後に出てきた天使……あれは何?」
「
「……そんなのがまた来るの?だとすれば帰りたい。」
「……忍法隠れ身の術。」
「いや、有り得ない。あんな化け物がポンポン出てくれば、それは国が滅ぶ時だ。逃げ場などない。」
カラン と扉が開き、やってきたのは無表情の重装備、幼さの残る美少女と、目付きの悪い少女……シズとネイアだった。
「シズさん、ネイアさん!?」
「おう!さっきぶり!どうしたんだ?」
「…………ネイアがみんなにお礼を言いたいって。だから来た。」
「も、モモン様は一緒ではないのか!?」
「モモン様とナーベ様は、街の皆様のケアに向かわれました。王城からここまでなら、シズ先輩でも大丈夫だろうって。それにここならば蒼の薔薇の皆様もおりますし。モモン様はいざとなれば3秒で駆けつけると言っておりました。あの、皆様!本当にありがとうございました!」
ガクっと崩れ落ちるイビルアイに苦笑しながら、ネイアは深々と礼をする。
「我々は仕事でやったに過ぎん。報酬を貰っている身だ。むしろこちらこそ驚いたぞ。」
「おう、そうだよ。あの脳筋姉ちゃんのうしろをひょこひょこ付いてた目付きの悪いチビが、随分な成長じゃねぇか!ドラゴンの上では禄に話せなかったからよ、何があったか色々聞かせてくれよ!」
「……それは情報提供に金を払わないといけないのでは?」
「……さりげない守銭奴魂。あと脳筋が脳筋って言った。否定できないけれど。」
「それにしてもさっきの演説、流石【凶眼の伝道師】ね。凄い熱狂。」
「ちょっと待って下さい!〝凶眼の伝道師〟ってなんですか!?わたしそんな二つ名なんですか!?」
「…………知らなかった?後輩?大丈夫。ネイアの目は味がある。」
「シズ先輩!全然フォローになってないです!」
「まぁ立ち話もアレだ!座んなよ!おめぇが言った〝強くなる方法〟にゃ興味が尽きねぇからな。」
「あ、はい!シズ先輩も!」
「…………うん。」
こうして黄金の輝き亭で、なんとも不可思議な女子会が行われるのだった。
ネイアと蒼の薔薇一同の再開、ドラゴンにおっかなビックリ乗るネイア、入国までの幕間などなどは別に投稿出来ればとおもってます。