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"(You're) Coming Up Roses", is tagged with「多田李衣菜」「アイマス小説100users入り」and others.

総選挙が始まりましたので、何かしらの形で李衣菜を応援したいと思って書きました。初...

BBB

(You're) Coming Up Roses

BBB

4/8/2016 00:03
総選挙が始まりましたので、何かしらの形で李衣菜を応援したいと思って書きました。初投稿のため拙い部分、多々あるかと思いますが、読んでいただけますと幸いです。

行くあてのない一票がありましたら、多田李衣菜にどうぞ投票をよろしくお願い致します。

途中までタイトルが全く思いつかなかったので、たまたま聞いていたOwsleyの曲名から拝借しました。機会があれば聞いてみてください。

追記︰4月08日付の[小説] 男子に人気ランキング 14 位に入ったとのことです。拙作を読んでいただいた方、評価、ブックマークしていただいた皆様にこの場を借りて御礼申し上げます。
 ユニットの名前すらない状態でステージに立った、初めてのイベント。
 盛り上がりに欠けていたお客さんたちの姿に、不安がる私たち。
 救いを求めて彷徨う視線の先で、プロデューサーが力強く頷いた時。
 それを見た私の心に芽生えた感情の意味を、今もまだ考えている。





「李衣菜チャン、明日はソロのお仕事だっけ?」
「うん、名古屋に新しいヘッドホン専門店がオープンするからそのプロモーションイベント」
「そっか、みくは明日はナナチャンと一緒にとときら学園にゲスト出演にゃ」

 ある日の撮影スタジオの昼下がり。
 アイドル系音楽雑誌の表紙を飾るグラビア撮影を卒なくこなして、初めて内部資料以外の写真を撮ってもらうお仕事の時には表情の固さで何度もNGを出していたことを思えば、随分と成長したなあ、と我ながら感心している。
 ユニットデビューしたころから比べると、シンデレラプロジェクトとしての枠組みにとらわれない仕事内容が格段に増えたと思う。その経緯を巡っては一口では語れない様々な出来事があったけど、今となっては肯定的に捉えられている。それはもちろんこうして変わらずみくちゃんと一緒のお仕事があるからこそ、なのだけれども。

「あー……それはまた体力要りそうな」
「みくはいいけどナナチャンが心配で……」
「菜々ちゃん、いつも一生懸命だからすぐ息切れしちゃうもんね」
「それより李衣菜チャンは地方のイベントだけど大丈夫? 一人で行って帰ってこれるのかそっちもみくは心配にゃ」

 みくちゃんが失礼なことを言う。いくら私でも、新幹線に乗って帰って来ることくらい出来ないわけないじゃない。
 そもそも一人での仕事と言っても、それはユニットではないという意味の一人であって、スタッフさんはもちろん名古屋支社から応援に来てくれる。それに何よりも。

「あー、うん……明日はプロデューサーも来てくれるから」
「Pチャンが?」

 何故かはわからないけれど、みくちゃんの目がスッと細まったような気がする。

「李衣菜チャンだけズルいにゃ! みくだって最近Pチャンと一緒にお仕事してないのに!」
「ええ、そんなこと言っても……」

 撮影スタジオの外にまで聞こえていきそうなくらいの剣幕で、まるで「この泥棒ネコ!」と言わんばかりの。いや、猫キャラはみくちゃんのほうなのに。

「私なんて、一人のお仕事についてきてもらうのは、たぶん、初めてなんじゃないかなあ」

 記憶を辿ってみても、アスタリスクのお仕事でも現場にまでついてきてもらうのは珍しいと思う。大体はメイク中心のスタッフさんが数人居てもらえたら、みくちゃんと二人で何とかなる内容が多かったからなのだろうか。
 ただでさえ14人全員が売れっ子で、シンデレラプロジェクト二期生の企画も検討しているらしい、売れっ子を抱える売れっ子。私たちだけに割けるリソースは決して多くない。
 だから、どうして今になって、という疑問もある。

「そうなの? まあ、どうしてもPチャンは一人のお仕事だとみりあチャンや莉嘉チャン、蘭子チャンあたりについていくことが多いからそうなっちゃうのかにゃ」
「うん、だから……まあ、楽しみ、なのかな」
「そう言う割には何だか浮かない顔してるけど、どうして?」

 自分では努めて気にしないように、と思っても表情に出てしまっているようだった。
 楽しみ、という言葉に嘘は無くて。
 少しだけ不安、という気持ちもまた本当で。

「私、プロデューサーとコミュニケーション取れる機会が今まであんまり無くって……気まずい、とまではいかないんだけど、その……」
「あー……李衣菜チャン、最初のほうはみくたちだけじゃなくてPチャンにもクールぶってたから……」
「まるで今はクールじゃないみたいに言うね!?」
「大事なのはそこじゃないにゃ。みくたちとは簡単に埋められた距離感を、Pチャンとは埋められないまま、ズルズルとここまで来ちゃったってことでしょ」

 ぐう。
 はぐらかされている気がしないでもないけど、その指摘には頷けるものがあった。そう言うだけあって、みくちゃんは決していい形ではなかったかもしれないけれど、あの立てこもり騒動の時に溜め込んでいた思いを吐き出したぶん、時機を逸したままの私よりよっぽどプロデューサーと打ち解けている。クールなアイドルとしての矜持はもちろん、そうじゃない振る舞いもまた、私の一面であることを十分に伝えきれていないまま、今日に至ってしまっているのは確かだった。
 他のメンバーよりもプロデューサーとの距離があるように感じるのは、私の話し方のせいもあるのかもしれない、と思う。目上の人に敬語、とまではいかないまでも丁寧な口調で接するべきというのは、私の中でちゃんと線引きがあるので、今更それを変えるつもりはない。ただ、そのせいでコミュニケーション不足とも相まって、プロデューサーに取っ付きにくい子だと思われていたら困るなあ、と。

「だったらせっかくの機会なんだし、距離を縮める為に甘えてみればいいのにゃ。ほら、ごろにゃーん」
「いや、それ私のキャラじゃないし。そもそも甘えることが目的じゃないんだけど」
「じゃあどうしたいの?」

 どう、って。
 どうしたいんだろう?
 不安な気持ちの理由はいくらでも列挙出来る。
 でも、それだけでは当然楽しみな気持ちの理由にはならない。
 だとすれば、私が現状をどうにかしたい、どうにか出来るチャンスだと息巻いているこの気持ちこそが、楽しみの一端を担っているのだと思う。

「んー……卯月ちゃんや凛ちゃんくらい普通にコミュニケーション取ってお仕事したいなあ」
「その二人を目指すのはちょっと難易度高過ぎるにゃ……。でも、だったらやっぱり甘えるという路線は間違いじゃないにゃ」

 そうなのかなあ。
 決して仕事上でのコミュニケーションが上手く行ってないわけではなくて、二人きりになったときに、プライベートなことを気兼ねなく喋れる間柄までは行けてないってくらいで。
 それはもしかして、一人のときのお仕事のモチベーションにも関わってくるのかな。

「さっきみくちゃんはズルいって言ってたけど、プロデューサーがいるといないとでお仕事ってそこまで差が出るもの?」

 私は少なくとも気にしたことはなかった。言い換えるなら、一人で仕事を進めていく上で深刻な問題が起こったことはなかった。アスタリスクとしてのトラブルは結果的に私たちだけで解決すべき問題だったことがほとんどだったし、実際に上手く行った――行きそうだったからこそ、プロデューサーも見守ってくれていたのだと思う。
 アスタリスクとしての、という領域に思考が及んだところでまた思い出した。
 あの、初めてのステージに立った時の記憶。隣にみくちゃんがいるはずなのに私一人になってしまったかのような孤独感を、救ってくれたのは。言葉に出来ないあの気持ちが、答えを握っているのかな。
 あれからもう半年以上経っているのに、何かもわからない小さな思いは、ずっとつっかえたまま。

「そりゃあ、みくだって出来ればいつもPチャンと一緒にお仕事したいって思ってるよ。でも、Pチャンがいないことを言い訳にしてパフォーマンスを発揮出来ない、しないのはプロとしてカッコ悪いって思うの。李衣菜チャン風に言うなら、それはロックじゃないってことにゃ!」

 上手くお仕事出来た時に、あの仏頂面が少しだけ綻んでお疲れ様の一言でも貰えたらもちろん嬉しいにゃ、と言い添えて。
 みくちゃんは強いなあ、と思う。
 私は今まで騙し騙しで何とか出来ていただけで、もしかして。
 まとわりついた靄を払うように、明日の進行表を確認することで仕事モードへと強引に切り替えていった。
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