2019/03/20
日本を離れ14ヶ月、南極生活を振り返る 昭和基地の「通信」を守るKDDI社員50歳奮闘記
日本から14,000kmも離れる「南極」に赴任したKDDI社員・齋藤勝による現地レポート。2017年11月に日本を出発し、その後14カ月も日本に帰れない彼の南極滞在中のミッションは「昭和基地の通信環境をひとりで守る」こと。日々の業務の様子から、食事や暮らし、そして休日の過ごし方まで、現地からのレポートをお届けしていきます。
TIME & SPACE読者のみなさん、こんにちは! 第59次南極地域観測隊の齋藤勝です。
南極での任務を無事に終え、現在帰国の途についているところです。今回は約1年間に及んだ南極生活を駆け足で振り返っていきたいと思います。
南極における「通信の保守」が主な任務
私はLANインテルサット隊員としての南極に赴任していました。その主な業務を3つほど紹介します。
まずはインテルサット衛星システムの保守運用です。南極の昭和基地でもインターネットや電話を利用できますが、いずれも地球の上空36,000kmにあるインテルサット衛星を経由して通信を行っています。
昭和基地のレドーム内には直径7.6mのパラボラアンテナがあり、そこからインテルサット衛星へ向けて電波の送受信を行っています。年々、昭和基地からのデータ送受信の需要が増しているので、通信システムを安定に稼働させなければなりません。また、故障発生時には迅速に対応しなければなりません。それらが私の任務です。
定期的な保守作業の一例として、アンテナ駆動部分の点検があります。高所に上がっての作業の連続で、とても大変な作業となります。作業は安全帯を装着して丸一日を掛けて行います。作業が終わる頃には汗をびっしょりかいてしまいます。
ふたつめは、昭和基地内のLAN設備の運用保守です。昭和基地内には多くの建屋があります。その建物ひとつひとつに通信ネットワーク設備が張り巡られていて、観測隊員がその場所にいながらデータ通信ができます。
基地内の通信ネットワーク設備の管理はもちろんですが、ケーブルの敷設や新しい設備の設置なども行います。設備数や種類が多いので当初は戸惑いました。
3つめは、放送の仕事です。昭和基地から日本国内に向けた情報発信として、衛星を利用した生中継が一年を通して行われます。そこでは南極の映像や音声が衛星回線を通じてリアルタイムに日本の小中学校や科学館などに送られます。私は日本ではあまり扱うことのない放送機材の操作を担当していました。
四季を感じる工夫の数々。夏は流しそうめんも!
続いて、南極での暮らしをご紹介しましょう。
昭和基地での長い越冬生活を乗り切るうえで大切になるのが、規則正しい生活です。極夜、白夜といって、極地特有の太陽が昇らない時期や、逆に太陽が沈まない期間がそれぞれ40日間ほどあります。また南極はハッキリとした四季がなく、季節を問わず時折ブリザードが吹くことも。
そんななか、昭和基地内で行われる各種イベントは、単調になりがちな越冬生活に季節感を与えてくれます。春の花見、夏の流しそうめんなどはその一例です。
冬至の頃のMWF(Mid Winter Festival)は特に盛大で、各国の基地でもほぼ同じ時期に行われます。59次隊の昭和基地でのMWFは1週間にわたり、豪華なフルコース料理が振舞われたほか、ゲーム大会やスポーツ大会などが行われました。
MWFは越冬生活の半分を送ったことに対する骨休みの意味もありますが、MWFが終わる頃には残り半分の越冬生活を無事にやり切ろうと言う意識に切り替わります。
お風呂でリフレッシュし、ビリヤードやバーで余暇を過ごす
昭和基地内は温度がしっかり管理がされているため、とても快適です。隊員が業務以外の時間の大半の時間を過ごすことになる居住棟にも暖房があり、快適に暮らすことができました。ただ、難点はトイレがないこと。居住棟からトイレに行くには渡り廊下を歩かなければならず、距離が200mほどあり、緊急時には大変な思いをします。
また、昭和基地内には、お風呂のほか、娯楽室や飲み屋(バー)といった施設もあります。
このように、昭和基地内や居住棟内ではとても快適に過ごせるわけですが、一方で、いざ屋外に出ると、そこは極地、極寒の世界。そして太陽の強力な日差しと紫外線が容赦なく照りつけます。
日々の食事はシェフが振る舞う。美味しくて栄養満点!
越冬隊員のカラダを支える日々の食事は、プロのシェフによって提供されます。飽きのこないように工夫が凝らされ、栄養面にも配慮されているうえ、とても美味しいです。カロリーは日本での生活時よりも高めになっていると思います。
辛いこともあった南極生活でしたが、食べることが大好きな自分にとって、毎日の食事がとても楽しみでした。
オーロラ、ペンギン、アザラシ……南極でしか見られない自然に癒やされる
また、南極でしか見られない風景や動物を見ることも、長い南極生活のなかで楽しみのひとつでした。
南極における自然現象として特に有名なのは、やはりオーロラでしょう。越冬期間中に何度も見ましたが、同じオーロラはふたつとなく、毎回感動していました。
オーロラのほか、きれいな天の川を見ることもできました。
動物に関しては、夏にペンギンがよく見られます。昭和基地周辺に生息しているペンギンはアデリーペンギンと呼ばれ、好奇心が旺盛で、たまに昭和基地のすぐ近くまでやって来ることも。
ペンギンは短い夏のあいだに昭和基地周辺まで南下し、卵を産んで子育てを行います。私は越冬期間中にルッカリ(ペンギンの繁殖地)で個体数の調査支援なども行いました。
また、基地周辺ではアザラシもよく見られました。
昭和基地周辺では冬の期間になると大小さまざまな氷山を間近に見ることもできます。
ちなみに、実は南極にも道路標識があるって知っていましたか?
これらふたつの標識は、昭和基地から近くの同じ場所に仲良く並んでいます。
任務を終え、次の越冬隊員へとバトンタッチ
そうして約1年間の南極任務を終え、2019年2月1日に越冬交代式が行われました。これで私たち第59次越冬隊員から第60次越冬隊に昭和基地の運営を正式に引き継いだことになります。
1年前に第58次越冬隊から引き継ぎを受けたとき、使命の大きさに不安もありました。「自分は果たしてやっていけるのか?」と。しかし、気づけばあっという間の1年間だったような気がします。これから帰国して通常業務に戻るまで時間がありますが、南極で得た数々の貴重な経験を糧に、新しいことにも積極的にチャレンジしていきたいと思います。
写真・文:齋藤 勝
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