今年の夏休みの家族旅行は、空高く噴出する間欠泉や、エルク、バイソンなどの野生動物が見られることで有名で、サンフランシスコから約1,500km 離れたイエローストーンとグランドティトンの両国立公園に出かけました。
ユタ州のソルトレイクシティから、イエローストーンまでの5時間ドライブ道中にアイダホに一泊することにしたのですが、「せっかくアイダホにいるんだから射撃練習場に行こう」と夫が言い出します。「えええっ?」
アイダホに足を踏み入れるのはお互い初めてで、アイダホと言えばアイダホ・ポテトくらいの知識しかありませんでしたが、アイダホはカリフォルニアに比べると銃規制がゆるく、購入しやすいだけではなくライセンスや銃を保有していない一般人でも気軽に射撃の練習ができて、試せる銃の種類も多いとのこと。射撃練習場では、ゴルフの打ちっ放しのような感覚で射撃の練習ができます。
ご存知の通り、アメリカでは銃乱射撃事件が多発しているため銃に対してピリピリしている人は多く、家族の娯楽として射撃を楽しむ、といった雰囲気はサンフランシスコ・シリコンバレーの私の周囲ではほぼありません。私自身もアメリカの銃社会に関しては強い嫌悪感を感じており、射撃練習場に足を踏み入れるのにも抵抗がありました。
「ご冗談でしょう!」と最初は夫の提案を一笑に付していましたが、「銃規制強化の反対意見の相手を理解するにはまず自分が体験することが大事」と説得され、とりあえずトライしてみることに。「10歳の子供がいます」と問い合わせたところ、「保護者が十分に分別がある(mature) と判断した場合は7歳からでもオッケー」とのこと。7 歳って…
アイダホをはじめとするいわゆる「赤い州」は、保守的で銃所持の権利を主張する共和党が優勢な地域です。地元の大型アウトドアスポーツショップでは寝袋の隣の棚に銃や関連アイテムが所狭しと並んでいて、入り口の掲示板には仕留めた鹿やエルクや熊とともに写真に収まる誇らしげなハンターたちの写真が飾ってあります。その「ハンター」の中には、明らかに10代の子どももいます。ハンティングに使うライフル以外にもハンドガン、ショットガン、マシンガンなどいろいろな種類の銃を販売していて、州に住む住民であれば簡単に購入することができます。
ワイオミング州のイエローストーン国立公園内にあるホテルでは入り口すべてに「銃は持ち込まないで」のサインがありました。銃を見えるように持ち歩くことができる州なので、生活と銃が密着していることをひしひしと感じます。子供のころからライフルやガンに親しみ、夏休みにはガン・キャンプ(子供向け銃の教室のこと)に参加し、小さい頃から銃に慣れ親しんで育つと、銃に対する価値観もシリコンバレーの子供たちとはずいぶん異なっていくことは想像に難くありません。
アイダホのアウトドアスポーツショップの銃の担当者は「連日報道されている銃のニュースは全部フェイクニュースだ」と言っていました。「フェイクニュースなんかじゃないよ、実際に人が何人も銃で死んでいっているんだよ」言い返そうとしましたが、自分たちの文化を分からないアジア人の移民が余計な口出しするな、と言われそうで、何と言ってもカウンターの中にいる相手の後ろには銃がいっぱい並んでいるので怖くなってやめました。
この夏には私の住む街の近くのショッピングモールで銃撃事件があり、犯人が周辺を逃走中だったため電車が止まり、しばらく自宅に帰れませんでした。全米中に乱射事件が多発していて、そんなニュースを聞いても、もう驚かなくなりました。子供が通う小学校では月に数回、火災や地震に加えて、銃乱射に備えた訓練を定期的に行なっています。ドアを椅子でバリケードし、銃を持った犯人を入れないようにして机の下に隠れるという訓練です。
この間は、何かの腹いせでアタマにきた近くの学校に通う高校生が、「学校で銃をぶっ放してやる」とソーシャルメディアに投稿しました。実際に彼の家族は銃を保有しているので、子供が通う小学校でも体育や屋外のアクティビティは中止、一斉に教室に戻り避難体制に入る、ということもありました。
ふと入ったアイダホのカフェには、全米ライフル協会 (NRA)の会員向け月刊誌が置いてあります。シリコンバレーでも銃保持者は大勢いますが、リベラル人口の多いシリコンバレーで、NRAの月刊誌がカフェにおいてあることはまずありません。アメリカで銃規制強化を求める声が強いにもかかわらず一筋縄では規制を推進できない背景が銃保持者が多く存在する地域に足を踏み入れて少し分かった気がしました。
しかし、「銃廃止どころか規制すら進まないのは、政治、文化、歴史的背景が複雑に絡み合っているのと、銃の所有がアメリカ人としてのアイデンティティに直結しているから」という説明は、少し違うのではないかという気がしています。200年前の開拓民時代の諸事情と今の多発する乱射事件や銃が原因で命を落とす人口が増加している背景とでは大きく異なるからです。
私の周囲のアメリカ人は強固に反対しているたちが多いので、なぜこんなに銃のない世界の実現が難しいのかリベラル人口が多いシリコンバレーにいると理解しづらいところがありました。アメリカでは二者の意見がまったくクロスせず、落とし所が見つからない状況が長く続いています。牧場を経営していて馬や牛に危害を加える狼を退治するためにライフルを所有する、というのはなんとなく想像できても、マシンガンや軍が使用している機関銃を一般人が入手できてしまう、というのは日本人としては永遠に納得がいかないところです。
アリアナ・グランデがサンフランシスコに来るからコンサートに行きたい、と子供が言います。「お小遣いを貯めるから。どうしても行きたいの、お願い!」。2017年には彼女のイギリスでのコンサートで爆発物事件があり、死亡した23人のうちの一人はその当時彼女と同じ年齢だった8歳の女の子でした。今度は、銃乱射が起こったらどうしよう、脳裏をよぎります。
日本は自然災害が多く被害を受ける可能性も高いです。ですが、King & Prince や EXILE のコンサートに子供が行きたいと言った時に、最初に心配するのは銃の乱射事件ではないと思います。日本は銃のない安全な国。引き続き世界で最も安全な国でいて欲しいと切に願っています。
2020年の米国大統領選挙では各候補者の銃規制に関する主張にも注目していきたいと思っています。