川崎 もう一つ『ヤングマン』で忘れてはいけないのが、あの振り付けです。僕は冒頭の「ヤングマン さあ立ちあがれよ」で、パンチするように、手を交互に前に出す振りが好きでした。とにかく秀樹さんの動きは、すごくキレがあるんです。
天下井 振り付けを考案したのは、一の宮はじめ先生で、あの動きは少林寺拳法の型からイメージしたそうです。
岡村 体全体を使って「Y・M・C・A」を表現するのを考えたのも、一の宮先生ですよね。
天下井 あれはある意味、秀樹との合作とも言えます。最初に先生が付けた振りは、「A」で両手を頭の上で合わせたあと、腕を左右に開いてAの横棒をイメージした動きがあった。でも、秀樹はなぜかそれをやりたがらなかった。
理由を聞いたら「みんなが客席でやったら、隣の人に腕がぶつかるでしょ」と言う。私も長年、彼と一緒に過ごしましたが、ファンのことをそこまで考えているのかと驚きました。
川崎 誰でもすぐに覚えられるのもよかった。テレビで放送されると、お茶の間も一緒になって、歌って踊ってね。日本中を元気にしてくれた。
天下井 これは発売前の話ですが、新春コンサートの後、秀樹とスタッフでグアム旅行に行ったら、現地のディスコで原曲の『Y.M.C.A.』がかかっていた。
そこで僕たちが例の振り付けをやったところ、周りの外国人が、真似をし始めたんです。「この振りは、世界共通で盛り上がるのか」と驚きました。
岡村 同じころ、日本でも予想外の事態になっていたようですね。
天下井 ラジオ局が秀樹のコンサート曲の人気投票をしたところ『ヤングマン』のリクエストはがきが、段ボール3箱も届いたのです。それを聞いて「これはすぐにレコード化しよう」となった。
岡村 でも、シングル化が決まったものの、発売の2月まであと1ヵ月もない。秀樹のスケジュールがびっしりで、録音日が1日しかないと知ったときは慌てましたよ。
特に印象深いのが曲中に流れる手拍子を録音したとき。ライブ感を出すには生がいいと、ファンを急遽50人集めて夜中まで収録しました。忙しい時間を縫って秀樹もスタジオに駆けつけてくれた。その盛り上がりが音にも出ています。
天下井 秀樹と一緒にレコードのプレス工場に行ったのも、忘れられない思い出です。
工場長に無理な納期でお願いしたら「作業するのは工員の女の子たちだから」と言われてね。そこで全員を集めてもらい、ミカン箱の上で秀樹が生で『ヤングマン』を歌ったんです。
秀樹が「残業になりますが、僕も頑張るので、みなさんよろしくお願いします」と言って、頭を下げると「任せて、ヒデキ~」と工員の女性たちから歓声が上がった。あの光景は、いまも目に焼き付いています。