川崎 でも、なぜマネージャーだった天下井さんが訳詞をすることになったんですか?
天下井 そもそもは正月コンサートのアンコール曲として、『Y.M.C.A.』が会議で挙がったことが始まりでした。'78年、ロサンゼルスに滞在した際に、秀樹はあの曲を知り、ノリのよさに惹かれていたんです。
川崎 当初はコンサートで歌うだけの予定だったんですね。
天下井 そう。最初は原曲のまま英語で歌うつもりでしたが、振り付けが完成するとスタッフの間で非常に評判が良くて、急遽、日本語の詞を付けることになったんです。でも、プロの作詞家に頼む時間はなかった。
それで上司から「お前、大学出ているんだから書けるだろう」と言われて、私が訳詞をすることになったのです。それまでも何度か作詞の経験はあったのですが、さすがに焦りましたね。
とにかく時間がなかったので、スタジオの屋上で、1時間で書き上げました。最初の「さあ立ちあがれよ」が出るまでは苦労しましたが、そのあとは一気に書けました。
岡村 失礼かもしれませんが、いい意味で素人の天下井さんだったからこそ、こんな素直な訳詞ができたと思うんです。
天下井 実はシングル化する際、あらためてプロの作詞家に訳詞を依頼したのですが、都会的でお洒落な詞が上がってきて、スタッフが抱いていた「みんなで歌って踊れる歌にしよう」というコンセプトとは違っていた。それで結局、私の訳詞をそのまま使うことになったんです。
岡村 ストレートな言葉だからこそ、ファンの心にも響いたのでしょう。
川崎 原曲と比べると秀樹さんの『ヤングマン』は、かなりテンポが速くなっています。
洋楽に日本語の歌詞を付けると、どうしても間延びしてしまうのですが、リズムを速くすることで、曲の勢いが増している。イントロから、体が自然に動き出します。
天下井 もともとディスコミュージックですから、できるだけみんながノリやすいようにしたかったんです。
岡村 テンポは速くなっているけど、実は原曲より1分ほど長い。それはライブで盛り上げることを想定し、シングル化する際に間奏で「Y(Y) M(M)C(C)A(A)」という客席との掛け合いを入れたから。
あれはヴィレッジ・ピープルの原曲にはない、秀樹バージョンのオリジナル。その分だけ曲全体も長くなりました。