日光産の玄そばを自家製粉! 地域再生をかけた渾身のそば/栃木

特集

【特集・第2回】地元人が推薦! グルメ甲子園 〜 蕎麦編 〜

2019/08/17

日光産の玄そばを自家製粉! 地域再生をかけた渾身のそば/栃木

のどかな里山でいただく味わい深い手打ちそば。その裏側には、地元を思う有志の存在がありました。(とちぎの時間充実マガジン「月刊twin」)

Yahoo!ライフマガジン編集部

Yahoo!ライフマガジン編集部

日光市内にあるそばの名店「小来川 山帰来(おころがわ さんきらい)」は、日光市街地から南部に位置する小来川地区にあります。いくつかの町を過ぎると徐々に民家も減っていき、「本当にお店があるのかな……?」と少し不安になりながら緑豊かな風景を横目にグングンと進んでいくと、店の看板が見えてきました。

日光市街地から車で約30分。一見そば屋とは思えないログハウスの外観

日光市は世界遺産がある国内有数の観光地ですが、郊外の小来川地区は地元の人たちが守り続けてきた日本の原風景に出会える場所。その一画にある店舗は、青く透き通った渓流、緑の深い山々で囲まれています。

店の横を流れる黒川。川底が見えるほど澄んでいて感動
のどかな里山の風景を一望できる店内

2011年のオープン以来、常に訪れる人が絶えないこちら。普段はとても静かな場所ですが昼時になると一転し、どこから来たのかと思うほど次から次へと人がやってきます。

オーナーの星野光広さん

地域を再生させるため、地元の人々が協力し合い店をオープン

この店は、まちづくりコンサルタントの星野さんが立ち上げたそう。その経緯について尋ねてみました
オーナー 星野さん
オーナー 星野さん
「オープンした経緯を話せば長くなるのですが……(笑)。ここは『小来川活性化計画 山帰来プロジェクト』という民間が行っているまちづくり事業の一環で作られた店なんです」
ライター 金谷
ライター 金谷
「それはどういったプロジェクトなんですか?」
星野さん
星野さん
「今、全国の中山間地域では、過疎化・高齢化の影響で集落を維持できない限界集落が増えています。この地区も高齢者が多く、放っておけば過疎化は進んでいきます。そこで人や経済を循環させようとして始めたプロジェクトなんですよ」
ライター 金谷
ライター 金谷
「そのような意図で作られたんですね! 確かにこれから人口も減少し、この先、国内のどの地域でも避けられない問題です」
星野さん
星野さん
「小来川は私自身も生まれ育った場所。もし人がいなくなれば、山は荒れ果て自然災害も増えていき、美しい自然を維持できなくなります。あまり知られていませんが、上流の流域で暮らす私たちが環境を整備することで、下流の市街地での生活も守られているんですよ」
ライター 金谷
ライター 金谷
「まさか私たちの生活まで守られているとは……。該当地域以外にも深く関係する問題なんですね」
星野さん
星野さん
「そうなんです。しかしまちづくり事業とはいえ、そばは一切妥協をしていませんよ! 小来川産のそば粉を使い、地元に住むそば職人とスタッフの手でそばを提供しています。今まで特に宣伝もしていませんが、皆さんの口コミで広げていただいたおかげで、毎日たくさんの方が来てくださいます」

自家栽培した小来川産の玄そばを使用

そば打ちは別棟の工房で行われる

地域を再生させようと奮起し、さまざまな人たちの手を借りて誕生した「小来川 山帰来」。小来川の資源を最大限に活用しようと、すべてにおいて地場産に気を配り、自家栽培したそば粉、地元で採れた野菜、日光名物のゆばなどをメニューに取り入れています。

そばを打つのは店長の福田安希央さん。福田さんは県内の複数店で修業を積んだ
そば打ちは朝一に行われ、外から作業を見ることができる
そばを手早く均等に切りそろえていく。まさに職人技!

そば粉は、この地域で採れた新鮮な玄そばを自家製粉しています。店で提供しているのは丸抜きそば粉で打った二八そば。「丸抜きそば粉」とは外皮部を取り除いて挽いたもので、柔らかな喉越しが特徴なのだそう。

キリっとした本枯れ節のつゆが、そば本来の旨味を引き立てる

品よく盛り付けられた「もりそば『小来川』二八」(900円)。量は200gと通常の一人前よりも多め
星野さん
星野さん
「店を始めようと思ったときから、そばを出そうと決めていました。玄そばはうちの畑で栽培したものや、近隣の農家から仕入れています。石臼で挽いているので、風味もいいですよ。またそばつゆは本返しで、上質な本枯れ節でとった一番だしのみを使用しています」

食べてみるとしっかりとしたコシがあり、そばの香りが鼻を抜けていきます。そばつゆは辛口のスッキリとした味わいで、よりそばの甘みを感じられます。豊かな自然を眺めながら味わう地場産の素材を使ったそばは、いつも食べているものとは違う次元の美味しさ!

星野さん
星野さん
「器にもこだわりたいと思い、県内の陶芸家・佐伯守美さんに特別に作っていただきました。店名にもなっている山帰来の花と実が描かれています。メニューによって柄が違うので、そちらも楽しんでいただきたいです」

創作そばや日光名物のゆばを使ったメニューもおすすめ!

「ゆばそば」(1500円)と「冷やし酢橘そば 涼香」(1300円)

ゆばの刺身とゆばの天ぷらをのせた「ゆばそば」は一押しのメニュー。そばつゆを上から豪快にかけていただきます。そばを水に浸して食べる“水そば”仕立てにした「冷やし酢橘そば 涼香」は見た目もさわやかで、暑い時期にぴったり。

星野さん
星野さん
「酢橘そばは、まず水そばをそのまま味わってから、そばつゆにつけて味わってみてください」
ライター 金谷
ライター 金谷
「水そばは初めてですが、そばの味と香りを直に感じられますね。喉越しもいいです!」
星野さん
星野さん
「日光は水がキレイですからね。これも人気のメニューなんですよ」
「ゆばのお刺身」と「ゆばと季節の野菜の天ぷら」。いずれも500円

生ゆばは、毎朝汲み上げた新鮮なものを仕入れているそう。濃厚で、大豆の風味が口いっぱいに広がります。ゆばの天ぷらは、サクッと揚げられた衣の中からとろけるような生ゆばが……! どちらも、日光に来たならぜひ食べてもらいたい逸品です。

ログビルダーの技が凝縮した建物も必見

小来川は、“ログハウスの神様”と呼ばれたアラン・マッキーさんを講師に招きログスクールを開校した場所でもあり、かつてはログビルダーの聖地として多くの人が学びに訪れていたとか。星野さんはその要素も盛り込んだ建物にしたいと考え、ログビルディングスクールを立ち上げた故星野久也さんの奥様に相談したところ、全国で活躍している元教え子の方々に声を掛けてくれたそうです。

丸太の木と漆喰の壁を組み合わせた内観は、洗練された佇まい
入口の反対側から見た外観。ログハウスの構造がよく分かる
星野さん
星野さん
「技術力のある5人のログビルダーが集まってくれて、みんなでアイデアを出し合って作り上げました。使った木材は、樹齢80年の杉を160本。梁と柱に丸太を使い、日本ではめずらしい丸太組構法・軸組工法で建てられ、釘は一切使っていません」
ライター 金谷
ライター 金谷
「反対側は、表の入口とはずいぶん趣が異なるのに驚きました。同じ建物とは思えないくらい! どちらもおそば屋さんのイメージとかけ離れていてインパクトがありますね」
星野さん
星野さん
「2棟の建物を真ん中で繋いでいるんです。本当は1本の木材を使いたかったのですが、山からの切出しが困難で長尺の木材を搬出できなかったので、分割して運びました」
ライター 金谷
ライター 金谷
「天然木材の迫力が伝わってきます。食事に来たお客様にも、こちら側からの光景を見てもらいたいですね」

里山の魅力を伝え、さらに地域を活性化させていく

オーナーの星野さん(左)と店長の福田さん

店名の「山帰来」には“自分の故郷のような気持ちで帰って来る”“本来の人間の在り方に戻り、ここで癒やされ、再び街に帰って行く”という意味が込められています。山の魅力を感じられるような自然体験や、週末滞在ができる環境も整えていきたいと今後の夢を話してくれた星野さん。

星野さん
星野さん
「私たち民間人が率先して地域を変えていくことが、社会をも変えていきます。小来川の人たちが丹精込めて作った美味しいそばを知ってもらうのはもちろん、この活動がロールモデルとして日光市から県内、そして全国へと広がり、それぞれの地域も活気づいたらいいですね」
星野さんのそば畑。ここから、美味しいそばを届けています

取材メモ/有名店の裏側には、そこに住む人たちの「地元を盛り上げたい」という思いがありました。時代と共に減りつつある“人と自然が共存する場所”で、美味しいそばとのんびりした時間を満喫してみてください。

取材・文・撮影=金谷有美子

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