旬の山野菜を取り入れたコース料理に定評がある「八寸庵 花子」の特製鍋を紹介します。(とちぎの時間充実マガジン「月刊twin」)
Yahoo!ライフマガジン編集部
ここでしか味わえない唯一無二の鍋
宇都宮市内にある「八寸庵 花子(はちすあん はなこ)」は、全国の銘酒と共に県内産の新鮮な山野菜を活かした草生料理、国内産最上級の石臼挽粉を使った江戸前蕎麦を提供している和食料理店。単品メニューはなく、おまかせコース仕立てで季節の料理が堪能できます。
情趣あふれる空間でいただく草生料理
実際に自宅として住んでいた日本家屋をそのまま利用しているという店内。中へ入ると、昭和の息吹を感じる空間が広がります。居心地の良さと料理の美味しさが評判を呼び、開店して間もなく多くの人でにぎわうようになったそう。
28年前、店主・田代公一さんの妻、久子さんが新鮮な食材を使った昼ごはん、夜ごはんが食べられるメニューのない食事処を作りたいと「キッチン 花子」という名でオープンしたのが始まりだそう。今の場所に移転したのを機に「お食事処 花子」として再スタート。お客様の細かな要望に応えていくうちに、徐々におまかせコースという形になり、手打ち蕎麦を提供するように。蕎麦打ちは田代さんが担当。現在は引退した久子さんに代わり、新たに加わった料理長が腕をふるっています。
- 店主 田代さん
- 店主 田代さん
- 「蕎麦打ちは浅草の名人のところで修業し、時には休日も指導してもらっていました。蕎麦を出すようになってから今年で約20年になります」
野菜と魚の旨みだけで勝負するシンプルな鍋
こちらでは体にやさしい草生料理(蘇生料理)をコンセプトに、肉は使用せず野菜と魚の旨みを活かした料理を心掛けているそう。雲海鍋は10月~4月の期間限定でコースに加わり、毎年楽しみにしているリピーターも多いとか。期間外の夏場も、事前に予約すれば味わえるそうです。
具材はエノキ、シメジ、塩ダラ、ゆば、ネギと、通常の鍋に比べると見た印象はとてもシンプルです。二番だしを加えた自家製塩だしベースの上品なスープで具材に火を通していきます。
- 田代さん
- 田代さん
- 「何年か前までは、毎週妻と一緒に県北の直売所や農家へ食材を仕入れに行っていました。各地域で採れた旬の野菜やきのこには、特に力があるように感じます」
味の決め手となる真っ白なヤマイモ
雲海鍋に欠かせないのが厳選したヤマイモ。通常のものよりも色が白いのが特徴です。しかし鍋といえば……寄せ鍋、湯豆腐、モツ鍋、おでん、とさまざまな種類がありますが、一体どのような流れでこの「雲海鍋」ができたのでしょうか?
- 田代さん
- 田代さん
- 「昔、妹がヤマイモを送ってくれたんですよ。大量だったので、残った野菜とすったヤマイモを鍋の中に入れて食べていたんです。ヤマイモを入れるタイミングや熱の入り方で食感が変わるので、いろいろ試しながら味わっていたところ今の鍋が完成しました。思い返すと胃もたれせず消化にも良かったので、年末年始の飲み会で疲れた胃を休めてもらうために期間限定でお客様に出したら『また食べたい』と言ってくださる方が多く、それからうちの定番になりました」
まさか偶然の産物だったとは! 十数年前からメニューに加わり、今では店の名物鍋になっています。
すりおろしたヤマイモをレンゲで団子状にし、鍋の中に一つずつ丁寧に入れていきます。ヤマイモを入れ終わったら火を止め、ふたをして土鍋の余熱でしばらく蒸らせば出来上がりです。
鍋の上に浮かぶ美しい雲海!
ふわふわとした真っ白なヤマイモは、まさにその名が示す通り雲が浮かんでいるよう! シンプルな素材でも物足りなさを感じることもなく、食通も満足できる上品な味が広がります。肉類が入っていないので脂っこさも皆無。お酒を飲みながらでもさっぱりといただけます。おだしをチェイサー代わりにする人もいるそう!
- 田代さん
- 田代さん
- 「『ウニやイクラなど、高級なものを入れれば美味しいのは当たり前。これは何てことのないものでうまいと思わせる日本一の鍋だ』と言ってくださったお客様がいらっしゃいました。最高の誉め言葉で、とても嬉しかったです」
鍋の締めは極太の手打ち蕎麦
鍋の締めにも店主のセンスが光ります。会話が弾み、しばらく鍋を放っておいても伸びにくい極太の田舎蕎麦を入れるのが花子流。やさしい味わいのだしが、蕎麦の味をより一層引き立ててくれます。
素材が持つ真の美味しさに開眼
おまかせコースでは、四季折々の食材を使った小鉢、お造り、焼物、てんぷら、江戸前蕎麦などを提供。おすすめは4320円のコース。花子自慢の草生料理を余すところなく楽しめるのが魅力です。
- 田代さん
- 田代さん
- 「全国の選りすぐりの銘酒をそろえているので、料理と一緒にゆっくり味わってもらいたいです。現在はコース料理のみですが、将来的にはお食事処の頃のようにアラカルトメニューなども出していけたらと思っています」
日本の四季・風土に合った食材で目と舌を楽しませてくれる花子の草生料理は、よく知る食材の「新たな美味しさ」に気付かせてくれます。日本の和食はユネスコ無形文化遺産にも登録されましたが、世界に誇る和食とは本来このような料理なのかもしれません! 和食の原点に返れる雲海鍋を、ぜひ一度味わってみてください。
取材メモ/風情あふれる空間でいただく栄養満点の料理。お食事処の時代からコンセプトを変えずに提供し続けている体にやさしい食事は、心まで元気になれそうです。コース料理なので、来店の際は電話予約を。
取材・文=金谷有美子 撮影=金谷有美子・黒川円