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「バッキンガム宮殿採用」装置にダメ出し続々 

ネット注目の#謎水装置 開発者を直撃

長野剛 朝日新聞記者

判断しない国・自治体…

拡大自宅マンションにNMRパイプテクターが付き、行政機関に対応を求めている男性「謎水」さんがツイッターで紹介している漫画。どこの役所も相手にしてくれないという
 NMRパイプテクターはここ1年ほど「謎水装置」と呼ばれ、ネットでも関心を集めるようになりました。その原動力が、ツイッターで「謎水」と名乗り、行政に判断を求め続けている北海道の50代男性です。自らの経験を漫画に描き、問題を発信しています。

 謎水さんの自宅マンションには昨年、NMRパイプテクターが設置されました。事前説明会に納得いかず、管理組合理事会に思いとどまるよう求めましたが、止まりませんでした。

 そこで、様々な役所に相談しました。道が運営する消費生活センターなど、消費者行政の役所はいつも「マンション問題は消費者の問題ではない」と相談を断ったそうです。企業としての是非を判断して欲しいと経済産業省の出先機関に相談すると、警察への届け出を勧められ、警察署には「内容が理解できない」と断られたそうです。

 都営地下鉄にも訴えました。都は「非科学的根拠や迷信に類するもので、利用者を惑わせ、不安を与える」広告の採用を禁止しています。違反すると思い通報し、担当者も対応を約束しました。

拡大謎水さんがPCに残した役所との対話メモをプリントアウトしたもの。職員に「法の抜け穴状態で対処が難しい」と言われたという
 ですが6月に届いた「お答えできることがございません」とのメール以降、連絡は絶えたそうです。

 謎水さんは「行政は、扱い慣れた課題ならきちんと仕事をしてくれるのでしょう。しかし見慣れない新たな課題が現れると固まり、無視する、と痛感しています。こんな一般市民の被害が出そうなことこそ、きちんと検証して欲しいです」と語ります。

実は対応可能な消費者行政

 マンション問題は確かに難しそうです。

 個人が日常生活で買ったものに疑問を感じた時、相談に乗ってくれる役所は都道府県など自治体が運営する消費生活センターです。時に業者と消費者の間に立ち、解決への仲介もしてくれます。

 ただ、設置根拠となる消費者安全法では「消費者」は「個人」です。消費者庁の担当者は「マンション管理組合は消費者にはならないと解釈しています」とし、消費生活センターの救済対象ではないとの認識でした。

 一方で、ウソの広告をした業者に対し、消費者に製品を「良いものと誤認させた」として行政が是正を命じる「優良誤認」。これも消費者のための法律、景品表示法に定められています。

 消費者庁に聞くと、「実際の当事者がマンション管理組合でも、一般消費者も購入する可能性のある商品やサービスなら、優良誤認の適用はできます」と言いました。

 そう。役所も実は動けるのです。謎水さんも消費者庁サイトから報告しました。ですが、1年経ってもまったく手応えはありません。

 景表法は、個別の被害の救済を目的とせず、業者を是正する法律なので、役所も報告者に対応状況を報告しないことになっています。消費生活センターも助けてくれないマンション住民には無情な話に思えますが。

国民・市民の不安に本気で答える体制を

 他に手段はないでしょうか? 2007年、北海道の食肉加工卸業者、ミートホープ社が、豚の挽き肉を「牛ミンチ」として販売していたことが発覚し、社長に不正競争防止法違反(虚偽表示)で有罪判決が出た事件がありました。

 では、NMRパイプテクターは?

 経産省の担当者は「効果の有無というのは難しいと思います。例えば牛100%とうたっていたのに違う、のように明らかに違うと示せる話なら別ですが」と言いました。

 ただミートホープ事件も、社の幹部が内部告発しようと役所をいくつも訪ねたのに門前払いされたことが知られています。表沙汰になったのは、この幹部からの情報提供を基に朝日新聞が取材し、報道したためです。

 つまり、警察も含めた行政は、ことが公になるまで事実関係をジャッジしようとしませんでした。

 NMRパイプテクターをめぐる状況にも、私は似た雰囲気を感じます。

 繰り返しますが、装置のユーザーは企業曰く、マンションなど国内外4100棟以上で、ODAで国外の公共水道にも取り付けられている。効果がなければ、影響は甚大です。

 行政に国民市民を守る気概があるのなら、効果の有無をジャッジして然るべきではないでしょうか。仮に法的に無理なら、新法を作ればいい。

 結果が「効果あり」なら、それも素晴らしいです。企業は不当な批判から解放され、「世界で唯一」の技術をより広げられるでしょう。

 なにより、学識経験者の実名による問題指摘が相次ぎ、その道の専門学会も効果を否定する装置になのに、天下の往来である地下鉄で何事もなかったかのように広告されている。そこに公的なジャッジが下らないのは、異常としか思えません。

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筆者

長野剛

長野剛(ながの・つよし) 朝日新聞記者

1997年入社。対話、リテラシー、サステナビリティに関心。2018年春から、朝日新聞フォーラム面を中心に執筆中。2010年、民間療法「ホメオパシー」を巡る一連の検証報道。2007年、アジアの水産事情を巡る連載「水産乱世」。その他、原子力、災害報道等。

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