長野剛(ながの・つよし) 朝日新聞記者
1997年入社。対話、リテラシー、サステナビリティに関心。2018年春から、朝日新聞フォーラム面を中心に執筆中。2010年、民間療法「ホメオパシー」を巡る一連の検証報道。2007年、アジアの水産事情を巡る連載「水産乱世」。その他、原子力、災害報道等。
ネット注目の#謎水装置 開発者を直撃
熊野さんが顧客からの「クレームはない」というNMRパイプテクターですが、「質問状を何度も出した」と言う人はいます。東京都内の大型分譲団地在住の60代男性は2004年、団地管理組合の建築委員(当時)として、NMRパイプテクター設置に立ち会いました。
取り付け位置は、計32棟の団地全体に水を送るポンプのすぐ下流。全棟の水道管の最上流部です。設置は男性の着任前に決まっていましたが、電気も使わずに「マイクロ波」が出るとの説明に、疑問を感じました。
特許を見ても納得できず、日本システム企画に何度も質問状を送りましたが、納得いく回答はなし。電話しても、いつも社長は「留守」だったそうです。
団地では立て替えが課題に上がり、管理組合は14年、施設老朽化のレポートを出しました。そこに載った給水管の内部の写真はさびて真っ赤でした。男性の部屋では今も、さびが混じった赤い水が出ます。「やっぱり、と思いました。最初から最後まで、NMRパイプテクターはおかしかった」
このさびた水道管の写真は15年、この60代男性と共に団地立て替えに反対していた男性がブログに掲載し、NMRパイプテクターは「殆ど効果が出ていない事は明白」などと記していました。ところが今夏、突然そのページが削除されます。
小波秀雄さんが「理科の探検」に書いた記事も、「理科の探検」のサイトで公開されていましたが8月末に入り、削除(現在は復活)。そして、日本技術士会千葉県支部のサイトにあった「見解」も消えました。
日本システム企画のサイトを見ると、団地住民のブログも理科の探検の記事も、内容が「誹謗中傷」とされて、「東京地方裁判所の仮処分」で「削除」された、と説明があります。 まるで東京地裁が批判を「誹謗中傷」と認めたように読めます。
実際は? 社長の熊野さんに詳しく聞くと、以下の通りでした。
ブログも記事も自社への「誹謗中傷」だとして、熊野さんたちは各サイトのプロバイダを相手取り、東京地裁に記事削除の仮処分を申し立て。地裁はプロバイダに申し立ての事実を連絡。プロバイダが記事を削除したので、熊野さんたちは申し立てを取り下げた、と。
つまり、申し立ては取り下げられたので、東京地裁は判断していません。
では、自社サイトにある「誹謗中傷と認定」したという文章の主語は、誰ですか?
「私です」と熊野さん。再度確認すると、裁判所の意向について「弁護士から報告を受けている」とも語りました。
しかし、記事やブログが事実に反し、誹謗中傷というのなら、書いた人を相手取って提訴しても良さそうなもの。裁判を通じ、NMRパイプテクターの効果についても公的なジャッジが期待できそうです。
なぜ訴えないのでしょう? 熊野さんは「損害賠償(を求める訴訟を)しないとは言っていない。それはいろいろ順番がある」と話します。どんな順番かを聞くと「言う必要はない」と言いました。
長年NMRパイプテクターを批判している山形大准教授、天羽優子さんは最近、自身のサイトに、20年近くなるのに「直接訴えるということをちっともしてこない会社である」と書いています。効果が司法の場で判断される日はまだ、遠そうです。
全ジャンルパックなら13546本の記事が読み放題。
論座ではこんな記事も人気です。もう読みましたか?