パンドラズ・アクターはここ数日アイテムの作成に没頭していた。アイテムボックスが一杯になるほどの素材があり整理が追い付いていない。であればと、それを加工するとともにそれを商品として販売することにより商人としての名声を得ることにしたのだ。
冒険者としての名声は冒険者ナーベとして得ればよい。そこに商人としての名声を得ればそこに集まる情報はさらに増えるだろう。
そこで選んだ次の外装として採用したのはプレアデスの一人、次女のルプスレギナ・ベータだ。その種族は
商人としてのコネを手に入れれば
「ルプー……魔道具店?」
ナーベかと思い声をかけた相手がまったく知らない女性でありペテルが困惑している。
「そうっすよ?良かったら見ていってくださいっす」
シートの上には所狭しと商品が並んでいる。しかし、それはどう見ても初級冒険者が扱うような見た目の汎用品の武具やアイテムにしか見えなかった。
レザー製の防具、木を削って作ったと思われる木刀や弓、動物の骨や牙から作ったと思われるネックレスなどのアクセサリー類。どれもそのあたりの道具屋で安価で売っていそうなものばかりだ。実際値札の値も道具屋で売られてるそれらとそう変わらない。
「なんだ人違いかよ……。かわいい売り子だと思ったけどこりゃ俺みたいなミスリル級の冒険者にはこりゃ必要ねえな。銅のプレート持ちにでも声かけたほうがいいと思うぜ、姉ちゃん。じゃ、俺は帰るわ」
そう言ってイグヴァルジは背を向けて帰っていった。それと同様に売り子の見た目にひかれて集まってきた客たちも商品を見ては帰って行く。
ペテルたちも顔を見合わせると、これ以上いても仕方ないとその場を後にしようとするとルプーと名乗った美女は商品を手に近くに寄ってきた。
「まぁまぁお客さん。サービスしとくっすよー?」
間近に迫る天真爛漫な笑顔についペテルは顔を赤らめてしまう。ナーベはどこか抜けているところはあるが清楚な美しさがあった。しかし、目の前の美女は情熱に溢れて、その見上げて来る悪戯っぽい目が逆に魅力的だ。さらにメイド服として胸の部分が強調されており目が奪われて仕方がない。
「ぷぷぷっ!サービスっていってもそっちのサービスじゃないっすよ。何考えてるんすかー、このスケベ」
「そ、そんなことは考えていないですよ!!」
嘘である。本当はペテルは考えていた。それはもう人には言えないようなあんなことやこんなことをである。
「まぁいいっす。じゃあお試し期間ってことを商品は差し上げるっすから使ってみて宣伝してほしいっすよ」
ルプーは言うが早いか商品を袋に詰めてペテルに無理やり渡してきた。
「いや、これは……」
「じゃ、よろしくっすー!」
銀級冒険者たる者が反応どころか反論する間もない見事な押し付けっぷりである。その手際の良さに笑いつつペテル受け取ることにする。
「では……いただいておきます」
「はい、またのお越しを待ってるっすよ」
軍帽の下からウィンクを送ってくるお茶目なメイドにペテルはまたも顔を赤らめてしまうのだった。
♦
「うっわ……なんだよこれ」
トブの大森林近郊の草原。そこでルクルットは驚きの声を上げていた。
ルプー魔道具店でもらった商品。それを最近の戦闘続きであったため消耗していた今までの装備の代わりにと使ってはみたのだがその効果は絶大であった。
「矢がゴブリンを3体も貫通するとかどういうことだよ。っていうかなんかこの弓持ってると力が湧いてくるし……」
「この木刀もただの木刀じゃない。今までの剣よりよっぽど切れるぞ」
ペテルの持っているのは木刀であるにも関わらずまるで刃でもあるように敵を切り裂いている。しかもルクルットが言っていたように持っているだけで力が湧いてくる感覚さえある。
「このレザーアーマーもすごいのである……刃物をはじくとは……」
今までと違いナーベのいない戦闘。さらに今回は敵の数が多く、一部のゴブリンが前衛を突破してきた。そこで不覚を取り斬られたと思ったダインだが、ゴブリンの斬撃は鎧にはじき返される。さらに皮製にも関わらずその鎧には傷一つついていない。
「この杖も……それに何だか詠唱も早くなったような……」
魔法詠唱者のニニャの攻撃に至っては明らかに魔法効果が上がり、詠唱時間まで短縮されていた。
それもそのはずである。それらの装備は素材としてありふれたものを使用しているが、それを作ったのは100レベルの生産系プレイヤーである至高の41人の外装をコピーしたパンドラズ・アクターである。
最低品質の素材でも最高の職人が加工し魔化を行ったことにより特殊効果が複数発現したのだ。
弓については威力向上、命中精度向上、体力自動回復、俊敏性向上、敵感知力上昇、隠密行動付与等様々な効果が付与されている。言うなれば木の弓+10といったところだ。職人としてのレベルが高いほどその発現率とその発現効果は上がるため見た目の割にはとんでもない性能を有している。
「これは一度使ってみてくれって言われたのも分かるな……見た目に騙されたよ」
ペテルは自信満々に武具を渡してきたルプーを思い出す。そしてその軍帽の下からウィンクした茶目っけたっぷりの笑顔も。
「こりゃ帰ったら他の冒険者に宣伝しておかなきゃ罰が当たるな……」
エ・ランテルの街に現れた軍帽をかぶった売り子のメイド。その扱っている商品はありふれたもののように見えてその価値は漆黒の剣のメンバーが身をもって感じている通りだ。
ペテルは脳裏にルプーの笑顔を思い浮かべつつ、魔物狩りに勤しむのだった。
♦
───数週間後
「ルプーちゃん!これください!」
「毎度っす!レザーシールドっすね」
「このネックレスの効果はなんですか!?ルプーさん!」
「それは魔法防御力と炎や氷系の攻撃を防ぐ効果があるっすよ」
「ください!」
「まいどっすー」
漆黒の剣による宣伝、さらに買っていった客からの口コミもありルプー魔道具店の商品は置いた先から売れていった。
美人で愛想の良いメイドが売り子をしており、さらにその圧倒的な性能の割に値段が安いとくれば売れないほうがおかしい。
ルプーとしては素材の仕入れはアイテムボックスの不要在庫からであり、原価はほぼ0。特に値段に対する不満はない。むしろコネクションを増やすには薄利多売のほうが望ましいだろう。
作れば作っただけ売れるのでむしろ素材の有効活用できていると感じて楽しくさえあるくらいだ。
「いらっしゃいませー。ルプー魔道具店開店中っすよー」
エ・ランテルの中央広場に笑顔と明るい声が響き渡る。今ではもはや名物となってきており彼女の笑顔を見るためだけにそこへ訪れるものさえいるくらいだ。
そしてそんな彼女に近づく壮年の男が一人。冒険者が中心の客層の中でその整った立派な服装はどう考えても商品の購買層には見えない。
「失礼。私はロフーレ商会の代表、バルド・ロフーレと申しますが少しお話をよろしいですかな?」