ドラマ『トリック』堤幸彦監督 「AbemaTVで驚く若い人も多いでしょう」 独占インタビュー前編

 2000年7月にテレビ朝日系金曜ナイトドラマ枠でスタートするやカルト的な人気を誇り、続編、そして劇場版、ゴールデンタイム進出……などなど、14年もの長きにわたり愛され続けてきた『トリック』シリーズが、AbemaTV(アベマTV)のドラマチャンネルで放送中だ。6月17日(土)には記念すべきシリーズ第1弾『トリック』、6月24日(土)に『トリック2』(2002年)が一挙放送され、いよいよ7月1日(土)には『トリック3』(2003年)が放送される。


 本作は、自称・超売れっ子実力派マジシャンの山田奈緒子(仲間由紀恵)と日本科学技術大学教授で天才物理学者の上田次郎(阿部寛)のコンビが、超常現象や奇怪な事件の裏側に隠されたトリックの謎を解明していくミステリードラマだ。

 奈緒子と上田の凸凹な関係、濃い(すぎる?)キャラクター、繰り出されるギャグの数々……。放送当時、視聴者に衝撃を持って迎えられたばかりか、後のドラマにも多大なる影響を与えた。


 そんなどこか珍妙でありながらエッジの立った“トリックワールド”を作り出したのは、ご存じ堤幸彦監督。シリーズ終了から3年。テレビシリーズの一挙放送を記念して、改めて『トリック』の魅力を聞いてみた。


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——シリーズ最終作となった映画『トリック劇場版 ラストステージ』(2014年)から3年。堤監督にとって『トリック』とはどんなドラマでしたか?

(インタビューに応える堤幸彦監督)

堤:日テレ(日本テレビ)さんの土曜9時枠(※1)で、自分なりにドラマを作る上でのいろいろな実験をすることができました。そこで(『トリック』シリーズで脚本を担当した)蒔田光治さんと出会い。続いてTBSさんの『ケイゾク』(1999年)や『池袋ウエストパーク』(2000年)では、ダークな世界観の推理劇に挑戦させてもらって。で、満を持して……と言いますか(笑)。そのどっちでもなく、さらには当時のテレビの王道とはちょっと外れたドラマをやらせてもらったのが『トリック』で。そういう意味で、私にとってはひとつの集大成、記念碑的シリーズと言えます。


“どっちでもない”というのは、僕はずっと、とんねるずのコントを撮っていたので(※2)、そういう笑いの部分と横溝正史的な、至極、日本的な世界観の推理劇が融合したようなドラマですね。とはいえ、「やりたい」と言っても、なかなかその手のドラマをやらせてくれない時代でしたから、テレ朝(テレビ朝日)さんの大英断には本当に感謝したいです。



■ 『トリック』の方向性は「仲間由紀恵さんの受け答えで全部決まった」

——仲間さん、阿部さんの第一印象は?


堤:仲間さんと最初にお会いしたときの会話の受け答えで『トリック』の方向性が全部、決まりました。『エリアコードドラマ』という地方発ドラマシリーズの、沖縄制作ドラマ(※3)で仲間さんは女優デビューされて。私は名古屋発のドラマを演出したんですけど、当時プロデューサーの笠井(一二)さんという方が「すごいコを見つけた!」と絶賛していて。その女優さんが仲間由紀恵さんだったんです。で、とにかく初めてお会いした時から彼女のレスポンスがいいから、きっとコメディもできるなと。であれば、とんでもないコメディにしようと。浮かんだイメージで言うと、ケラさんが主宰する『劇団ナイロン100℃』とか、『モンティ・パイソン』、『サタデー・ナイト・ライブ』……それは、取りも直さず、とんねるずの番組で秋元康さんとやっていたコント。時事問題やパロディなんかを取り入れた、そんなコメディがやりたかった。

まず、いろいろな村の名前を考えるところから始まり、実際にある商品名や個人名もずいぶんイジりましたから、テレビ朝日さんにはご迷惑をおかけしましたが(笑)。毎回楽しかったな~。蒔田さんが横溝的な世界がお好きで、肝心な部分、推理部分のトリックもしっかりしていたから、私は思い切り遊ぶことができたんですけど。


——阿部さんはいかがでしたか?


堤:阿部さんにはそれからほどなくしてお会いしまして。聞けば最初は、『ケイゾク』で渡部篤郎さんが演じた真山のようなダークでシャープな役を望んでいらっしゃったそうで。真面目な顔で「監督はどんなお考えですか?」と聞かれたので、「え~っと……(阿部さんが演じる役は)巨根です!」って(笑)。そうしたら大笑いして、受け入れてくださって。プライドが高く、知らないと言えないから、ひたすらウソをついてその場をしのいでいく。まあ、これは完全に私がインテリに対して持っている、ゆがんだイメージなんですが(笑)、そんな上田のキャラクターが出来上がっていった。そこに先ほどの仲間さんが鋭いツッコミを入れる。


阿部さんご自身も非常に魅力的な方で、『トリック』の第1話「母之泉」のロケからして阿部さんの面白さが爆発したんですよ。それこそ真横に稲妻が走るくらいの嵐に見舞われまして。どうしようもないからって仲間さんと阿部さんとスタッフでカラオケ大会になったんですけど、姿が見えないなと思ったらボディペインティングを施して、わざわざネタを仕込んで現われた(笑)。なんてサービス精神の旺盛な方だと。何事も全力投球なんですね。真面目であるがゆえに面白い。そこから上田のキャラクターの幅が広がっていきましたね。


——主人公コンビが“貧乳”と“巨根”という設定からしてチャレンジングなドラマでした。

堤:(笑)。こんなこと言うと怒られるけど、深夜枠のドラマということもあって、まず浮かんだのが「貧乳と巨根」という、とんでもないコンセプトだったんです。お二人とも誰が見ても美男美女なんですが、だからこそ何かしらのコンプレックスがあるハズだと。で、実際にお会いして、仲間さんの話のテンポや口調から、この方はツッコミが上手い、コメディができる女優さんだなあとか。阿部さんも生真面目がゆえの面白さがある方だなあとか。そこから山田奈緒子と上田次郎というキャラクターがだんだん……すべて私の妄想でしかないんですが(笑)。そんな、ある種の“当て書き(=俳優の個性に合わせて登場人物を描くこと)”から始まり。仲間さんや阿部さんが、台本を超えてパワーアップしてくのと同時に『トリック』も大きくなっていった。今振り返ると、役者さんの成長とリンクしていたドラマだったんじゃないかと思います。


——ほかにも矢部謙三役の生瀬勝久さんや個性的なゲストの数々。役者として日本を代表するバイプレーヤーの方々が出演されています。


堤:日本の、極めて面白い役者さんに支えられたドラマでした。先日、お亡くなりになった(奈緒子の母親・里見役の)野際陽子さんに「堤組は大声が出せるから発散できるのよ」とおっしゃっていただいて、非常にうれしかったことを思い出しますが、みなさんこぞってやりたがる、出たがるドラマに成長していったことで、14年という長寿シリーズになったと思います。


■ AbemaTVの放送クレジットに「驚く若い人も多いのでは」


——矢部の3代目の相棒・秋葉原人役を演じた池田鉄洋さんほか、いわゆる劇団系の知る人ぞ知る役者さんの登竜門的存在でもあったと思うのですが、どうやって見つけてくるのですか?


堤:その人目的ではないんですけど、どなたかの舞台を観に行って、端っこの方でも目立つ、面白い役者さんがいたら声を掛けさせてもらう感じで。その後、衣装合わせとかで顔を見ているうちに、ふと“降りてくる”んです、役のイメージが。例えば、すでに有名な役者さんでしたけど、藤木直人さんなんかは(2010年公開の映画『劇場版トリック 霊能力者バトルロイヤル』)、「フランシスコ・ザビエル」という単語が浮かんできて、ああいう首元にヒラヒラの付いた衣装に。そう聞いてご本人は「えっ!?」という顔をされていましたけど(笑)、同じく『霊能力者バトルロイヤル』に出ていただいた松平健さんとか。『あの役者さんが?!』というような大御所の役者さんに、いろいろなことをやっていただたり。みなさんには本当に感謝したいです。

——役のイメージにしても『トリック』名物のギャグにしても、現場での思い付きが多いんですか?


堤:基本、アドリブばかりでしたね。それこそ深夜枠だった初期の『トリック』、『トリック2』なんかは失礼にもカット割という(※4)、ディレクターがいちばんやんなきゃいけない準備があるんですけど、それすらやってなかった(笑)。今でこそ2時間前に現場に入りますが、当時は朝9時にリハーサルが始まるのであれば9時に行くような不良監督で。だから、それに対応できるスタッフを集めて、彼らに支えられてきたんです。木村ひさしを筆頭に、大根仁、鬼頭理三など、私のその場の思い付きに柔軟に対応できる演出チームが常に、その場にいた。私がよくやるやり方なんですが、現場で「はい次、シロミ」(※5)と言うと即、対応できる優秀なスタッフに恵まれました。


——『トリック』から羽ばたいた役者さんも多いですが、巣立ったスタッフ陣も豪華です。


堤:木村ひさしに至ってはスター化していますからね。大根も。Twitterを見ていると「堤って、『トリック』の監督だったんだ!?」みたいな反応もありますし(笑)。今回「AbemaTV」の放送でクレジットを見て、「あの木村さんが、大根さんが!」と驚く若い人も多いんじゃないでしょうか。

スタッフとしては、美術の稲垣尚夫さんとか。看板など『トリック』に出てくるほとんどの文字は稲垣さんによるものですが、そのアイデアとご尽力には大いに助けられました。この14年で稲垣さんを使い果たすくらいお世話になりましたね(笑)。


(後編に続く/6月30日公開)

(インタビュー・テキスト:橋本達典)

(撮影:野原誠治)

(編集:AbemaTIMES編集部)


※1:『金田一少年の事件簿』シリーズや『サイコメトラーEIJI』(1995・96年、97年)を演出。

※2:日本テレビ系で放送された『コラーッ!とんねるず 』(1985年)では「千本近くコントを撮った」(堤監督談)そう。 

※3:1994年、フジテレビ系で放送(沖縄テレビ制作)『青い夏』。仲間さんはこの作品のオーディションでグランプリを獲得し、デビュー。

※4:台本上で演出意図に合わせて区切りをつけ、画柄を決めること。

※5:VTRを回しっぱなしにしたまま次のカットにいく手法。役者の集中力が途切れない、時間を短縮できるなどのメリットがある。


【プロフィール】

▶︎ 堤幸彦 

1955年生まれ。愛知県出身。法政大学を中退後、東放学園専門学校へ入学。卒業後はバラエティ番組のディレクターやミュージックビデオの監督を経て、1988年に『バカヤロー! 私、怒ってます』で映画初監督。ドラマ『金田一少年の事件簿』シリーズで注目され、以降も『ケイゾク』、『池袋ウエストゲートパーク』、『トリック』シリーズ、『世界の中心で、愛をさけぶ』、『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』シリーズなどのヒット作を手掛ける。映画監督作は『溺れる魚』、『明日の記憶』、『包帯クラブ』、『20世紀少年』3部作、『BECK』、『悼む人』、『天空の蜂』など多数。


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