ネイア・バラハの聖地巡礼!   作:セパ

14 / 14
バハルス帝国 ラスト

 時刻は夕刻。場所はリ・エスティーゼ王国とエ・ランテルを結ぶ草原。アダマンタイト級冒険者チーム蒼の薔薇の面々は、〝漆黒の英雄〟モモンの依頼によってローブル聖王国からの客人【凶眼の伝道師】ネイア・バラハの護衛を引き受けた。だが蒼の薔薇5名は、その草原で苛烈な戦闘を繰り広げていた。

 

「武技、《超級連続攻撃》!」

 

「超技!暗黒刃超弩級衝撃波(ダークブレードメガインパクト)!」

 

 ガガーランとラキュースが戦うのは、おおよそ三メートルまで人骨が集合した骨の竜(スケリトル・ドラゴン)。二人の力をもってすれば、5体や6体ならばなんとか倒せるだろう。だがその数は20を越え、容赦無く四方より襲い掛かる。

 

龍雷(ドラゴン・ライトニング)!!……ッ!水晶防壁(クリスタル・ウォール)!!」

 

 イビルアイは水晶防壁(クリスタル・ウォール)によって、ガガーランとラキュースを骨の竜(スケリトル・ドラゴン)から護る。魔法攻撃の一切を無効化する魔法詠唱者(マジック・キャスター)殺しの竜であるが、魔法によって産み出された副産物である壁まで無効化は出来ない。イビルアイが相手にしているのは、首と手のない四翼の天使。

 

「おいおい。まさか俺達は嵌められたんじゃねぇだろうな!」

 

「モモン様がそのような真似をするはずがないだろう!それにわたしたちだけを狙うならば道中にいくらでも不意打ちの好機はあったはずだ。」

 

「冗談だよ!待ち合わせ場所に行ったらモモン様でなく、天使様とアンデッドが姿も隠さず仲良くお出迎えだとは、こりゃ質の悪い試験か?」

 

「冗談でも許せるか!戦力を見てみろ、物理斬撃攻撃の効果が期待出来ない第五位階魔法を使う力天使に、魔法の無効化をする骨の竜(スケリトル・ドラゴン)だ。モモン様とナーベの二人を見据えた戦力としか思えん!!」

 

「忍術……闇渡り。……事前に発見したんだから、逃げることも出来たのに。」

 

「……戦闘狂だらけで困る。」

 

 5名と力天使、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)が拮抗した戦闘をしていると、突如夕闇は暗雲へ変化し、雷鳴轟く嵐となった。

 

「おいおい、今度は何だってんだ!」

 

 直後、龍の形をした雷撃が20の骨の竜(スケリトル・ドラゴン)、そして力天使を焼き尽くし、塵も残さぬ灰燼へと変えた。

 

骨の竜(スケリトル・ドラゴン)が……魔法で死ぬ!?おい、イビルアイ、どういうことだ。」

 

 だが何処か呆然と天を仰ぐ小さな仮面の少女は身動きもしない。ガガーランが怪訝そうに天を見つめると、青白い鱗を持つ細長い龍に跨った漆黒の騎士が見えた。そして数秒の内に草原へ降り立ち、不可思議な左右尖端に玉の拵えた紐付き太鼓の棒を持つナーベも同時に降り立った。

 

「無事なようで何よりです。……始めに、深い謝罪をさせてください。」

 

 モモンは片膝を立て、蒼の薔薇一同に深く深く顔を下げた。

 

「モモン様!お顔を上げて下さい!我々は不意打ちをされた訳ではありません。自分たちの意思で戦いを挑んだまでです!」

 

 ラキュースがフォローするも、モモンは断固として顔を上げない。依頼人を危険な目に遭わせたという今生の恥を悔いている様子がひしひしと伝わる。勿論蒼の薔薇面々としても、普段の相手ならば皮肉のひとつも言って帰るところだが……目の前の英雄は、冒険者チーム蒼の薔薇にとって命の恩人なのだ。

 

 彼がいなければ、リ・エスティーゼ王国においてイビルアイはヤルダバオトに敗れ、戦士ガガーランと忍者ティアもとても蘇生できる原形を留めて居なかっただろう。そして、今もまた、強大で不可思議な力をもってして蒼の薔薇は助けられた。このままでは埒が明かないと判断したラキュースは、話題を変える。

 

「それよりも……その龍は、霜の竜(フロスト・ドラゴン)ですか!?」

 

「はい、魔導国で使役している竜の一体です。」

 

霜の竜(フロスト・ドラゴン)を使役!?」

 

「ええ、わたしは立場上魔導国全ての事は知りませんが、複数所持している竜の一体に過ぎません。」

 

「モモン様!力天使共々、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を魔法攻撃で一掃したように見えましたが、もしや……第七位階以上の魔法を!?」

 

 興奮醒めやらぬ様子なのはイビルアイだ。-イビルアイは蒼の薔薇面々に、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)が無効化出来る魔法は第六位階までと説明をした。-

 

「はい、第七位階魔法連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)を用いさせて頂きました。それはこのナーベが持っている……、〝ドラゴンに騎乗中のみ、第六位階魔法天候操作(コントロール・ウェザー)及び第七位階魔法連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)を扱える〟というマジック・アイテムのお陰です。」

 

「ドラゴンに乗ってる間だけ有効って、そんな限定的なマジック・アイテムがこの世に……。魔導王-陛下のものですか?」

 

「その通りです。自らの剣でなく、このようなマジック・アイテムに頼ってしまうのは不本意でしたが、おかげで皆様の無事を確保出来安心致しました。……ナーベ。」

 

「はい、モモンさん。」

 

 ナーベは鞄から、高価で大きな革袋一杯に詰まった金貨をモモンへ差し出した。そしてモモンはその革袋を蒼の薔薇リーダー、ラキュースに差し出す。

 

「こちらは慰謝料としてお受け取り下さい。そして……先程の皆様と同じ様に、我々も竜の背中で天使と悪魔・アンデッドという奇々怪々な面々に襲われました。相手はかなりの強敵です。一人の少女護衛のため、皆様の命を危険に晒す真似は出来ない。この度はご迷惑をお掛け致しました。」

 

「……ネイア・バラハはまだ生きているのですか?」

 

「はい、現在はバハルス帝国の宮廷にいるとのこと。王城は帝国騎士や魔導王陛下直轄のデスナイトたちに護られているとのことですが、襲撃の報告はありません。」

 

「つまり……相手は首都エ・ランテルにおいての抹殺を企てていると推測出来ますね。目的は……首都の防衛機能に懐疑心を抱かせることでしょうか?そして、少女1人を護れなかったモモン様の名声を地に落とし、魔導国を混乱に陥れる目的も垣間見えます。」

 

「……恐らくはそうでしょう。わたしを、そして皆様を狙った理由から辿ると、わたしも同じように考えられます。」

 

「この襲撃は本当にネイア・バラハを殺す勢力ではなく、わたし達とモモン様を仲違いさせる目的があるのではないかと……。つまり、わたしたちの力、暗殺を未然に防ぐ能力を恐れての行動と思えられます。」

 

「……鬼リーダー、つまり?」

 

「相手の本命はあくまでも暗殺。モモン様が黄金の輝き亭で話された、爆殺・毒殺・狙撃を企てている可能性が高い。モモン様を傷付けることは容易ではないですが、横にいるただの人間を抹殺することはそこまで難しくないということでしょう。」

 

「……仰る通りです。」

 

「モモン様、その金貨はまだ受け取れません。もしモモン様の名声が地に落ち、魔導国が混乱に陥れば、薄氷の上にいるリ・エスティーゼ王国も瓦解します。」

 

「本当によろしいのですか?」

 

 その問いへの返答は5名の笑顔。死すらも決意した覚悟だった。

 

「本当に、感謝申し上げます!」

 

「ありがとうございます。」

 

 モモンとナーベは同時に頭を下げた。

 

「なぁに、俺は相手の掌で踊るのが癪なだけだ!」

 

「そうです、わたし達も協力します!か、勘違いしないでほしいのは!わたしはネイア・バラハという女を護るためではなく!その、あの、モモン様のお名前に傷が付かない為に協力したいの……です……。」

 

「……命の恩人には命で報いるべき。」

 

「……わたしは命を懸ける仲間を信じる。」

 

 モモンは改めて深い一礼をして、ジャラりと幾つものペンダントを取り出した。

 

霜の竜(フロスト・ドラゴン)に騎乗してバハルス帝国宮廷の中庭でネイア・バラハ及び、メイド悪魔シズ・デルタと合流する予定です。念のため飛行(フライ)の魔法を宿したペンダントをおつけ下さい。」

 

 モモンはひとりひとりに、尊重し感謝するよう各々の首へマジック・アイテムを提げていく。そして胸に手を当てて頭から湯気を出していたイビルアイを前にして……。

 

「イビルアイさんは飛行(フライ)の達人でしたね。……では、霜の竜(フロスト・ドラゴン)に騎乗してください。」

 

「「「……。」」」

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「おいこら!引っ張んじゃねぇよイビルアイ!離せ!」

 

 

 ●

 

 

 バハルス帝国宮廷、大食堂。天幕の外には護衛が立ち並び、ジルクニフ、シズ、ネイアのみで行われた晩餐会。前菜・一皿目・メインディッシュ・デザートどれも素晴らしく、食べるのが惜しいほど美しい造形が成された料理であり、一口すればそんな感情は口福に消えさり夢中になってしまう美味だった。

 

(前菜がなんとかこんとかを使った生ハムのなんとかっていう冷製料理で……、一皿目が黒の宝石っていう茸と何とかをベースに使用したパスタとかいう麺料理、スープが……なんて名前だっけ?二皿目に出てきたお肉料理が……鳥なのは覚えているけれど、何とかピアンソースの……ああ!メモが欲しい!)

 

 メイドから早口で告げられた料理の名前はもはや魔法の詠唱であり、貴族作法など全く詳しくないネイアにとってはただ「ビックリするほど凄く美味しかった。」という感想しか出てこない。-シズも「出てくるものが美味しかったからそれでいい。満足。」とむしろ開き直っていた。-。

 

「さて、帝国は朝食は質素だが、このように晩餐には凝る風習があるんだ。お気に召して頂けたかな?」

 

 食後にフレッシュピーチなるみずみずしく爽やかな風味のノンアルコールカクテルを3人で飲みながら、ジルクニフは料理の感想を聞いてきた。

 

「はい!あの……大層なことは言えないのですが、凄く美味しかったです。」

 

「…………おいしかった。」

 

「シズ様とネイア殿にそう言っていただければ何よりだ。」

 

 ジルクニフは二人の感想に他意のない爽やかな笑顔を浮かべる。

 

「特にその……黒の宝石なるキノコの料理には驚かされました!」

 

 宮廷晩餐会に招かれた身としては、凄く頭の悪い子どものような感想だが、貴族でも美食家でもないネイアは気取らず思ったことをそのまま言うしかない。事実キノコという概念を打ち砕く、薫り高く高貴な食感であり、茹でて塩を振って食べるキノコしか知らないネイアからすれば驚くような旨さだった。

 

「おお!そうかい!ネイア殿は実に素晴らしい舌をお持ちだ!実を言うと〝黒い宝石〟はとても稀少な品でね。少し前までは、わたしでさえ滅多に口にすることは出来なかった。何しろ人間には採掘不能なほど地中深くに生殖するキノコで、魔法で感知して探すこともできない。美食を求める高名な冒険者チームが数年に一度やっと持ってこれるほど希有な代物なのさ。……とはいえ、この品は我が大親友からの贈り物でね!きっとリユロも喜んでくれるだろう。」

 

 ネイアの言葉が琴線に触れたのか、ジルクニフは満面の笑みを浮かべ、身を乗り出し饒舌に話し始めた。

 

(皇帝の大親友?……人間には採掘不能なキノコを食卓に提供出来る程贈れるほどってことは。)

 

「あの、ひょっとして、陛下のご友人とは……」

 

 ネイアが抱いたのは忌避感ではない、嬉々として〝黒の宝石〟を語るジルクニフに、帝国皇帝でも、属国指導者でもない一人の人間としての感情を覚えたためだ。

 

「ああ、お察しのようにリユロ……私の真なる友はクアゴア族。亜人だよ。彼もクアゴア族の王であり、現在は魔導王陛下にその身を捧げている同志でもある。国を纏める為政者として幼少期から友人らしい友人など居なかったわたしにとって、初めて出来た大親友だ。リユロと出会えたことについては、魔導王陛下に感謝しかない。」

 

 ジルクニフはローブル聖王国におけるヤルダバオト襲来の一件は聞いている。ひょっとすれば亜人と聞いて激発されるのではないかとも思ったが……それは杞憂のようだった。

 

「やはり!カルネ村でも感じましたが、他種族さえも許容し共存する寛容さ!人間は他種族との共存が可能であるという無限の可能性!そのお考えをジルクニフ陛下もお持ちなのですね!」

 

 ジルクニフの想像と別の意味で激発したネイアを見て、ジルクニフは思わずたじろいでしまう。もともと帝国は亜人に対して寛容な国ではあったが、奴隷の意味合いも強かった。しかし今ではぎこちないながらも融和が進んでいる。

 

 勿論魔導国の属国とならなければ、リユロという真なる友と出会えなければ、ジルクニフも亜人に対して偏見を持ち合わせたままだっただろう。

 

「ああ、そうだね。今まで帝国は亜人に対して誤った知識を持っていたようだ。それはこのわたしも同じことだ。」

 

(エンリ将軍といい、ジルクニフ皇帝といい、やはりアインズ様……魔導王陛下は為政者たる人を見る確かな目をお持ちなんだ!)

 

「失礼します!!」

 

 ノックをした衛兵が返事を待たずに大食堂へ飛び込んできた。

 

「どうした、騒々しいぞ。」

 

「王城の中庭に、またドラゴンが!今度は青い鱗を持つドラゴンです!!」

 

「ど、ドラゴン!?」

 

 ネイアは顔を真っ青にするが、ジルクニフは全く気にせず動じない。デスナイトが動いていないということは、おそらく魔導国からの使者だろう。……とはいえ、中庭に現れたドラゴンに良い思い出が無いので、衛兵が騒ぎたくなる気持ちも解るが。

 

「そうか……。シズ様、ネイア殿。名残惜しいが、どうやら魔導国の首都エ・ランテルよりお迎えの方がいらしたようです。まだバハルス帝国の魅力の全てをお見せ出来なかったことは非情に残念ですが、またの機会に是非お越し下さい。」

 

 ジルクニフは2人に手を差し伸べ、シズもネイアもその手を取り合った。


 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。