17年前の卒業式のようす
私、福岡にある九州大学の出身です。
九大を選んだおかげで福岡を知り、東京に就職したものの独立するにあたり大好きな福岡に戻ってきたという経緯。
不真面目な学生ではありましたが、今でも九大に行ってよかったと思っています。
なぜ突然こんなことを言い出したかというと、その母校である九大のことをネットニュースで見かけたから。
「九州大の起業部、スタートアップ11社創業」という威勢のいい話題で、11社って多すぎやろと思いつつそれぞれ志す事業で起業し福岡を盛り上げてくれるならいいことだな、と思っていたんですが。。。
上記記事に記載されている新規設立法人11社と、そのホームページを見て呆然としました。
すべて「インターネットメディア事業」、同じWordPressテーマ使用、そして内容がすべて一時期流行った低品質キュレーションサイト。
以下に引用しますが、きっと途中で目眩がしてくるでしょうね。。
1. C.U.E.株式会社 / 代表:成重椋太 / インターネットメディア事業( 英会話・留学)
2. メルシオン株式会社 / 代表:尾木竜司 / インターネットメディア事業(葬儀・墓・終活)
3. 株式会社nearprog / 代表:松尾信之介 / インターネットメディア事業(プログラミング)
4. dear株式会社/ 代表: 池本彪流 / インターネットメディア事業( 交通事故)
5. 株式会社Ongame / 代表:赤瀬太郎 / インターネットメディア事業( 占い)
6. re.PORT株式会社 / 代表:池上慶悟 / インターネットメディア事業(債務整理)
7 .株式会社おおすな / 代表:桐原徹真 / インターネットメディア事業( 保険・金融・法律)
8. 株式会社zer0 / 代表:梶原悠矢 / インターネットメディア事業( 探偵・人探し)
9 .株式会社Snow Drop / 代表:宮坂安惟良 / インターネットメディア事業( 結婚・婚活)
10. 株式会社Qupress / 代表:小島涼 / インターネットメディア事業(資格)
11. 株式会社Poirier / 代表: 中田蓮 / インターネットメディア事業( プログラミング)
九大起業部・ポート株式会社と九大起業部メディアラボ共同設立。同時に11社起業し、アクセラレーションプログラム開始|【西日本新聞ニュース】
起業を志す(?)母校の学生が、よくわからない大人にスタートアップとは名ばかりの低品質キュレーションライターとして買い叩かれている……。
Facebookの「友だち」や「友だちの友だち」くらいまで入れれば関係者全員入るくらいの微妙な位置にいるので波風立てるだけ損なのですが、あまりにも酷くて一言言わずにはいられなくなってしまいました。
この記事では、この「九州大の起業部、スタートアップ11社創業」というニュースについて私が気になったことを挙げていきます。
目次
① 人に言われたことをマニュアル通りにやるのが起業?
今回起業したという11社の(自称)インターネットメディアを見に行ってみたところ、以下の共通した特徴がありました。
- 全てWordPress、テーマは私も使っている「SANGO」
- アイキャッチ画像はなしorフリー画像、タイトル・内容は一昔前に流行った低品質キュレーションサイト
- 記事内にも画像ほぼなし。
文章は多少表現を変えれば指摘が入るリスクは低いがネットの画像パクリはリスクがある、という指導が行われていると思われる
(SANGOの公式ページ ⇒ SANGO | 心地良さを追求したWordPressテーマ)
WordPress云々を知らなくても、色が違うだけでデザインも記事タイトルもそっくりなので誰でもすぐにわかるかと思います。
まさか11人全員がたまたまインターネットメディアをやりたくて、その内容が自分で経験したでもないネットの情報を集めてこねくり回しただけの低品質キュレーションで、SANGOテーマを使ったWordPressブログで似たような記事構成を考えていた……なんてことはまずあり得ない。
支援しているというポート株式会社のマニュアルあるいは指導に従って、その通りにやった結果でほぼ間違いないでしょう。
一介の学生が保険や探偵、債務、交通事故、さらには終活なんかにそれほど詳しいとも思えないので、トピックすら指定されたのかもしれません。
今回、11社起業した学生ベンチャーに対し、当プログラムを適用し、同社がこれまでのインターネットメディア運営で蓄積してきたノウハウを提供し、同社のインターネットメディア開発を担当するチームが、ハンズオンで開発・運営を支援いたします。
九大起業部・ポート株式会社と九大起業部メディアラボ共同設立。同時に11社起業し、アクセラレーションプログラム開始|【西日本新聞ニュース】
11人の学生社長は、何の疑問も持たず(あるいは持っていても何とか自分を納得させて)ポート社に言われるがままマニュアル通り忠実に実行したってことですよね。
その性質、起業家よりもむしろ会社員の方がはるかに向いていると思うんですが、どうなんでしょうか。
やっていることはスタートアップの社長というよりも、ただのお抱えキュレーションライターにすぎない気がします。
起業部と言うからには起業したくて集まっている学生たちだと思うんですが、そもそも自分のやりたい事業は何だったんでしょうか?それを押し殺してキュレーションサイトやってるのか、それとも元々特になにもない?
ただ起業やスタートアップという響きにつられただけとか、ごっこ遊びがしたいだけじゃないですよね?
株式会社設立するだけなら20万くらい払って手続きすれば誰でもできますよ?
細かいことですが、ちゃんとSANGOのライセンスを11個購入しているのかも気になるところです。
ご購入者本人様が主たる所有権を有するサイトであれば、複数サイトに渡ってご利用頂くことができます。ご購入者本人様が主たる所有権を有するサイト以外でのご利用は禁止しております。
SANGOの利用規約 | SANGOカスタマイズガイド
② キュレーションサイトのレベルも極めて低い
大した考察もなくネット上の情報を組み合わせただけのサイトなので、各キュレーションサイトのレベルも極めて低い。
自分で体験した内容ではないため、オリジナルの画像は無し。
以前話題になったので画像パクリについては気をつけるよう指導があったのか、一部Amazon規約に沿わない画像引用があった気がしますが画像自体がほぼなし、あるいはフリー画像のみ。
いくつかはサイトに関する説明やプロフィールの記載がありましたが、それすらもないサイト多数。
せっかく会社を立ち上げたなら、サイトの信頼性を上げるために会社概要くらいは載せておいた方がいいですよ。
もちろん文章も特に深い考察や詳しい比較などがあるわけでもない。そもそも自分が買ったり経験したわけじゃないのでできるわけがない。
これで『数年かけて事業が順調に進めば1社数千万円規模で買収』って本気で言ってるんでしょうか。
日経新聞による報道から11日ほど経っていますが、まだ2記事しか更新していないサイトが2つ。そのうち1つは8月以来更新なし。
記事更新だけがサイト運営ではありませんが、始めたばかりの時点ではとりあえず書かないとどうにもならないのも事実。
早くもやる気に差が出てきているのかもしれません。
もっと言えば、一昔前の流行時ならいざ知らず今になって誰でも書けるようなキュレーションサイトの分野に参入するというのは、ビジネス的にもかなり厳しい。
芸能系トレンドブログなどまだまだ低品質サイトが跋扈している分野もありますが、一時期に比べるとそういったサイトのGoogle評価はかなり下げられている印象があります。今後もこの傾向は続く可能性が高い。
個性がない以上SNSやブックマークでの流入も見込みづらいでしょうから、数千万でEXITするまでの道のりは険しいと言わざるを得ません。
③ キュレーションサイト作るのに起業する必要は全くない
キュレーションサイトからの主な売り上げとしては、Google Adsenseや各種アフィリエイト、あるいはスポンサーがつくことによる収入などが考えられます。
(個性が立ったブログなら書籍出版やセミナー、サロン運営といった収益化も考えられますが、キュレーションサイトでは難しい)
これらの売り上げは、大手企業が多大なマンパワーをかけて一気に作り込むのでもない限り、サイトを作り始めたからといって一朝一夕で得られるものではありません。
一説に個人事業主から法人化する境界線であると言われる「売上1,000万円/年」を突破するのは至難の技で、もし到達できるとしても何年かはかかるでしょう。
※アフィリエイトマーケティング協会の調査によると、全アフィリエイターのうち月100万を超えるのは6.7%
つまり、今からキュレーションサイトを始めるからと言って法人設立する必要は全くない、ということです。
個人事業主からはじめて、もし売り上げが上がったり他企業との付き合いができてきたときに考えればいい。
設立費や決算書をつくるコスト、法人税の均等割など個人事業なら払う必要がないコストが無駄です。
部活の名称が起業部なので、「会社よりも個人事業主の方がいいよ」なんて指導はできないんでしょうね。
事業内容など関係なく、まず会社設立ありき。「スタートアップ11社創業!」と宣伝したいだけに見えます。
もちろん宣伝も大事ではあるんですが、特に中身のない起業をさせられた学生たちはその後どうなるんでしょうか。
④ 起業体験としての質もいいとは思えない
もしかすると、今回の11社起業は『失敗してもいいから、とりあえず起業を体験させてみる』という目的のために行われた可能性もあります。
ですが、もし起業体験というものがあるとするなら、それは役所に行って手続きするだけのものではないはず。
事業を考えて意思決定をし、資金繰りに頭を悩ませ、取引先や資金調達先と折衝をし……といったものであるべきだと思います。
少なくとも、言われたとおりにネットの情報をつまんだキュレーションサイトをつくるだけで良質な体験が得られるとは思えません。
自分でブログ書いて運営した方がまだいい。
⑤ この起業をプロデュースするポート株式会社もキュレーションサイトを運営しており、画像剽窃の前科がある
この起業劇をプロデュースしているポート株式会社も、インターネットメディア事業を主とする起業。
主な運営サイトは「キャリアパーク」だそうです。
この名前に良くない意味で聞き覚えがあったので調べてみると、画像剽窃で以前話題になったサイトでした。
Facebook のタイムラインを見ていたら、見覚えのある写真が出てきました。
美人×麦酒の樹理さんの写真が使われている… しかも、タイトルは…
【まるで女優!?】キレイすぎると話題の「美人広報」TOP10(中略)
ビールブログにも無断転載はお断りしますって書いてるんですよ、一応。どういうつもりなんですかね、CareerPark! さん。
CareerPark! に写真を無断転載された | 乾杯おじさん
キャリアパークのやっていた直リンクというのは
そのリンク先を他人のサイトの画像に設定することなんですね。
そうすると他人のサイトの画像がキャリアパークの記事内にも表示される、
という仕組みなんです。
私の記事を盗作した「キャリアパーク」に鉄槌が下った件 | 考える葬儀屋さんのブログ
「完全に間違っているとはいえないが、正確性に乏しい」内容の記事をでっちあげるくらいなら、経験者や現地学生にきちんと取材してから記事を書けばいいと思うんですが。「キャリアパーク!」さん、どうですかね。
剽窃だらけのインチキサイト「キャリアパーク!」の留学情報が爆笑ものだった – エストニア共和国より愛をこめて
他サイトから画像をパクったり、引用の範囲を超えて文章をつぎはぎリライトしてつくったキュレーションサイト。3年くらい前に流行りましたね。
(画像剽窃は以前かなり話題になったこともあり、現在は控えている様子)
つまり、低品質キュレーションサイトを自ら作っていた前科がある会社なわけです。
ポート社の言う『同社がこれまでのインターネットメディア運営で蓄積してきたノウハウ』とは、紛れもなくこの低品質キュレーションサイトの作成ノウハウのことでしょう。
もちろん、前科があろうが気持ちを入れ替え再出発しているなら応援したい。
ですが3年ほどの時が経ち、実際には自ら手を出さずに学生たちに同じことをやらせようとしている。なんということだ。。。
⑥ 1社あたり50万ではほとんど何もできないのでは?出資比率も気になる
ポート社は、1社あたり50万円の出資をしたとのこと。
11社のスタートアップを設立し、ポートが1社あたり50万円出資した。
九州大の起業部、スタートアップ11社創業: 日本経済新聞
50万円は一般人の家計からすれば大きな額ですが、会社としてはほとんど何もできない程度の金額にすぎません。
株式会社の設立に約20万かかるし、ブログ書くためのパソコン買ったら15万くらいかかるかな?
会計や決算書の作成費用は?まさか自分で全部できるなんて人はいないでしょうし。
法人税の均等割の合計71,000円/年は?
会社をたたむ場合の費用は?
ポート社さんはどこまで払うんだろう。まさか学生の自腹?
※ちなみに、九大起業部の部費も年10,000円必要
設立時の各社に対するポート社の出資比率も気になります。まさか50万円ぽっちで過半数の株を握っている、なんてことはないと思いますが。。。
もしそうなら、たとえ学生社長さんが儲けたとしても会社はほとんどポート社のものなので以下略。
持ち株比率が33.4%(3分の1)を超える株主に認められている権限
株主総会の特別決議を単独で否決する権限
持ち株比率が50%(2分の1)を超える株主に認められている権限
株主総会の普通決議を単独で可決する権限(会社法309条1項)
→ 取締役の選任、解任をはじめとして、会社の意思決定のほとんどを自ら行うことができる。
持ち株比率が66.7%(3分の2)を超える株主に認められている権限
株主総会の特別決議を単独で可決する権限(会社法309条2項)
以下のようなものが挙げられます。
● 自己株式の取得に関する事項の決定
● 募集株式の募集事項の決定
● 事業譲渡(会社法467条1項)
● 合併や会社分割といった組織変更の決定
持ち株比率の重要性 −株主の権利
ポート社は、事業が順調に成長すれば1社数千万円規模で買収するそうですが、成長したら買収される前提なのもおかしな話。
うまくいったけど買収されずに引き続き自分で続けたい、という選択肢は取り得るんだろうか…?株を一定比率以上持たれてたらもうどうしようもないですが。。。
ポート社員が事業を支援する。追加出資を検討するほか、情報サイトの運営ノウハウを提供する。数年かけて事業が順調に進めば1社数千万円規模で買収する
九州大の起業部、スタートアップ11社創業: 日本経済新聞
結局のところ、
『1社50万ポッキリでうまく儲かれば事業に組み込む。うまくいかなくてもノウハウは貯まるし宣伝になるからいいや』
くらいの感覚なのでは……?と勘ぐってしまいます。
起業家に憧れる学生たちを釣って労働力を搾取する大人……みたいな構図に見えてきますが、どうなんでしょうか。
あとがき
福岡のベンチャーや起業を志す人達の足を引っ張りたいわけでは決してありません。
例えば病理診断支援ソフト開発の「メドメイン」のような、素晴らしい理想を持って活動されている九大発・九大起業部所属の会社も出てきているようです。
こういった企業はもちろん応援したい。
ですが、外から見える情報だけから言っても、今回の「11社同時創業(低品質キュレーションサイトで)」の話はいろいろ酷い。九大出身のいち個人としてとても悲しく恥ずかしいです。
福岡市ではベンチャーの起業・創業を積極的に支援しており、それ自体はとても素晴らしい取り組みなのですが、このようなスタートアップとは名ばかりで中身のない会社をカウントして「起業家増えました!」などと言ってほしくない。
まさかこれで11社分の補助金が出るとか、実はそれを狙ってましたとか、そんなオチではないと信じたい。
私自身は関係者ではないため、現時点で確認できる情報から推測した内容も含まれます。
もし認識違いなどがあれば、ご指摘ください。
今後九大起業部が少しでもよい方向に向かうことを祈っています。
※ここまで書いてきましたが、面倒事は嫌いだし載せ続けるメリットはないので何か言われたら消すかもしれません。そのときはお察しください。