挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
生々流転で始まる異世界放浪ろまん譚~勇者パーティーから排除されたので最強ギフトで無双します!~ 作者:水辺野かわせみ

第一章 エルレイン王国編 召喚

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
14/155

【第14話】どっちを選ぶの?

「……ごめんね、僚ちゃん。約束、守れなくて……」


 消え入りそうな声で美亜が言った。


 僚はもう殆ど力の入らない美亜の右手を包む、自分の両手に力を籠める。まるでそうする事によって、命の力を吹き込むかのように。


「なんで謝るんだよ……美亜が元気になれば、ちゃんと約束守れるよ……」


 それは、僚が美亜についた最後の嘘。


 美亜は笑った。病の苦しみに歪んだ顔ではなく、最愛の人に自分の笑顔を覚えておいてもらう為に。


「僚ちゃん……やっぱり僚ちゃんは優しいね」


 美亜の命の火は、既に消えようとしていた。


「ねえ僚ちゃん。お願い……もし生まれ変わっても、また私と出会ってね……また私を好きになってね…………私も僚ちゃんを探すから、絶対さがして、そして好きになるから……だからお願い……」


 美亜はその目に最後の力を込めて僚を見つめる。


「ああ約束する。絶対、絶対、美亜を探すから、だから……」


「……ありがとう…………僚……ちゃ……ん」


 僚の掌に包まれた美亜の手が、握り返してくる事はもう無かった。






 中庭を見下ろす廊下の窓枠に手を置き、僚はぼんやりとそこから見える景色を眺めていた。


 人工的な中庭の造形と遠くに見える山々との対比は、まるで現実と幻想の中で揺れる自分の心を映しているようで、そして何故か懐かしいものを見つけられるような気がして、飽きさせる事が無かった。


 だがいつまで眺めても、探す答えを見つけられる筈もなく、僚は大きな溜息を零す。


「考え事ですか?」


 不意に聞こえた背後からの声に振り向くと、そこには書類の束を小脇に抱えたパティーユがにっこりと笑っていた。


「パティ……」


「はいっ、おはようございます。久しぶり? ですね、僚」


 久しぶり、と言えるかは微妙だが、確かにこの3日程顔を合わせていなかった。それによく見るとパティーユの目の下には、化粧で隠してはいるものの薄っすらとクマが浮かび、どこか疲れたように見える。


「大丈夫? パティ。あんまり寝てないんじゃ……」


 あれからパティーユは、勇者たちに掛けられた状態異常を解除する為、それこそ不眠不休で原因の解明にあたっていた。


「平気ですよ、これでも徹夜には慣れて……」


 と、勢いよく胸を張ったとたん、軽い眩暈がしてよろけてしまう。


「パティ!」


 僚は慌ててパティーユの両肩に手を添え支えた。


「本当に大丈夫? 少し休んだ方が……」


 パティーユは返事をせず、そっと僚の胸に顔を埋める。


「あ、あの……パティ?」


「……暫くこのままで……大丈夫、誰も見ていません……」


 そう言ってぴったりと身を寄せるパティーユと、突然の状況にどう対処していいのか分からず、ただあたふたと焦るだけの僚。


 それから1~2分が過ぎただろうか、パティーユはそっと身体を離し顔を上げた。


「はぁ、3日振りに僚の顔も見られたし、これで元気になりました……」


 パティーユは上目遣いに僚を見つめ、


「でもね僚……こういう場合、両手は背中にまわすものです」


 僅かに頬を染めていたずらっぽい笑みを浮かべる。


「……え?」


「まあいいです。今日はこの後皆さんで街を見に行くのでしょう? ゆっくり楽しんできて下さいね」


 パティーユは書類の束を胸に抱え直し、ぱたぱたと走り去っていった。


 それは彼女の照れ隠しであったのかも知れないが、僚がそれに気付く事は無かった。






 エルレイン王国をはじめ、三大王家と呼ばれるアルフォロメイ王国、ビクトリアス皇国の礎を築いたのは、1200年前の4代目勇者であると言われている。


 現に各王家には4代目勇者の手記が数多く残されており、それが事実である事を証明していた。


 ただ、それ以前である3代勇者までは、紙が発明される前という事もあり、石板等に刻まれた碑文しか残っておらず、故に、彼らの存在ははっきりとせず、神話やお伽話で語られるのみであった。


 今回、パティーユがエマーシュらに命じたのは、遺跡から集められた碑文の解読であった。


 エルレイン王国で発見された遺跡は、生活にかかわる建物跡や生産にかかわる製鉄遺構、更には神殿や祭祀遺構など信仰にかかわるものなど、他国に比べると数も多く良好な状態で残されていたが、本格的な発掘や調査などは行われておらず、ほぼ手付かずのままだった。


 数多くの碑文の中で、エマーシュが着目したのは3代目勇者に関する記述であった。


“ 神と戦った勇者 ”、あるいは“ 神を滅ぼした勇者 ”


 神と戦い、神をうち滅ぼしたと伝えられる3代目勇者はその行いから、“ 反逆の勇者 ”と呼ばれる事もあり、異彩を放つ人物であったとされる。


 ただ彼が戦った神とは、異形の悪神だとする伝説も残されていて、そもそも実在さえ怪しまれている存在の1人である。


 エマーシュにも確証があった訳ではない。 


 研究棟に持ち込まれたまま、埃にまみれ無造作に積まれた碑文の解析にあたって3日。遂にエマーシュは探していた答えを見つけた。


「……これはっ……」


 但しその答えは、望んでいたものとは正反対の、受け入れ難い事実だった。


「……こ、これでは……殿下は…………あまりに……」






 人目につかないよう、ひっそりと王城を出た直斗たちは、王都の中心にある貴族街を商業区のある東へ向かって歩いていた。


 森での訓練の時はいつも馬車なのだが、今日はみんなでゆっくり散策する為、馬車での送迎を断ったのだ。


「すごいね……こんなお家住んでみたいよ」


 有希が貴族街でも一際豪奢な屋敷を眺めて、溜息まじりに呟いた。


「ここは確か、エストラウド公爵家のものですね」


 恵梨香が、以前移動中の馬車の中で聞いた説明を思い出して言った。


 意匠を凝らした立派な門構えに屋敷を取り囲む装飾を施された塀は、現代の日本では見る事のない優雅さを醸し出している。


「どれもこれも、俺の住んでる養護施設の何倍もひろいですよ」


 僚は驚きを通り越し、呆れ半分と言った様子で肩を竦めた。


「王城の俺たちの部屋なんて、広すぎて未だに落ち着かないからなぁ」


「ほんと、ファンタジーだよねぇ」


 直斗は誰に言うともなしに呟いたが、ほのかがそれに答えるようにこくこくと頷いた。

 綺麗に舗装された石畳の道路に整然と並んだ街並み。


 均等比率左右対称に建てられた建築物は、整数比率の正方形と丸型を基調とし、バイフォレイトと呼ばれる双子窓が並んでいる。


「わたしたちの世界で言う、ルネサンス様式に似てますね……ああ、バッテリーが残っていれば……」


 恵梨香が残念、とばかりに溜息を漏らす。

 こちらにきて3週間、もう既にスマートフォンのバッテリーは空になっていた。


「写真、撮りまくっちゃったもんね……」


 有希はがっくりと肩を落とす。


 物珍しさに、皆躍起になって写真や動画を撮りまくった。そして気付いた時には全員のスマートフォンがバッテリー切れで使用不能になった。もう少し冷静になっていれば、と思ったものの後の祭りである。


 なんとか魔力で充電出来ないかあれこれとやってはみたが、今のところ上手くいっていない。


「あ、ほら。門が見えてきたよ」


 ほのかが、その場の空気を変えるように指さした先に、貴族街と商業区を分ける門が見えた。


 華麗な装飾が施された門は華奢な造りではあるが、緊急時には魔力による障壁を張る事が出来る。


 その門をくぐった先の商業区にある広場で、ささやかなお祭りが開催されている。直斗たちの今日の目的はそのお祭りだった。


 いや、直斗たちの、と言うより女子たちの、と言った方が正しいだろう。実際僚も直斗も祭りにはそれ程興味はなく、彼女たちへの付き添いぐらいの感覚だった。


「ほら僚くんっ。今日は楽しもうね」


「珍しい屋台も出てるらしいよ、行こ、僚君」


 それぞれほのかと有希に左右の手を取られ、駆けだした2人に引きずられるように走る僚。


「ついにあの2人にも春が来たか……」


 直斗が、3人の様子を眺めしみじみと呟いた。


「明日見さん、どっちを選ぶでしょう」


 恵梨香は頬に手を添えて首を傾げる。


「……う~ん……っていうか、まだそんな段階じゃないだろ」


「それもそうですね、今はまだ、楽しめればいいですね」


 直斗と恵梨香はお互いの顔を見て、まるで子供の成長を見守る両親のような笑みを浮かべた。


 5人はつかの間の休息を心行くまで楽しんだ。




 


下記のサイト様のランキングに参加しています。
よろしければクリックをお願いします。

小説家になろう 勝手にランキング
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。