クローズアップ現代

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No.32802012年11月28日(水)放送
“ジャパンプレミアム”を解消せよ ~密着 LNG獲得交渉~

“ジャパンプレミアム”を解消せよ
~密着 LNG獲得交渉~

高騰するLNG価格 ねらわれる日本

アジアのLNG取り引きの中心地、シンガポール。
LNG取り引きの最新情報を提供している会社です。
東日本大震災のあと、日本に関する情報のやり取りが急増しています。

「日本企業が12月にLNGを購入するかもしれないということですか。
どの企業なのか教えてくれませんか?」

日本市場にLNGの売り込みを図る業者も相次いで訪れています。

「日本の原子力発電所の再稼働問題は、今後どうなるのでしょうか?」

「原発停止が続いた場合、大量のLNGが必要になるのは間違いありません。」

この販売業者はヨーロッパのおよそ1.5倍の価格で日本へ売り込めると見ています。

LNG販売会社
「LNG価格がどんなに高くても日本企業は買ってくれるのですから、売り手が日本市場から貪欲に利益を上げようとするのも無理のないことです。」

LNG価格を下げろ 電力会社の戦略

LNG価格の高騰は、日本の電力会社の経営を圧迫しています。
震災以降、発電の60%をLNG火力が占める中部電力。
昨年度、燃料費は3,000億円余り増加しました。
当面、電気料金を値上げしないとしていますが、昨年度の決算は創業以来、初めての営業赤字。
今年度も赤字が続く見通しです。

中部電力 水野明久社長
「非常に厳しい状況だと受け止めています。
(LNGを)安く購入できるかは非常に収支に影響を与えるので、経営の最重要課題のひとつです。」


日本でLNGが本格的に利用されるようになったのは、1970年代の石油ショックがきっかけでした。
原油に代わる燃料として輸入されたため、その価格は原油価格をもとに決められることになりました。
原油価格は2000年代に入ると投機マネーの流入で高騰。
これにつられて、当初は割安だったLNGも値上がりが続いているのです。

東京都内で先月(10月)開かれたパーティーです。
会場の入り口に日本の電力会社や商社などの関係者が長い列を作りました。
主催したのは、中東カタールの国営ガス会社、カタールガスです。

「お会いできて光栄です。」

カタールは今や、日本にとって最大のLNG供給国です。

「ウエルカム!」

特に中部電力は、LNGの60%以上をカタールから輸入しています。
LNGを輸入する企業は、必要な量を安定して確保するため、ほとんどが20年以上の長期契約を結んできました。
中部電力は、数年ごとにカタール側と価格見直しの交渉を行っています。
LNGの価格は、原油価格に需給の予測などを見越した数字をかけて決められます。
今、この数字を見直すことで、価格を引き下げようとしているのです。
中部電力は、カタール側の要人が来日した機会などを捉え、交渉を重ねています。

中部電力 垣見祐二専務
「石油価格が高くなると、それにつられて同じようにLNG価格も上がってしまう。
連動の仕方をゆるやかにするのは、重要な交渉上のポイントだと思います。」

カタールで長年、日本との交渉を取り仕切ってきたアッティーヤ元エネルギー工業相です。
値下げに応じるのは難しいといいます。

カタール アッティーヤ元エネルギー工業相
「LNGは石油など他の燃料と比べて、きわめて割安です。
これは取引です。
価格の決め方に文句を言っても仕方がありません。」

カタールとの交渉を有利に進めるために、中部電力は今、より安いLNGの確保に乗り出しています。
その舞台となるのがアメリカです。
ここ数年、掘削技術の進歩によって天然ガスの供給量が急増。
価格が大幅に下落し、日本向けのLNG価格のおよそ5分の1になっています。
中部電力は、日本のガス会社と共同でアメリカで独自にLNGの生産に乗り出すことにしました。
生産体制が整うのは2017年です。
こうした安いLNG調達の実績を積み重ね、カタールとの価格交渉の切り札にしたいと考えています。

中部電力 水野明久社長
「もう少し時間はかかりますけども(アメリカ産LNG調達)によって、多様な(価格)指標を取り入れていくことが大切ではなかろうか。
全体の交渉力を高めていく努力をしていこうと考えます。」

“ジャパンプレミアム”高騰するLNG調達コスト

ゲスト野神隆之さん(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)

●なぜ交渉力がこれほどないのか

これは、日本の天然ガスの調達というのが、ほぼ100%LNGによって賄われているという、そういう構造があるからでございます。
ヨーロッパなんかですと、例えばイギリス、それからノルウェー、それからオランダといった域内の天然ガス、それからロシアからパイプラインの天然ガス、北アフリカからもパイプラインの天然ガス、さらにLNGということで、天然ガスにおきましても、供給源が多様化されているわけですね。
そういうことで、いろんなところでの供給のオプションというのが組めるということのわけなんですけれども、日本の場合はLNGのみということになっているわけであります。
しかも、LNGの市場といいますのは、かなり寡占化をしておりまして、売り手がかなり限られているんですね。
そうしますと、例えば、ある売り手と交渉していて、うまくいかないと次に行くんですけれども、そういったオプションは結構限られてしまうわけで、そうなると最終的には飲み込まざるをえないと、売り手の言う価格というのを飲み込まざるをえないということになってしまうんですね。
そういう意味では、やはり日本も、例えばカタールみたいなところから価格交渉上、足元を見られているという格好になっているわけであります。

●アメリカに比べ、4倍の価格差

実は、2008年ぐらいまでは、アメリカ、ヨーロッパ、それから日本というようなところの天然ガス価格というのは、大なり小なり似たような動きをしていたわけですね。
ところが、アメリカでシェールガスが増産され始めた、これが認識広がったのが、大体2008年の終わりぐらいから2009年の前半ぐらいにかけてなんですけれども、その辺りから、どうもアメリカは、シェールガスの増産というのが、一時的な現象ではなくて傾向であるというような認識が広がったものですから、アメリカのガスが下がったままになってしまった。
一方で、原油価格につきましては、アメリカやヨーロッパ、それから中国の景気刺激策というようなものでもって、経済が回復して、需要も回復するだろうという期待感が市場で広がったことで、原油価格が戻ってってしまった。
回復したんですね。
そうすると、日本の天然ガス価格というのは、原油価格に連動しておりますものですから、どうしても天然ガス価格が原油価格に連動して、上がって行ってしまったという、そういうようなことがございます。

●もっと早く交渉に取り組んでこなかったのか

やはり日本の場合は、LNGについて、国内に資源がなかったということもございまして、供給の安定が第一ということで、例えば電力会社さんなんかは、例えばLNGを輸入してきてそれがたとえ、高い価格であっても供給が第一ということで、高い価格を消費者に転嫁をしていくというようなことで、それでよしとするといったようなことがあると、そういうような体制だったということは、否定できないということであります。

●努力を怠った背景にあるのは

そのような体制に加えまして、地域独占というようなことであったというようなことも、なかなかこの価格交渉に対するインセンティブを働きづらくさせていたというような背景にあろうかと思います。

急増する世界のガス需要 争奪戦の現場に密着

先月、ロンドンでガス関連企業が集まる世界で最大規模の見本市が開かれました。
世界各国からおよそ400社が参加。
天然ガスの買い付けを巡る交渉が会場のあちこちで繰り広げられました。
ひときわ大きな存在感を示したのがインドや韓国などアジアの新興国です。

インドのガス会社
「膨大な量のLNGが必要になるでしょう。」

韓国の専門家
「さらに1,000万トン以上のLNGの需要を見込んでいます。」

会場には日本のガス会社の姿もありました。
大阪ガスの燃料調達チームです。
より安くLNGを購入するために狙っているのが、これから生産を開始する新しいガス田です。
しかし、行く先々で中国やインドなどライバルの企業の攻勢にさらされているといいます。

「(中国やインドは)買うときには一気に条件を気にせず大人買いというか。」

「最近やっぱり、中国もインドも韓国も上流から入り込んで、どかんと買う準備を進めているんで。」

調達チームのリーダー、揚鋼一郎さんです。
ライバルの新興国に対し、情報の収集力と交渉のスピードで対抗しようとしています。

大阪ガス 資源トレーディング部 揚鋼一郎ゼネラルマネージャー
「思い切ってリスクを負ってでも買いに来るバイヤーは必ずいますので、常に保守的になっていると、常に負けるということになりますので、自分として各プロジェクトを評価したうえで早いタイミングで意思決定していかないといけない。」

ライバルに気付かれずに短期間で契約を、どうまとめるか。
交渉相手などについての情報を明らかにしないという条件でチームに同行することができました。

「ほぼ合意の直前に向けた状況に来ていると思っております。
8合目、9合目ぐらいですね。」

「かなり厳しい価格提案を出しているんで、決裂しないようにそこをうまくやらないといけない。」

大阪ガス 資源トレーディング部 山田高司さん
「なかなかむこうも簡単には受け入れてはくれないところもありますけれども、引き続き妥協せずに協議したい。」


大阪ガス 資源トレーディング部 揚鋼一郎ゼネラルマネージャー
「新しい地域からの供給。
それから新しいプレイヤーからの供給。
こういった流れを我々として積極的に捕らえていって、価格面でも供給を増やすという意味でもこのトレンドをさらに大きくしていく。」

天然ガスの需要が急増していることを受けて今、世界では新たなガス田が次々と開発されています。
そうした地域の一つアフリカのモザンビークです。
2年前、世界最大級のガス田が発見されました。
このガス田の開発に、いち早く乗り出したのが日本の大手商社、三井物産です。
大きな権益を確保するには、多少のリスクを冒しても、開発の段階から参加することが重要だといいます。

三井物産 モザンビーク事業部 丸山泰央さん
「いろんな国で資源獲得競争が激化しているもんですから、やはり常に新しい所に挑戦していくというのも、我々のひとつの命題として常に取り組んでいます。」

人口は2300万余り。
国民の8割が農林水産業に従事するモザンビーク。
商社の担当者は、国営の資源開発会社などにLNGを生産するための技術やプラント運営のノウハウなどを一からアドバイスしています。

「(人材育成など)戦略的なパートナーとしての支援に感謝しています。」

「LNGのプロジェクトを成功させるためには、資金調達と販売先の確保の両方について今からしっかりと議論していきましょう。」

三井物産 モザンビーク事業部 剱弘幸部長
「国との関係を常に密接に友好に保ちつつ、双方にとってメリットある形での開発を実現していく。」


しかしここ、モザンビークでも、アジアの新興国の企業が相次いで進出を始めています。
特に力を入れているのが韓国です。
国営のガス会社がモザンビークに拠点を設け、本格的に開発に乗り出しています。

今年7月には首相がモザンビークを訪問。
ガス田開発への協力を約束しました。
来年にも入札が行われる見通しのガス田には、韓国以外に中国やインドなどほかのアジア諸国も進出を狙っているといいます。

モザンビーク炭化水素公社 オクアネ総裁
「さまざまな国が私たちに接触してきています。
中国は特に興味を持っていますよ。」

先月下旬、経済産業省の幹部が現地を訪れました。
日本としても、技術支援や人材育成などを行う考えを示し、ガス田開発が円滑に進むようモザンビーク政府に働きかけました。
新たな天然ガスの獲得を巡る競争は、各国の政府も巻き込んで激しさを増しています。

激化するガス争奪戦 日本の戦略は

●日本はどうすれば勝てるのか

日本はまず、LNGにつきましては、非常に大きな市場を持ってるわけですね。
買い手としては非常に大きいというわけであります。
それからもう一つは、このエンジニアリング、LNG基地を作る、そういった能力が非常に高い、そういった企業がいくつかございます。
そういったところがございますので、例えば開発、生産、それから液化、輸送、それから市場までといったようなものを、一つのパッケージにして、そういったところを国が、例えば資金支援をしながら、産ガス国政府に提示するというようなそういったような選択肢というのはあるんではないでしょうか。

●安定確保に向けて、何をすべきなのか

何がなくてもやっぱり供給源の多様化といったものは必要かと思います。
一つはアメリカですね、ここもまだ実は、日本のこの会社さんが出て行ってますけれども、承認はされてません。
承認されてるのは1つだけでございまして、ほかのプロジェクト、液化プロジェクトにつきましては、最速でも2017年ということでございます。
承認されてるプロジェクトは取れてません。
それ以外のプロジェクトになっています。
しかもアメリカ政府は、液化プロジェクト、ないしは輸出ですね、そういったものに対して許可を出すかどうかは分かりません。
でも、そこで手をこまねいているという、そういう策もございません。
やっぱり積極的に出ていくべきだということになるわけですね。
それから、あとロシアというようなものがございます。
ロシアは西側に現在、この天然ガスが売りにくくなっていますので、では、東側に出すといったようなこともあります。
それから石炭と天然ガスの競争で、ヨーロッパでは石炭のほうが勝ってしまって、天然ガスの需要が落ちているというようなことがあるわけですね。
ところが、実はロシアから日本にはやっぱりちょっとインフラが足りないと、パイプラインにしろ、LNGにしろ、インフラを整備しなければならない。
しかし、需要がない所にインフラはなかなかできませんので、そこで日本が、これだけの市場がありますというようなことで、では、インフラを作ってくださいというようなこと、ないしはインフラを作りませんかというようなことで、持ち込むといったようなところもあるわけですね。
それからあとは、石油天然ガスの油ガス田の権益といったような側面、天然ガスの権益ですけれども、そういったものを電力会社、ガス会社といったようなものが積極的に取っていくといったことも一つの選択肢ではないかなと思います。
それがカナダとかオーストラリアとか、そういった所っていうのが、潜在的にはありうると思います。

●LNGだけに頼っていて大丈夫なのか

実は多様化といいますのは1つのエネルギー源の多様化以外にも、複数のエネルギー源での多様化というのも必要なわけですね。
天然ガス以外に例えば石炭、それから石油とそれから、省エネルギーというのは、マイナスの意味での供給源の多様化ということなわけですけれども、そういったものを含めて考えていくといったことが必要になるわけです。

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