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生々流転で始まる異世界放浪ろまん譚~勇者パーティーから排除されたので最強ギフトで無双します!~ 作者:水辺野かわせみ

第一章 エルレイン王国編 召喚

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【第6話】初めての実戦

「いたぞ、みんな隠れろ」


 直斗は小さな声で、全員に身を低くするよう左手で合図した。

 後に続く4人が、直斗に倣って低木の陰に身を潜める。


「……あれ、ゴブリンですかね?」


 直斗の隣に進んだ僚が前方の生物を見て囁く。


「わ、キモっ」


 二人の後ろで、思わず声を漏らした有希は慌てて口を両手で塞ぐ。僚と直斗は人差し指を口元に当て、全く同じタイミングで振り返った。


“ 静かに…… ”


 有希は口を塞いだまま、何度も頷く。


 今見つかるのは避けたい。


 ここにいる五人全員がそう思っていた。


 この世界に召喚されて二週間。剣術や魔法の訓練を受け、戦う為の基本は習得した。そしていよいよ次のステップへ進む。


 実戦訓練である。


 エルレイン王国、王都の北に位置するシャールと呼ばれるこの森は、出現する魔物もゴブリンやフォレストウルフといった低級のものが多く、駆け出しの冒険者たちにとって格好の狩場となっている。


 初めて見る魔物。


 直斗達は緊張の面持ちで息をひそめる。


 目の前にいるのはゴブリン、身長120~130cm程の人型の魔物だ。

 皮膚は緑で張り艶が無く、真ん中に窪みのある歪な禿た頭に尖った耳と顎。顔の大きさに比べ異様な大きさの鉤鼻。真赤な目に牙の覗く口。

 その姿は、元の世界では目にする事のない醜悪なものだった。


「……どうやる?」


 直斗がゴブリン達から目を離さず言った。


 敵の数は5体、それぞれこん棒や、錆の浮いた剣を手にしている。

 最下位にランクされているゴブリンだが、戦う術を持たない一般人にとって、出会えば命の危険のある魔物だ。


 勇者といえ実戦経験のない直斗達ならば、油断していい相手ではない。


「……まともに行かない方がいいでしょうね」


 僚が応える。

 初めての戦闘で誰にも怪我を負わせたくはない。僚は、相手との位置関係を観察しながらそう思っていた。


「穂積さんと葉月さんに先制してもらって……」


「俺と明日見と有希で接近して殲滅……」


「二人の射線を塞がないように」


「だな」


 僚と直斗が頷きあって剣を抜く。


「恵梨香、ほのか、奴らの真ん中を狙って弓と魔法をぶっ放してくれ」


「わかりました」


 恵梨香が静かに矢筒から矢を取り出す。


「うん」


 ほのかは囁くような声で呪文の詠唱を始める。


「俺は左から、明日見と有希は右から頼む。タイミングを合わせてな」


「オッケー」


 有希が手甲を装着した拳に力を籠める。


 ゴブリン達はまだこちらに気付いていない。


「3……2……1……いくぞ!」


 直斗の合図とともに恵梨香が矢を放つ。


「疾風!」


 風の属性をのせた一撃。


「闘志の炎、十六夜の空に飛散せよ……フレアバレット!」


 ほのかが叫び拳大の火球が飛ぶ。


 同時に直斗、僚、有希が左右から飛び出す。


 一体のゴブリンの頭を恵梨香の矢が貫く。


 火の魔法がもう一体の胸を穿ち燃え上がる。


「うおおおお!」


 持前のスピードで先行した僚が、残りの群れに飛び込み一体を切り伏せる。


 残り二体。


「こっちもいるぞ!」


 直斗が叫び二体のゴブリンの意識を向けさせる。

 振り向いた一体を横薙ぎに両断する。


 あと一体。


 混乱し逃走を図ろうとした残り一体の腹に、有希が走りざま炎の属性を乗せた突きを叩きこむ。

 吹き飛んだゴブリンはぴくりとも動かない。


 終わった。


「はぁはぁ……」


 僚、直斗、有希の三人はその場で座り込み激しく息を切らした。


「うっ」


 有希が蒼白な顔で口を押さえ木の陰へ走っていく。


「有希ちゃん」


 ほのかが、うずくまった有希のそばへ駆け寄る。


「大丈夫ですか?」


 恵梨香は僚たちの前に屈みこんだ。


「まだ……手が震えてる……」


「俺もです……」


 僚と直斗は剣を置き、お互い震える自分の手を見つめていた。


 初めて生き物を殺した。


 しかも魔物とはいえ人型の生き物だ。


 戦闘中はそれこそ無我夢中で、ただ相手を倒す事だけしか考えていなかった。


 しかし……。


 手には肉と骨を断つ感触が明確に残っている。

 敵を倒した高揚感と、生き物を殺した嫌悪感がないまぜになって酷く気分が悪い。


「俺も吐きそうだよ」


「……分かります……」


 木の陰にうずくまり、ほのかに背中をさすってもらっている有希。

 剣を使う僚や直斗と違い、有希はミスリル製とはいえ手甲を付けただけの拳で直接殴ったのだ。


「大丈夫かな、高科さん」


 僚は有希をちらりと見たが、すぐに視線を戻した。

 あまり見ない方がいい、有希も見られたくはないだろう、そう思っての判断だった。


「大丈夫、何日か夢でうなされるぐらいだよ」


「……それって俺たちも、でしょ」


 僚が口元を緩め、直斗が頷く。二人は声を殺して笑った。


「本当に大丈夫ですか? 青い顔をしてたと思ったら、いきなり笑い出して……」


 恵梨香は眉をひそめて首を傾げた。


「俺たちはもう大丈夫だ、それより恵梨香は平気か? あと、ほのかも……」


 直斗は目の前の恵梨香と、有希の隣にしゃがんだほのかを交互に見た。


「わたしたちは……平気です。日向さんたちと違って直接……」


「ああ、距離があったからな」


 言い淀んだ恵梨香をフォローするように、直斗が応える。

 実際直斗の言った通り、弓と魔法で離れた距離からの攻撃だったため、あまり実感が湧かなかったのだ。


「なかなか、見事な戦いぶりでした」


 低木を掻き分けて現れたのは、僚たちの剣術指南役のレスターだった。

 レスターは他の教官役の者たちと共に、一定の距離を保ちながら付いてきていたのだ。

 勿論、直斗たちもその事を知っていた。


「冷静な判断、的確な作戦、さらに全ての敵をそれぞれ一撃の下に屠る……初めての戦闘でこれ程とは……いや、たいしたものです」


 レスターは、細い目を更に細め何度も頷く。


 多少心に引っかかるものは残った。が、誰も怪我をしなかったのだ、及第点以上と言っていいのだろう。


「我々はまた、少し離れた所で付いていきます、では」


 レスターは軽くお辞儀をして、現れた時と同じく低木を掻き分け去っていった。


「じゃあ俺たちも行くか」


 胃の中をすっかり空にした有希が戻った後、僚たちは再び森の中へと進んだ。


 途中、何度か魔物の群れに遭遇したが、どれも危なげなく対処出来た。

 ゴブリン以外にも、湿気の多い場所に生息するスライム(僚たちが想像していたのは、ぷよぷよの丸いやつだが、実際は巨大なアメーバといったところ)。


 アルミラージと呼ばれる一角ウサギ。これは中型犬ほどの大きさで額に長く尖った角があり、ウサギと名が付いているが、肉食で非常に獰猛な魔物である。


 ただし、二種ともゴブリンと同じく最下級のランクで、襲撃方法も単純なため戦うというよりも狩りに近かった。


 そう考えると、魔物を殺す、という嫌悪感も徐々に薄れて軽くなり、初めの頃よりは冷静に戦えるようになった。


 ただ、一度ゴブリンに不意を衝かれた時、有希は焦ってしまい咄嗟に動くことが出来なかった。それは恵梨香とほのかも同じで矢を番える暇も、呪文を詠唱する暇もない状況に陥ってしまった。


 この時は、ほぼ条件反射で動いた僚が有希を庇い、僚の作った僅かな好機をついた直斗が、襲ってきた二体のゴブリンを倒し事なきを得た。


「さっきはありがとう」


 森の少し開けた場所で昼食をとり終え、車座に雑談を交わしている時、有希が僚の隣に座りぺこりと頭を下げた。


「あ、はい」


 勝気な見た目と違い、有希は意外に素直だったり涙脆かったりする。


「怪我……大丈夫だった?」


 有希を庇った時、僚は左腕に傷を負った。大して深い傷でもなく、随行していた治癒術師からすぐに治療を受けたので、心配するほどの出血も無かった。


「大丈夫、気にしないで」


 僚は傷のあった左腕を軽く叩いてみせた。


 袖は破れたままだが、生活魔法(洗浄)によって血の跡もきれいに洗い流されていた。


「うん、ホントありがとう」


 あれからずっと俯いていた有希の顔に、やっと笑顔が浮かんだ。


「明日見君って、けっこうたらし(・・・)だったりする?」


 有希が横目で見る。


「え? なんですか?」


 僚は意味が分からず聞き返した。


「ぷっ」


 直斗が噴き出すと、それにつられて恵梨香とほのかもくすりと笑った。


「明日見くん、自覚ないんだねぇ」


「咄嗟の判断力はずば抜けているみたいですけど……」


 僚は眉を細め首を捻る。


「……咄嗟の判断力……ですか?」


 僚の問いに直斗が頷く。


「うん、冗談抜きにそれが明日見の能力じゃないかな。瞬間的な洞察力と判断力、スキルとか関係無しにね」


 直斗の言葉は、その後すぐに実証される事となった。





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